もう恋なんてしない

第108話 お姫様抱っこ

「なるほど。シュウ、お前が成金さんを呼びに行ったのか」
シュウは飛鷹に睨まれるとすぐ、サッと成金の後ろへ。

呆れたように溜め息をついた飛鷹が
「悪い。俺が席を外したばっかりに怖い思いをさせたな。大丈夫か？」
沙那をスッとお姫様抱っこで包み込む。

「飛鷹さ…ん」

やさしくてあたたかい飛鷹の腕に包まれた瞬間、一気に視界がぼやけた。

ギュッとしがみつく沙那の頭を撫でながらあらためて飛鷹がアンを睨みつける。

そっか…。
彼氏って、こういう感じなのかな？

こんなふうに本気で心配してもらったりやさしく抱きしめてもらったりしたことがなさすぎてわからないけど、いま、すごく大事にされている気がする…。

不思議。
飛鷹さんの言動はいつも心の中までやさしく抱きしめてくれる。

だからかな？
あんなに怖い思いをしたのに、飛鷹さんの腕に包まれているだけですべてがなかったことみたいに恐怖も不安も溶かされてく。

どうしたらいい？
私、飛鷹さんのこと、どんどん好きになっていく…。

「案内係が大変な粗相を…。ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」

成金は飛鷹と沙那に深々と頭を下げると
「いますぐVIPルームにお連れして、何か着るものを準備して差し上げなさい」
怒鳴るような口調でシュウに命令した。