もう恋なんてしない

第142話 さわらないで

相師がいなくなった倉庫に気まずさを感じる沙那とは対照的に
「…楽しみだな？」
少し嬉しそうな表情を見せる飛鷹。

でもうまく反応できないまま
「…ですね…」
頷くことしかできない自分に戸惑う。

宮坂さんが来るまでなら、きっと大喜びしたはずの遊園地デート。
でもいまはそんな気分になれない。

美羽の顔が浮かんでは飛鷹の腕に手をまわして消えていく。
飛鷹さんをとられちゃいそうで怖い。

そんな声に気づくと
「聞いているのか？」
不機嫌な飛鷹に顔を覗き込まれていた。

驚いた沙那に
「また相師のことを考えているのなら妬けるな」
そっと沙那の隣に座って溜め息をつく。

妬けるなんて言ってもらえてうれしいはずなのに、いままでの彼女や宮坂さんにもそんなふうに言っていたんじゃないかと思っただけで嫌な気持ちになってしまう。

もしそうだったとしても過去のことなのに…。

顔もきちんと見られずに俯いていた沙那の顎を
「沙那…？」
飛鷹がやさしく掴む。

声をかけられた瞬間。、その手を振り払ってしまっていた。

「さ…、触らないでください！ここ、会社ですよ…？！」
言ってしまって慌てて口を塞いだけど、もう遅い。

少しの間かたまっていた飛鷹は
「…悪かった」
小さく謝るとイスから立ち上がり、テーブルの向かいの席へと移動してしまった。

最悪。
こんなふうになりたかったわけじゃないのに。

たったテーブルひとつ挟んだだけなのに、すごく距離が遠く感じる。

どうしよう。
せっかくいい感じになってきていたのに、私めちゃくちゃ馬鹿だ…。