もう恋なんてしない

竹柏凪紗

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第572話 曖昧な記憶と弟

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「俺が高校生のときに親が、亡くなった親戚から引き取った子がいてね。弟になったんだよ。俺が高校生で相手は中学生。思春期だし絶対に仲良くなれないって思ってたのにめちゃめちゃ懐いてくれてさ。すごい可愛くて…。ほんともう、目に入れても痛くないくらい」

黛は唇を何度も噛みながら説明し、自分のスマホを操作。
一枚の写真を開いて見せた。

「絢世さん?!」

シズクと同時に
「絢世…?」
千隼も驚いて
「…お…れ…?」
思わず変な声が出るくらい絢世自身も驚愕。

それほど絢世にそっくりな人物が黛とともに満面の笑みを浮かべて映っていた。

「…この人って…?」

聞いた絢世に
「そう。俺の弟。しかもね、稀血なの」
黛が頷く。

「…え?」

絢世だけじゃない。
千隼もシズクも黛を凝視した。

スモールピーPではないんだけど、ボンベイOhっていう稀血でね。事業に失敗して莫大な借金を抱えた両親が元締めにさ…」

言葉に詰まった黛に誰もが何も言えずに戸惑う。

「…あ、いや。確証はないんだけれど。弟がいなくなったときに両親がそんな会話を聞いたような気がしていてね。記憶が曖昧で…。ただ、調べていくうちに元締めみたいな組織があることや薬物なんかの絡みがあることも知ったんだ」

誰もがどう反応していいかわからないなか、黛の声と車のエンジン音だけが静かに響く。

「弟は見つかっていないままだし、両親に尋ねるたびにあからさまに嫌な顔をされたしね。…まぁ、自分の親が引き取った弟をお金のために誰かに引き渡したなんて想像もしたくないけど…。お金に困ったら人間は人じゃなくなる節があるからね…」

深くて重い溜め息をついて黛は続けた。

「いろいろと調べていくうちに曖昧な記憶も薬物のせいなんじゃないかと疑うようになって、大学を理由に家を出たんだ。そのあとは高校のときからやっていたデイトレードのお金を元手に事業を起ち上げて、いまに至る感じ」

言い終わって顔を上げてみんなのほうを見て、暗い雰囲気にならないように黛。

「だから高峰さん…、シンと貴之が医師を目指すのをやめたのも俺のせいなんです」

「…は?」

とつぜん話を振られた高峰は驚いて黛を見つめた。
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