もう恋なんてしない

竹柏凪紗

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第621話 こんなはずじゃなかった

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「…しばらく距離を置こう」
そう千隼が言ってから部屋へ戻って行くまでの数十秒間、引き留めようと思えばチャンスはあったと思う。

それでも呼び止めることができなかったのは自分に自信がなかったから。
戻ってきた元カノのこともチラついた。

ひょんなことから行方不明ホストや稀血、そして元締めたちの末端にまで辿り着いて…。
多分ほんの一部なんだろうけど施設ユートピアに全国から集められていた80人以上もの行方不明ホストたちの解放にもわずかながら貢献したはず。

INNOCENTイノセントにも精神的なケアが必要と診断されながらも入院不要だった2人が復帰したり、蓮くんは黛さんと暮らせるようになったり。

少しずつだけど良い方向に進んでいると思っていたのに…。
こんなはずじゃなかった。

千隼ひとりがなかへと戻って行ったのを見て、出入口付近で待機してくれていたのか、すぐに絢世のもとへとやってきて声をかけたのはシズク。

「…大丈夫です?」

声をかけてもらっても上手く言葉が耳に入ってこない。

シズクはそんな絢世の様子から状況を察して
「ここでしばらく休んでいきましょう。俺、飲み物を持ってきます」
なかへ戻ろうとしたけれど。

「…やっぱり、なかへ戻りませんか?俺、蓮くんに雨宮さんを奪われる絢世さんとか見たくないです」
「けどもう…しばらく距離を置こうって…」

「それは、絢世さんが自分のことを好きな自信がないって雨宮さんが勘違いしたからでしょう?このままじゃダメですって!とにかく俺に任せてください」

一抹の不安を感じながらも心強いと思ってしまったことを絢世はこのあとすぐに後悔した。
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