もう恋なんてしない

竹柏凪紗

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第660話 存在していた証拠

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千隼に声をかけられてすぐに駆け寄って財布を手に取った絢世は
「…シズクの…財布…」
抜けるような声で言いながら込み上げてくる複雑な気持ちを整理できずに戸惑う。

それでも
「…シズクの財布です」
千隼に言いながら、シズクの存在をあらためて感じて涙が出そうなくらいホッとした。

それと同時にわきあがってきたのは不安と心配な気持ち。

財布はシズクがスマホと同じくらい大切にしていたもの。
友己にお金を出して買ってもらった大切な財布。

いま、その財布が手元にある。

なかには資格確認書にマイナンバー
「ペーパードライバーなんですけどね」
なんて笑いながら見せてくれた免許証までしっかりと入っていてさらに安堵。

写真だってまんまシズクで、少しニヤついているように見える表情が少しだけ憎らしい。
これは紛れもなくシズクが存在していた証拠。

もしこれが自分の意思で置いていったものなのだとしたら、相当な何かがあったはず。

「千隼さん…」

口を開こうとした絢世の唇に千隼の人差し指が触れた。
そしてつぶやく。

「なるほど。そういうことか」

「千隼さん?」

不思議そうに聞いた絢世には応えず
「絢世、とりあえず荷物を引き上げに行こう」
促す千隼にハテナが止まらない。

でも絢世はコクリと頷いて駐車場へ。
友己から借りた車の助手席に乗り込んでシズクの財布を握りしめた。
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