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少年期編
26 新たな出会い【後編】
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謎の幼女が出ました。誰……??
目を瞬く私を、幼女はキラキラした目で見つめている。なんとなくだけど、この子、人間じゃないと思う。だって…
「目の色、お揃い!髪の色もぉ~」
とか言いながら、幼女の瞳と髪の色が私そっくりに変わったから。魔物……なのか?でも……
「ねえねえ!お花!植える!」
呆然とする私の服をぐいぐい引っ張って、早くやろうと強請られた。言われるがままに、土の中央に植え穴を作り、腐り花を釣るための小枝を取ってくると…
「はいぃ?!」
幼女が直接腐り花の周りの土を掘っていました。いや!それチューリップとかじゃないからね?!
「危ないよ!」
咄嗟に両脇を抱えて幼女を腐り花から引き離す。あっぶなー…
「大丈夫。大丈夫。」
なのに幼女はそんなことを言って、泥んこの手をパタパタと振った。
「私は触っても平気。でも貴女はダメだよぉ?」
「え?え?」
どういうこと??突っ立っている私の腕からするんと抜け出た幼女は、再び腐り花の前に座りこむと、うきうきとした様子で土を掘り、土ごと腐り花を取ってきた。不思議なことに、腐り花は周りの土を掘り返されてもまったく蔓を出さなかった。え?ぱっと見わからないだけで、コイツ枯れてるの??
「ちゃんと生きてるよぉ~」
「え…」
私、さっきから「え」しか言ってないやん。
「早く植えよう?ね?」
「う、うん」
幼女から急かされて、植木鉢の土を凹ませた植え穴に、「ここに置いて」と指示する。
「置いたよー」
「置いたら土を寄せて…」
……危険物触ってるのに、フツーの花の苗を植えつけている気分。なにこのほのぼのした空気…
「たっぷり水をあげておしまいだよ。」
「は~い」
水が漏れる兜に並々と近くの湖から水を汲んできて、バシャッと(手荒ッ)腐り花にぶっかける幼女。
「できたぁ~」
キャッキャとはしゃいでいる。喜んでくれて何よりデス…おや、手が泥んこのままだね。私は水やりに使った兜に再び水を汲んでくると、
「手、泥んこだから洗おう?」
嬉しそうに寄ってきた幼女の両手を洗ってやった。濡れたままでは悴んでしまうから、正直超キレイとは言い難いけど、持っていた襤褸布で水気を拭く。すると…
「ねえ~、」
「ん?」
「お名前教えてぇ~?」
幼女に名前を聞かれた。
「サイラス・ウィリス」
フツーに名前を答えたんだけど…
「男の名前…」
途端に不快感をあらわにする幼女。あ、湖絡みだから男嫌いか、この子も。けどなー…
私、女の名前持ってないし。
持ってないものは出せない。
「えっと…君の名前は?」
私は誤魔化すように笑って、幼女に尋ね返した。うん。軽~い気持ちで聞いたんだ。
「………。」
よりむっつりと黙りこむ幼女。え?!もしかしてお名前聞くのはタブーだった?え?ちょ…ごめん!無理に言わないでいいから!うわぁ!泣かないでっ!
焦りまくって、ウルウルする幼女の背をナデナデする。ごめん、おねーちゃんが悪かった!
「あのね、あのね…」
「うん、なあに?」
最高に優しい笑顔で幼女に笑いかけると、
「じゃあね…お名前のつけあっこ、しよ?」
………。
………はい?
また、よくわからない提案をされた。名前のつけあっこ??
「名前をつけあっこするとね、ずーっと一緒にいられるの!」
ニコ~、と嬉しさいっぱいに笑う幼女。そして私の了解も取らずに「え~とねぇ~、」と何やら考え始める。そして数秒考えたあと、パッと体ごとこちらを向いて、
「決めた!貴女の名前!サアラ!サアラ・ウィリス!!」
めっちゃ嬉しそうにドヤ顔を決める幼女。あはは。サイラスだから、サアラか。安易なネーミングだなぁ…
「ね?私にお名前、頂戴?」
今度は幼女に頼まれた。すっごい期待してる…。これは…答えなきゃ泣かれるヤツだわ。ううむ…名前、名前ねぇ…
……。
……。
じぃ~~~♡
…うん。誰かに名前つけるなんて初めてだからね~。前世、独身だったし、ペットもいなかったし。
ふむ…。睡蓮だからスイ?レン?流石に安易過ぎるか。睡蓮は英語でウォーターリリー。ああ、前世にすんごいキツい性格の百合って女いたなぁ。百合は却下だ。う~ん…
あ、そうだ。
「ティナ、はどうかな?」
青い睡蓮、但し熱帯睡蓮だけど、小ぶりの花がたくさん咲く品種がそんな名前だった。湖絡みだし、この子の元の瞳の色がそんな感じの色だし。
「ティナ!!私の名前!!」
ああよかった。気に入った……て、あれ…?なん、か…目が、霞…む…これは……
………。
………魔力切れ。
◆◆◆
次に目を開けたら、まだ空は明るかった。
「あ。」
どうやら気絶していたのはほんの数刻だったようだ。ああ、危なかった。魔力切れで倒れたまま夜になっていたら、生きて村に帰れないよマジで。
ギュゴ~~
ああ~、お腹減った~。魔力切れのせいだろうか。フラフラと体を起こそうとして、ふと視界にうつったモノに私の目は釘付けになった。頭上に鈴なりになった小さな木の実。食べられる実で、村ではこれを水に一晩漬けて、ふやかしてから煮込んで食べる。爽やかな甘みが美味しい、森の貴重な甘味だ。
……ごはんっ!甘味!
さっそく木に登って、房ごと実を収穫して…
………あ。
どーやって食べる気よ、このかったい実を。
人間、空腹になると阿呆で短絡的になるらしい。
そして、人間、空腹になると意地にもなる。なんとしてでも実を食べようとした私は、兜を鍋に実を煎ってみることにした。ティナが面白がって、たき火用の小枝を集めるのを手伝ってくれた。火を起こして、おっと。腐り花の鉢を火から遠ざけて、火の上に木の実を入れた兜を置く。爆ぜるかもしれないから、兜をもう一個蓋代わりに被せて、あとは待つだけ!
………。
………。
五分後…。
バン!バチッ!バキューン!ダダダダ!!!
「?!」
「キャーッ」
ちょ…爆ぜてる爆ぜてるー!!
油もひかずに直火にかけたせいか、兜の中から凄まじい音がする。わわわっ!蓋がずり落ちるー!!
ババババッ!バキッ!パン!パーン!
音に驚いたティナはどこかへ逃げ去り、私は馬鹿みたいに焚き火の周りで右往左往している。驚いた鳥たちが鋭く鳴きながら飛び立っていった。
そして…
バシャッ!
シュウゥ…
「?お…終わった??」
恐る恐る焚き火の方を見ると、
「火遊び…?違うか。なんで兜なんか焼いている?」
見知らぬ少年が呆れた視線を消えた焚き火と私に寄越していた。
◆◆◆
「俺はメドラウドのアルだ。おまえは誰だ?」
見たところリチャードと同じくらいかな?漆黒の艶やかな髪の、すらりとした体躯の少年――アルが私に問うた。
「俺はサイラス。サイラス・ウィリス。」
名乗ってから、まじまじと目の前に立つ少年を観察する。白い肌に瞳の色は緑。切れ長の目は涼しげで、あどけなさはあるもののくっきりした目鼻立ち。将来イケメン間違いナシだね。服装は、狩人のそれを少しスタイリッシュにした感じ。弓ではなく、ベルトに剣を佩いているから、狩人とも言いきれないけど。
「妙なヤツだ。なんで女のくせに男の名前……ハッ!偽名か?!」
「…違うよ?」
だってそういう名前だもん。
「あ?おまえの国では女が男の名前を名乗るのか?」
アルが眉間に皺を寄せて首を傾げた。なんだかその顔が小馬鹿にしているように見えて、ムッとした私は一気にまくし立てた。
「違うよッ!俺が!男なんだよっ!悪かったなぁ、貧相な体つきでよ!」
しかも今は空腹でお腹もぺちゃんこなのだ。あっ!さっきの実!
急いで消えたたき火の横に転がっている兜の蓋を取ると…
「あ!」
「ん?」
クリーム色のほわほわしたモノが溢れて、地面を転がった。これは…!
「ポップコーン?!」
……いや、味は甘さ控え目のポン菓子に似ている。つまり…
「美味しい!甘~い!!」
飢えていた私は、夢中でポン菓子擬きを頬張った。ああ…幸せ♡
「ん。うまいな、コレ」
なんでか横で一緒にポン菓子擬きを囓るアル。うんうんと頷いて、私はポリポリと食べ続ける。あ、そうだ。ティナにも取っておいてあげよう。思いついて、幾粒かを薬草摘みで使う小袋に入れ、潰さないように懐にしまいこんだ。
「なあ、なんで男のフリなんかしてるんだよ?」
「んー?秘密ー。」
そんなこと今はどうでもいい。空腹の後に甘味を与えられて阿呆になっていた私は、うっかり口を滑らせたのにも気づかなかった。
「秘密…か。」
「そうそう!」
ん~!ポン菓子美味し~!ニコニコして口いっぱいにポン菓子擬きを頬張る私を、アルは目を細め、
「ほんっと、美味そうに食べるよな、おまえ」
よしよしと頭を撫でてきた。アンタもか…。まあいい。今の私はご機嫌なのだ。許してやろう。
「けど、ほどほどでな。ほら、もう夕方だ。」
何気なく言われて、オレンジ色の空にハッとする。やべっ!長居しすぎた!!というか私、朝森に入ったきりだわ。さすがに父さんたちが心配…してるよね!絶対!
慌てて立ち上がると、
「ごめん!私帰るから!」
それだけアルに叫ぶと、一目散に村へと駆け戻った。
◆◆◆
村へ戻ると、なんか大変なことになっていた。村へ一歩踏み入れた途端、血相を変えたヴィクターに捕まった私。
「どこへ行っていたんですか!!森中探してもどこにもいない!どれだけ心配したと!!」
「…え?」
「え?じゃありませんっ!!」
鬼のような形相の大人達に囲まれ、こってり絞られました。……なんか私、丸一日行方不明になっていたらしい。
「いや…魔力切れでちょっと昼寝していただけ…だよ?」
言ってみてふと思う。ちょっと昼寝、じゃなくてまさか…私丸一日寝てたの?!
「魔力切れ?森の中で?!」
……しまった。余計なことを。
「サ~イ~ラ~ス~」
魔王ヴィクター、再降臨。言うんじゃなかった…。チラッと気配を感じて目線だけで横を見ると、柱の陰からティナがぴょこんと顔を出していた。
「(あのね、私がちゃんとサアラを守ってたから大丈夫だよ?)」
潜めた声が直接頭に響いてきた。…うん、この子にもいろいろ聞くことがありそう。
目を瞬く私を、幼女はキラキラした目で見つめている。なんとなくだけど、この子、人間じゃないと思う。だって…
「目の色、お揃い!髪の色もぉ~」
とか言いながら、幼女の瞳と髪の色が私そっくりに変わったから。魔物……なのか?でも……
「ねえねえ!お花!植える!」
呆然とする私の服をぐいぐい引っ張って、早くやろうと強請られた。言われるがままに、土の中央に植え穴を作り、腐り花を釣るための小枝を取ってくると…
「はいぃ?!」
幼女が直接腐り花の周りの土を掘っていました。いや!それチューリップとかじゃないからね?!
「危ないよ!」
咄嗟に両脇を抱えて幼女を腐り花から引き離す。あっぶなー…
「大丈夫。大丈夫。」
なのに幼女はそんなことを言って、泥んこの手をパタパタと振った。
「私は触っても平気。でも貴女はダメだよぉ?」
「え?え?」
どういうこと??突っ立っている私の腕からするんと抜け出た幼女は、再び腐り花の前に座りこむと、うきうきとした様子で土を掘り、土ごと腐り花を取ってきた。不思議なことに、腐り花は周りの土を掘り返されてもまったく蔓を出さなかった。え?ぱっと見わからないだけで、コイツ枯れてるの??
「ちゃんと生きてるよぉ~」
「え…」
私、さっきから「え」しか言ってないやん。
「早く植えよう?ね?」
「う、うん」
幼女から急かされて、植木鉢の土を凹ませた植え穴に、「ここに置いて」と指示する。
「置いたよー」
「置いたら土を寄せて…」
……危険物触ってるのに、フツーの花の苗を植えつけている気分。なにこのほのぼのした空気…
「たっぷり水をあげておしまいだよ。」
「は~い」
水が漏れる兜に並々と近くの湖から水を汲んできて、バシャッと(手荒ッ)腐り花にぶっかける幼女。
「できたぁ~」
キャッキャとはしゃいでいる。喜んでくれて何よりデス…おや、手が泥んこのままだね。私は水やりに使った兜に再び水を汲んでくると、
「手、泥んこだから洗おう?」
嬉しそうに寄ってきた幼女の両手を洗ってやった。濡れたままでは悴んでしまうから、正直超キレイとは言い難いけど、持っていた襤褸布で水気を拭く。すると…
「ねえ~、」
「ん?」
「お名前教えてぇ~?」
幼女に名前を聞かれた。
「サイラス・ウィリス」
フツーに名前を答えたんだけど…
「男の名前…」
途端に不快感をあらわにする幼女。あ、湖絡みだから男嫌いか、この子も。けどなー…
私、女の名前持ってないし。
持ってないものは出せない。
「えっと…君の名前は?」
私は誤魔化すように笑って、幼女に尋ね返した。うん。軽~い気持ちで聞いたんだ。
「………。」
よりむっつりと黙りこむ幼女。え?!もしかしてお名前聞くのはタブーだった?え?ちょ…ごめん!無理に言わないでいいから!うわぁ!泣かないでっ!
焦りまくって、ウルウルする幼女の背をナデナデする。ごめん、おねーちゃんが悪かった!
「あのね、あのね…」
「うん、なあに?」
最高に優しい笑顔で幼女に笑いかけると、
「じゃあね…お名前のつけあっこ、しよ?」
………。
………はい?
また、よくわからない提案をされた。名前のつけあっこ??
「名前をつけあっこするとね、ずーっと一緒にいられるの!」
ニコ~、と嬉しさいっぱいに笑う幼女。そして私の了解も取らずに「え~とねぇ~、」と何やら考え始める。そして数秒考えたあと、パッと体ごとこちらを向いて、
「決めた!貴女の名前!サアラ!サアラ・ウィリス!!」
めっちゃ嬉しそうにドヤ顔を決める幼女。あはは。サイラスだから、サアラか。安易なネーミングだなぁ…
「ね?私にお名前、頂戴?」
今度は幼女に頼まれた。すっごい期待してる…。これは…答えなきゃ泣かれるヤツだわ。ううむ…名前、名前ねぇ…
……。
……。
じぃ~~~♡
…うん。誰かに名前つけるなんて初めてだからね~。前世、独身だったし、ペットもいなかったし。
ふむ…。睡蓮だからスイ?レン?流石に安易過ぎるか。睡蓮は英語でウォーターリリー。ああ、前世にすんごいキツい性格の百合って女いたなぁ。百合は却下だ。う~ん…
あ、そうだ。
「ティナ、はどうかな?」
青い睡蓮、但し熱帯睡蓮だけど、小ぶりの花がたくさん咲く品種がそんな名前だった。湖絡みだし、この子の元の瞳の色がそんな感じの色だし。
「ティナ!!私の名前!!」
ああよかった。気に入った……て、あれ…?なん、か…目が、霞…む…これは……
………。
………魔力切れ。
◆◆◆
次に目を開けたら、まだ空は明るかった。
「あ。」
どうやら気絶していたのはほんの数刻だったようだ。ああ、危なかった。魔力切れで倒れたまま夜になっていたら、生きて村に帰れないよマジで。
ギュゴ~~
ああ~、お腹減った~。魔力切れのせいだろうか。フラフラと体を起こそうとして、ふと視界にうつったモノに私の目は釘付けになった。頭上に鈴なりになった小さな木の実。食べられる実で、村ではこれを水に一晩漬けて、ふやかしてから煮込んで食べる。爽やかな甘みが美味しい、森の貴重な甘味だ。
……ごはんっ!甘味!
さっそく木に登って、房ごと実を収穫して…
………あ。
どーやって食べる気よ、このかったい実を。
人間、空腹になると阿呆で短絡的になるらしい。
そして、人間、空腹になると意地にもなる。なんとしてでも実を食べようとした私は、兜を鍋に実を煎ってみることにした。ティナが面白がって、たき火用の小枝を集めるのを手伝ってくれた。火を起こして、おっと。腐り花の鉢を火から遠ざけて、火の上に木の実を入れた兜を置く。爆ぜるかもしれないから、兜をもう一個蓋代わりに被せて、あとは待つだけ!
………。
………。
五分後…。
バン!バチッ!バキューン!ダダダダ!!!
「?!」
「キャーッ」
ちょ…爆ぜてる爆ぜてるー!!
油もひかずに直火にかけたせいか、兜の中から凄まじい音がする。わわわっ!蓋がずり落ちるー!!
ババババッ!バキッ!パン!パーン!
音に驚いたティナはどこかへ逃げ去り、私は馬鹿みたいに焚き火の周りで右往左往している。驚いた鳥たちが鋭く鳴きながら飛び立っていった。
そして…
バシャッ!
シュウゥ…
「?お…終わった??」
恐る恐る焚き火の方を見ると、
「火遊び…?違うか。なんで兜なんか焼いている?」
見知らぬ少年が呆れた視線を消えた焚き火と私に寄越していた。
◆◆◆
「俺はメドラウドのアルだ。おまえは誰だ?」
見たところリチャードと同じくらいかな?漆黒の艶やかな髪の、すらりとした体躯の少年――アルが私に問うた。
「俺はサイラス。サイラス・ウィリス。」
名乗ってから、まじまじと目の前に立つ少年を観察する。白い肌に瞳の色は緑。切れ長の目は涼しげで、あどけなさはあるもののくっきりした目鼻立ち。将来イケメン間違いナシだね。服装は、狩人のそれを少しスタイリッシュにした感じ。弓ではなく、ベルトに剣を佩いているから、狩人とも言いきれないけど。
「妙なヤツだ。なんで女のくせに男の名前……ハッ!偽名か?!」
「…違うよ?」
だってそういう名前だもん。
「あ?おまえの国では女が男の名前を名乗るのか?」
アルが眉間に皺を寄せて首を傾げた。なんだかその顔が小馬鹿にしているように見えて、ムッとした私は一気にまくし立てた。
「違うよッ!俺が!男なんだよっ!悪かったなぁ、貧相な体つきでよ!」
しかも今は空腹でお腹もぺちゃんこなのだ。あっ!さっきの実!
急いで消えたたき火の横に転がっている兜の蓋を取ると…
「あ!」
「ん?」
クリーム色のほわほわしたモノが溢れて、地面を転がった。これは…!
「ポップコーン?!」
……いや、味は甘さ控え目のポン菓子に似ている。つまり…
「美味しい!甘~い!!」
飢えていた私は、夢中でポン菓子擬きを頬張った。ああ…幸せ♡
「ん。うまいな、コレ」
なんでか横で一緒にポン菓子擬きを囓るアル。うんうんと頷いて、私はポリポリと食べ続ける。あ、そうだ。ティナにも取っておいてあげよう。思いついて、幾粒かを薬草摘みで使う小袋に入れ、潰さないように懐にしまいこんだ。
「なあ、なんで男のフリなんかしてるんだよ?」
「んー?秘密ー。」
そんなこと今はどうでもいい。空腹の後に甘味を与えられて阿呆になっていた私は、うっかり口を滑らせたのにも気づかなかった。
「秘密…か。」
「そうそう!」
ん~!ポン菓子美味し~!ニコニコして口いっぱいにポン菓子擬きを頬張る私を、アルは目を細め、
「ほんっと、美味そうに食べるよな、おまえ」
よしよしと頭を撫でてきた。アンタもか…。まあいい。今の私はご機嫌なのだ。許してやろう。
「けど、ほどほどでな。ほら、もう夕方だ。」
何気なく言われて、オレンジ色の空にハッとする。やべっ!長居しすぎた!!というか私、朝森に入ったきりだわ。さすがに父さんたちが心配…してるよね!絶対!
慌てて立ち上がると、
「ごめん!私帰るから!」
それだけアルに叫ぶと、一目散に村へと駆け戻った。
◆◆◆
村へ戻ると、なんか大変なことになっていた。村へ一歩踏み入れた途端、血相を変えたヴィクターに捕まった私。
「どこへ行っていたんですか!!森中探してもどこにもいない!どれだけ心配したと!!」
「…え?」
「え?じゃありませんっ!!」
鬼のような形相の大人達に囲まれ、こってり絞られました。……なんか私、丸一日行方不明になっていたらしい。
「いや…魔力切れでちょっと昼寝していただけ…だよ?」
言ってみてふと思う。ちょっと昼寝、じゃなくてまさか…私丸一日寝てたの?!
「魔力切れ?森の中で?!」
……しまった。余計なことを。
「サ~イ~ラ~ス~」
魔王ヴィクター、再降臨。言うんじゃなかった…。チラッと気配を感じて目線だけで横を見ると、柱の陰からティナがぴょこんと顔を出していた。
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