RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

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騎士学校編

57 身代わりの反抗

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「レオ!説得してダメなら壁をレーザーでぶち抜いて外に逃がして!」
同種族のレオに頼み、私は屋根の吹き飛んだ一角――ネイサンたちの部屋へと走った。まずは彼らを救出し、キラーシルクワームたちを外に逃がす。ヤツらは外に出たいだけなのだから。
「ネイサン!無事か!」
部屋に駆けこむと、天井付近を二匹のキラーシルクワームがワサワサと苛立たしげに飛んでおり、寝台の下にネイサン含む数人の少年たちが身を縮めていた。
「レナード?!」
「大丈夫だ。アイツらは外に出すから」
そう言って上を見れば、説得に応じたらしい二匹が部屋の外へ飛んでいくのが見えた。
「まだ羽化していない繭は?」
「ここはアレだけだ。……すまない。魔力が足りなくて、従属させられなかった」
「……うん」
肩を落とす少年たちに曖昧に頷き、私はすぐに立ち上がった。まだ他の部屋ではキラーシルクワームが暴れている。
「まだ寮に何匹もいるっぽいからな。そこに隠れててくれ」
そう言い残して踵を返す。廊下に引き返すと、さすがに騒ぎに気づいたのか数人の教官の姿がある。マズい…!
「おいっ!貴様、部屋に戻れ!」
早速捕まった。でも、アンタらじゃキラーシルクワームは退治できないと思うよ?なんせ、相手は絹糸が通常の百倍越えの高値がつくほどの激ヤバ危険生物。しかも…

ビービー ちゅどどーん!

「あ゛ぁぁ!!」
レーザービームが結界を通過するしね。

ビームが掠って腰を抜かした教官を放置して、発射元にレオを向かわせる。直後に今度はレオのものと思しきビームが炸裂した。説得に応じなかったらしく、壁をぶち抜いたらしい。「キエエェッ!」という奇声が遠のいていく。
寮の構造は、食堂などの共用スペースが集まった棟を中心に、鳥が翼を広げたように建てられた東西両翼の棟に生徒たちの寝泊まりする部屋を配している。暴走したキラーシルクワームを探しては外に追い出し、羽化していない繭を回収し、時に教官を躱し、私は東側の棟を翼の端の方へとひた走っていた。
「東棟のヤツらが繭の獲得に躍起になってたんだ!」
振り返ると、ネイサンが追いかけてきていた。
「向こうに知り合いがいる。俺がいた方が説得しやすいだろ?」
どうやらネイサンは、私が少年たちを説得してキラーシルクワームに対処していると思ったらしい。実際は、レオに指示だししているだけなんだけどね。今のところ、キラーシルクワームを従属できた少年はいなかったし。
「あの部屋だ!」
ネイサンが指さした部屋の扉は、吹き飛ばされたのか残骸らしき木片が辺りに散らばっている。部屋からは物音ひとつしない。
「ネイサン、止まれ」
異様に静かな部屋。レオの分身に様子見をしてもらった結果は…
「誰もいない?けど、この部屋は…」
ネイサンの呟きを遮るように、悲鳴が響き渡った。
「?!」
「下だ!」
転げるように螺旋階段を駆け下りた、踊り場に。少年が一人、身体を折り曲げるように倒れていた。

◆◆◆

「アシュトン!!」
血相を変えたネイサンが倒れた少年に駆け寄った。知り合い、というのは彼のようだ。
「しっかりしろ!今手当を…!」
つけていたスカーフを抜き取り、少年の身体に巻こうとするネイサンだが、長さが足りないらしい。そこでようやく私にも少年――アシュトンの傷が見えた。脇腹が血に染まって、身体の下に血溜まりも見える。
「コレ、使って!」
迷ってなどいられなかった。体型を誤魔化すために身体に巻いていたサラシを解き、ネイサンのスカーフの上からぐるぐると少年の身体に包帯代わりに巻いていく。私を見たネイサンがあんぐり口をあけた。
「お、お、お、女の子ォ?!」
「どーでもいいでしょ、そんなこと」
人命救助が先だよ。
「ネイサン、医者を呼んできて。早く!」
その辺に誰かしらいるはずだ。利用したことはないけれど、怪我等に備え医務室はあるし、医師も常駐しているらしい。
慌てて走っていくネイサンを見送り、蒼白な顔の少年に声をかける。
「大丈夫だ。あと少しだから、頑張れ」
レオが心得たとばかりに飛んでいったから。
「ひぃええ~~~!!」
ネイサンの悲鳴が聞こえたけど、レオが襟首掴んで運搬してるだけだから心配ないよ。たぶん医者もあんな感じで運ばれて…
「うあぁぁぁ!!!」
……来た。絶叫がすぐそばまで来たところで、
「怪我人はここです!」
叫んで、私は階段を駆け下りた。この格好を見られるのは、さすがによろしくない。まあ、医者が来たなら後は任せよう。ホッと一息ついたのだが…

ビービー ちゅどどーん!!

まだいたのか。キラーシルクワーム。しかも、連射してるっぽい。私は足音をたてないように、そっと階段を降りて、壁の影から光が迸った方向を窺い見た。
「おい!馬鹿な真似はよせ!」
「うるさい!俺はここを出るんだ!」
数人の少年たちがこちらに背を向け、言い争っている。彼らの真上には、わっさわっさと羽ばたくキラーシルクワーム。
「退け!」
甲高い声が叫んだ直後、閃光が炸裂し、言い争っていた相手の少年が爆風に吹き飛ばされた。
「アイツ…従属させたのか」
「そのようだな」
「な…クィンもがっ!?」
いつの間に来ていたのか、クィンシーが私を壁の死角に引っ張りこんだ。
「ナイスバディは素晴らしいけどな。今は隠しとけ」
バサッと肩にかけられたのは、制服とは違う黒い外套。クィンシーの私物らしい。…若干、酒臭いのは気のせいか。
「どうも…」
「あのキャンキャン言ってるガキ、身代わりだな」
平民の割に魔力が高かったようだな。身を潜めたまま、クィンシーが囁いた。
「死んだフリしろ」
「はあ?!」
言うが早いか、クィンシーは私を押し倒し――直後、金属がぶつかり合う音と硬質な足音がいくつも聞こえ、
「貴様ら!そこで何をしている!!」
怒号が響いた。「騎士だな」と、うつ伏せの私に覆いかぶさったクィンシーが呟いた。
「殺れ!」
叫んだのはキラーシルクワームを従属させた少年。そして、

ビービービー ちゅどどーん!!

眩い閃光が四方に炸裂した。教官のような下っ端なら、先ほどの少年同様、為す術なく蹂躙されただろう。しかし、駆けつけた者達は違った。
「《縛》!」
光線を躱しつつ一人が、テイマーたる少年を魔法で出現した鎖で縛りあげ、残る者達が頭上のキラーシルクワーム目がけて攻撃魔法を連射し、難なくそれを仕留めた。ものの数秒の出来事――
「放せ!俺は!こんなところに入る人間じゃないんだ!」
捕縛された少年が喚いている。
「領主に!ハイヴィス子爵のどら息子の身代わりにされたんだ!貴族なんか糞食らえ!攻撃して何が悪い!アイツらは俺たちを虫けら以下にしか思ってないんだぁ!」
魔法の鎖で自身が傷つくのも構わず、無茶苦茶に暴れる少年の顔は、狂気と悲痛に歪んでいた。
「出してくれ!故郷に!家族に会わせてくれ!こんなところで死にたくない!」
喉も枯れんばかりに叫ぶ少年は、縛られたまま騎士たちに引きずられていった。

◆◆◆

「ふふ。可愛らしい娘さんね」
「身にあまる光栄に存じます」
ベイリン男爵家の夜会――。
穏やかに微笑みながらも、アーロンは動揺していた。確かにあの少年を手に入れるために宮廷魔術師は招待した。しかし、まさかこの国の最高権力者が来るとは聞いていない。しかも、どうもその最高権力者には明確な目的があるようだ。
「まあ…素敵なダンスだったわ」
にこにこと娘のダンスを拍手で讃える王妃に目をやった。ずいぶんお気に召したようだ。
「ねぇ、ヴァン。この娘を王宮に召し上げたいのだけど」
…なんだと?
「シャーリーが気に入ったのだろう。なら私に異論などない」
宮廷魔術師まで…!なんと言うべきか答を求める娘の眼差しに、まだ、と目顔で示し、アーロンは微笑みながらも困ったように眉を下げて見せた。
「妃殿下、娘は…」
「綺麗な銀朱の髪。そうだわ!ドレスはピンク色にしましょう!スモーキーだけど明るい色を選べばいいもの。肩と袖はチュールで透かして、胸元には花のレース。腰にリボンを結びましょう!」
アーロンは、真性の『話の通じない女』というものを初めて目の当たりにした。娘は嬉しそうな顔を心がけているが、若干顔が引き攣っている。結局、彼らは一方的に娘を王宮に上げる話だけして、そそくさと帰っていった。あの少年の話など、出しようもなかった。

◆◆◆

騒ぎのあった翌日の騎士学校。
私と同室の少年たち、それに何故かネイサンという組み合わせで、私たちは馬車に詰めこまれた。当然、護送用の罠付馬車である。
「昨日捕まった身代わり、キラーシルクワームの出所が俺らだとゲロったらしい」
苦い顔で独りごちるクィンシーを、
「巻き添えかよ」
ネイサンが鋭く睨む。険悪な二人を無視して、私は流れる景色に目をこらした。王都郊外は、緑豊かな田園地帯が広がっている。緑の畑に、点在する泉、水車小屋――護送馬車に乗っていなければ、心癒される風景と言えるだろうが。
「どこ行くんだろうなー」
「どうせロクな場所じゃねぇよ。グワルフとの小競り合いなんかしょっちゅうって話じゃないか。行った先で特攻してこい、とかさ」
渇いた笑みには、隠しきれない恐怖の念が滲む。
「あーあ。せめて死ぬ前にかわいい女の子とイチャイチャしたかったな」
あれがしたかったこれが心残りだとワイワイ話す少年たち。確かに、どう見てもこれから行われるのは『見せしめ』だろうね。気になるのは、騎士学校の中ではなく、外へ連れ出したこと。見せしめが目的なら、練兵場のど真ん中で、衆目の中でシバくよね?
「ま、行き先は俺も気になるが…」
クィンシーが窓の外を睨む。
「森の方角ではないな。獣のエサにする気はないみたいだ」
「郊外へ向かっているようだけど…」
中心街を通り越し、時折ガタガタと揺れる馬車から、少年たちは不安げに流れる景色を追った。
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