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騎士学校編
62 断罪の夜会【後編】
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「ふざけるのもいい加減にしなさい!」
扉から出てきたモノ――檻に入れられた二人の男女を見て、王妃がヒステリックに怒鳴った。なぜなら檻にいる男は、故国を捨ててたった一人王妃と共に敵国にやってきた…今や片腕と言っても過言ではない男、宮廷魔術師のヴァンサン。そして、彼の傍らでボサボサの髪にヨレヨレに着崩れたドレスという、令嬢としてはあり得ない醜態を晒した仮面の少女は、王妃が婚約者たる公爵令嬢の代わりに王子に誂えた娘であった。
「この者たちは何処にいた?」
憤る王妃を置き去りに、アナベルは檻の脇に佇む男――王宮に詰める近衛兵である――へ問いただした。
「ハッ!王太子妃宮にて不審な物音を追いましたところ、この者ら二人が王太子妃様のお部屋の近くを彷徨いているのを発見、衛兵が声をかけたところ逃走し、侵入者用の罠に嵌まったところを捕縛いたしました」
流れるように説明した近衛兵に、王妃が射殺しそうな眼差しを向ける。しかし、当の近衛兵は融通の利かないクソ真面目なのか、はたまた恐ろしく鈍感なのか、王族に睨まれているというのに、まるで堪えた様子がなかった。そのこともまた、王妃を苛立たせた。
「ヴァンサン様?王太子妃宮に何の用事だったのかしら?貴方様ほどのご身分があれば、申請さえすれば忍びこまずとも入ることができるでしょうに」
ふふふ…と花でも愛でるかのように罪人らに微笑みかける。
「ああ、それとも」
そして、ハッとしたように目を瞬かせる。
「そちらのお嬢様といかがわしいことでもしていたのかしら?よくよく拝見しましたら、なんてお可愛らしいこと!王妃様の美しさにも通じる可憐な方…ねぇ?ヴァンサン様?」
それでしたら申請なんてできませんわねぇ…と、典雅な笑みを浮かべてアナベルは心底軽蔑した眼差しで二人を見下ろした。
王妃と宮廷魔術師ヴァンサンが主従の線を越えた親密な関係、というのは公然の秘密。そこに、皹を入れるつもりで。
「馬鹿な…そんなはずはなかろう!」
案の定ヴァンサンが檻の中から声を荒げた。彼の王妃への忠犬ぶりは有名だ。
(ふふ。でもね…その忠犬ぶりが普通になると、相手は有難みを感じなくなる……価値が下がるのよ。尽くしてもらって当たり前になる。貴方と王妃は、もう対等じゃないの。そして…)
アナベルは檻の中の男に微笑みかけた。
「あら、では何用で申請もなしに王太子妃宮にいらしたの?忍びこまなければならなかった尤もな理由、お聞かせ下さいませ」
アナベルの問いに、狙った通りヴァンサンは黙り込む。怒りに滾る瞳は何かを必死に飲み下そうとしているかのようだ。
……そして、無関心になるの。貴方の苦労を、推し量ることをしなくなる、考えなくなるのよ。
王妃は考えもしていない。ヴァンサンが、彼女のためにマーリン伯爵の尻ぬぐいをしようとしたことを。
後は、王妃の女としての嫉妬心を言葉巧みに煽ればいい。かつて美しく可憐な聖女と讃えられた王妃も、老いには敵わない。若くて可愛らしい仮面の少女が、自らに侍る男を誑かしたとなれば、心穏やかでいられるはずがない。
王妃の嫉妬をさらに煽るようにアナベルはころころと嗤う。
「まあ!大変!そちらのお嬢様の衣服が乱れたままでしてよ?ふふ。証拠隠滅はもっとお上手になさいましね?」
あたかも、二人が肉体関係を持ったと断じるような発言をし、猫のような甘い声音で檻の中の少女に呼びかけた。そこへ、先程の近衛兵が「恐れながら」と進み出た。
「捕縛した際、男の手よりこちらが」
銀のトレイに載せて差し出されたものに、スッと会場が静まり返った。
「まあ…我がニミュエ公爵家の印章ではごさいませんか!」
「なんと!!貴様、王太子妃様の宮へ侵入したのはこの印章を盗み出すためか!!」
古参の重鎮が驚愕の声を上げる。
「そう言えば…公爵家の傍で騎士学校の生徒を実習させたと王妃様はおっしゃいましたが……当然、騎士学校は我が公爵家が印を捺した許可証をお持ちなのですよね?私、さっぱり覚えがないのですけれど?」
今すぐ見せて下さいませ、と求めるアナベルに応じる者はいない。応じられるわけがなかった。そんなモノ、最初から用意などされていなかったのだから。
「ねぇ…ヴァンサン様。これから許可証を作るつもりだった?」
問いかける声は、甘く、とろりと暗い。彼は結局、何の弁明もできなかった。
「話になりませんわね。王妃様、この者どもの取り調べをお許しいただけますわよね?臣下の分際で、神聖なる王族の住まう宮に侵入したのですから。ご安心なさいませ?身分の順に…そちらのお嬢様を宮廷医に診せれば、王妃様の疑念も晴れるかと存じますわ」
「な?!そんなの嫌よ!ヴァン様、どうして何も言って下さらないの?!私は何も…」
仮面の少女が金切り声を上げ、ヴァンサンに詰め寄るのを、アナベルは目を細めて眺めた。さすがに大人しく黙っているだけではマズいと思ったのだろうが、この画は王妃を刺激するには十分なようだった。
「その女を医師に」
自らを取り立てた王妃に無情な命令を下され、仮面の少女が言葉を失う。貴族令嬢にとって、医師にかかるということは身体を検められること――未婚の令嬢にとって男性の医師に裸を見られる=傷物になることに他ならない。ある意味、死より残酷な行為だ。少女の拒絶も尤もだろう。だが容赦はしない。ヴァンサンに唆されたとは言え、この娘は王太子の婚約者たるアナベルを侮辱したも同じ。重い罰を与えねば、示しがつかない。
「フッ…」
微かに漏れた笑い声の主を睨む。幸い王妃は怒りで気づかなかったようだが。いけ好かない男は、チラリとアナベルを一瞥し、二人の入った檻をもう一人のの近衛兵と共に運び出して行った。
アナベルが合図をすると、演奏を忘れていた音楽隊がワルツの前の軽やかな序曲を奏ではじめる。
「到着が遅れましたこと、お詫び申し上げます、殿下」
艶やかに礼をする彼女に、呆然としていた彼女の婚約者もとい王太子も我にかえった。
「ああ…ファーストダンスの相手を」
「喜んで」
ぎこちなく差し出された手を堂々と取り、広間の中央へと進む。音楽に合わせてふわり、ふわりと、幾重にも重ねられた絹のレースが広がり、シャンデリアの光を受けて純白の輝きを振りまいた。
◆◆◆
その夜更。
大役を終えて公爵邸の自室で寛いでいたアナベルを呼ぶ者があった。耳に入れた小さな通信魔具が淡いオレンジ色の光を放つ。
「お役目ご苦労さん」
軽薄な声が、薄っぺらい労いをくれた。
「やればできるじゃん」
俺のおかげで上手くいったろ?と、まるで褒め言葉を要求するような声音に小さく吹きだした。
「何を調子よく。私は利用しただけ」
突き放したつもりの声は、どうにも迫力に欠ける。そのことに相手は調子に乗ったらしい。奇妙な質問を投げかけてきた。
「なあ…王太子妃になれば政を変えられると本当に思ってる?」
「…今度は何?」
微かに警戒するアナベル。
「世の男ってのは、浮気性でマザコンだ」
対して声は、悟りきったように激しくどうでもいいことを言った。嘆息したのは仕方ないと思う。
「あのボンボンはママの言いなりだぜ?おまえが嫁いだ所で無視されるのがオチだ。他の女を宛がわれるのは見えてる。それどころか王子を産む前に消されかねんぞ」
今回の断罪で、王妃はおまえに恨み骨髄だろ?
何を今更…。アナベルは淡く笑んだ。
「生き延びるわよ。私はこの国の将来を背負っているのだから」
何としても国母となって実権をあの王妃から取り返すのだ。王妃の乗る厄介な馬は射落とした。次は将たる王妃を射る番だ。このチャンスをモノにできなくてどうするのだ。
「婚姻が全てじゃないぜ?それどころか、自ら人質になるようなもんだ」
「何が言いたいの…?」
「俺と組まないか?挟み撃ちにすれば、今の政権なんかひとたまりもないだろう」
確かに。混乱して弱った所を打てば、いかに強い軍事力を誇る国でも揺るがすことができるだろう。
「お断りするわ。王太子妃として」
国益を最優先にすれば、内紛ごときで何か大きなモノを失うリスクは取れない。そう言えば、通信魔具の向こうから、残念そうなため息が聞こえた。
「頑固だなぁ…」
「ええ。この国を守りたいの」
「欲張りだ」
「当然よ」
深夜明かりの漏れる部屋から、密やかな笑い声が漏れて夜風に消えた。
◆◆◆
クソゲーがっ!
思えば『本編』もおかしかった。ヒロインって世界の中心、約束された存在なのよ?それがどうして!悪役令嬢が!あのドブスがヒロインを国外追放にするのよ!
…同じヒロインなら、気が合うと思ったのに。とんだ雌ギツネだったわ。私のモノに手を出すなんて、なんて野心家なんだよ。
「あの娘はいかがいたしましょう?」
恐る恐る尋ねてきた侍従に、シャーロットは苛立たしげに命じた。
「地下牢に。医師はいらないわ。テキトーに脅しといて」
腹は立つが、ヒロインは生かしておかねばならない。あんな小娘だ。地下牢に押し込めて心が折れた頃に出してやれば、自分に従うだろう。シャーロットはそう考えた。
「ハッピーエンドしてくれなきゃ困るのよ」
あのキャラは二周目以降。その間が重要なのだから。
扉から出てきたモノ――檻に入れられた二人の男女を見て、王妃がヒステリックに怒鳴った。なぜなら檻にいる男は、故国を捨ててたった一人王妃と共に敵国にやってきた…今や片腕と言っても過言ではない男、宮廷魔術師のヴァンサン。そして、彼の傍らでボサボサの髪にヨレヨレに着崩れたドレスという、令嬢としてはあり得ない醜態を晒した仮面の少女は、王妃が婚約者たる公爵令嬢の代わりに王子に誂えた娘であった。
「この者たちは何処にいた?」
憤る王妃を置き去りに、アナベルは檻の脇に佇む男――王宮に詰める近衛兵である――へ問いただした。
「ハッ!王太子妃宮にて不審な物音を追いましたところ、この者ら二人が王太子妃様のお部屋の近くを彷徨いているのを発見、衛兵が声をかけたところ逃走し、侵入者用の罠に嵌まったところを捕縛いたしました」
流れるように説明した近衛兵に、王妃が射殺しそうな眼差しを向ける。しかし、当の近衛兵は融通の利かないクソ真面目なのか、はたまた恐ろしく鈍感なのか、王族に睨まれているというのに、まるで堪えた様子がなかった。そのこともまた、王妃を苛立たせた。
「ヴァンサン様?王太子妃宮に何の用事だったのかしら?貴方様ほどのご身分があれば、申請さえすれば忍びこまずとも入ることができるでしょうに」
ふふふ…と花でも愛でるかのように罪人らに微笑みかける。
「ああ、それとも」
そして、ハッとしたように目を瞬かせる。
「そちらのお嬢様といかがわしいことでもしていたのかしら?よくよく拝見しましたら、なんてお可愛らしいこと!王妃様の美しさにも通じる可憐な方…ねぇ?ヴァンサン様?」
それでしたら申請なんてできませんわねぇ…と、典雅な笑みを浮かべてアナベルは心底軽蔑した眼差しで二人を見下ろした。
王妃と宮廷魔術師ヴァンサンが主従の線を越えた親密な関係、というのは公然の秘密。そこに、皹を入れるつもりで。
「馬鹿な…そんなはずはなかろう!」
案の定ヴァンサンが檻の中から声を荒げた。彼の王妃への忠犬ぶりは有名だ。
(ふふ。でもね…その忠犬ぶりが普通になると、相手は有難みを感じなくなる……価値が下がるのよ。尽くしてもらって当たり前になる。貴方と王妃は、もう対等じゃないの。そして…)
アナベルは檻の中の男に微笑みかけた。
「あら、では何用で申請もなしに王太子妃宮にいらしたの?忍びこまなければならなかった尤もな理由、お聞かせ下さいませ」
アナベルの問いに、狙った通りヴァンサンは黙り込む。怒りに滾る瞳は何かを必死に飲み下そうとしているかのようだ。
……そして、無関心になるの。貴方の苦労を、推し量ることをしなくなる、考えなくなるのよ。
王妃は考えもしていない。ヴァンサンが、彼女のためにマーリン伯爵の尻ぬぐいをしようとしたことを。
後は、王妃の女としての嫉妬心を言葉巧みに煽ればいい。かつて美しく可憐な聖女と讃えられた王妃も、老いには敵わない。若くて可愛らしい仮面の少女が、自らに侍る男を誑かしたとなれば、心穏やかでいられるはずがない。
王妃の嫉妬をさらに煽るようにアナベルはころころと嗤う。
「まあ!大変!そちらのお嬢様の衣服が乱れたままでしてよ?ふふ。証拠隠滅はもっとお上手になさいましね?」
あたかも、二人が肉体関係を持ったと断じるような発言をし、猫のような甘い声音で檻の中の少女に呼びかけた。そこへ、先程の近衛兵が「恐れながら」と進み出た。
「捕縛した際、男の手よりこちらが」
銀のトレイに載せて差し出されたものに、スッと会場が静まり返った。
「まあ…我がニミュエ公爵家の印章ではごさいませんか!」
「なんと!!貴様、王太子妃様の宮へ侵入したのはこの印章を盗み出すためか!!」
古参の重鎮が驚愕の声を上げる。
「そう言えば…公爵家の傍で騎士学校の生徒を実習させたと王妃様はおっしゃいましたが……当然、騎士学校は我が公爵家が印を捺した許可証をお持ちなのですよね?私、さっぱり覚えがないのですけれど?」
今すぐ見せて下さいませ、と求めるアナベルに応じる者はいない。応じられるわけがなかった。そんなモノ、最初から用意などされていなかったのだから。
「ねぇ…ヴァンサン様。これから許可証を作るつもりだった?」
問いかける声は、甘く、とろりと暗い。彼は結局、何の弁明もできなかった。
「話になりませんわね。王妃様、この者どもの取り調べをお許しいただけますわよね?臣下の分際で、神聖なる王族の住まう宮に侵入したのですから。ご安心なさいませ?身分の順に…そちらのお嬢様を宮廷医に診せれば、王妃様の疑念も晴れるかと存じますわ」
「な?!そんなの嫌よ!ヴァン様、どうして何も言って下さらないの?!私は何も…」
仮面の少女が金切り声を上げ、ヴァンサンに詰め寄るのを、アナベルは目を細めて眺めた。さすがに大人しく黙っているだけではマズいと思ったのだろうが、この画は王妃を刺激するには十分なようだった。
「その女を医師に」
自らを取り立てた王妃に無情な命令を下され、仮面の少女が言葉を失う。貴族令嬢にとって、医師にかかるということは身体を検められること――未婚の令嬢にとって男性の医師に裸を見られる=傷物になることに他ならない。ある意味、死より残酷な行為だ。少女の拒絶も尤もだろう。だが容赦はしない。ヴァンサンに唆されたとは言え、この娘は王太子の婚約者たるアナベルを侮辱したも同じ。重い罰を与えねば、示しがつかない。
「フッ…」
微かに漏れた笑い声の主を睨む。幸い王妃は怒りで気づかなかったようだが。いけ好かない男は、チラリとアナベルを一瞥し、二人の入った檻をもう一人のの近衛兵と共に運び出して行った。
アナベルが合図をすると、演奏を忘れていた音楽隊がワルツの前の軽やかな序曲を奏ではじめる。
「到着が遅れましたこと、お詫び申し上げます、殿下」
艶やかに礼をする彼女に、呆然としていた彼女の婚約者もとい王太子も我にかえった。
「ああ…ファーストダンスの相手を」
「喜んで」
ぎこちなく差し出された手を堂々と取り、広間の中央へと進む。音楽に合わせてふわり、ふわりと、幾重にも重ねられた絹のレースが広がり、シャンデリアの光を受けて純白の輝きを振りまいた。
◆◆◆
その夜更。
大役を終えて公爵邸の自室で寛いでいたアナベルを呼ぶ者があった。耳に入れた小さな通信魔具が淡いオレンジ色の光を放つ。
「お役目ご苦労さん」
軽薄な声が、薄っぺらい労いをくれた。
「やればできるじゃん」
俺のおかげで上手くいったろ?と、まるで褒め言葉を要求するような声音に小さく吹きだした。
「何を調子よく。私は利用しただけ」
突き放したつもりの声は、どうにも迫力に欠ける。そのことに相手は調子に乗ったらしい。奇妙な質問を投げかけてきた。
「なあ…王太子妃になれば政を変えられると本当に思ってる?」
「…今度は何?」
微かに警戒するアナベル。
「世の男ってのは、浮気性でマザコンだ」
対して声は、悟りきったように激しくどうでもいいことを言った。嘆息したのは仕方ないと思う。
「あのボンボンはママの言いなりだぜ?おまえが嫁いだ所で無視されるのがオチだ。他の女を宛がわれるのは見えてる。それどころか王子を産む前に消されかねんぞ」
今回の断罪で、王妃はおまえに恨み骨髄だろ?
何を今更…。アナベルは淡く笑んだ。
「生き延びるわよ。私はこの国の将来を背負っているのだから」
何としても国母となって実権をあの王妃から取り返すのだ。王妃の乗る厄介な馬は射落とした。次は将たる王妃を射る番だ。このチャンスをモノにできなくてどうするのだ。
「婚姻が全てじゃないぜ?それどころか、自ら人質になるようなもんだ」
「何が言いたいの…?」
「俺と組まないか?挟み撃ちにすれば、今の政権なんかひとたまりもないだろう」
確かに。混乱して弱った所を打てば、いかに強い軍事力を誇る国でも揺るがすことができるだろう。
「お断りするわ。王太子妃として」
国益を最優先にすれば、内紛ごときで何か大きなモノを失うリスクは取れない。そう言えば、通信魔具の向こうから、残念そうなため息が聞こえた。
「頑固だなぁ…」
「ええ。この国を守りたいの」
「欲張りだ」
「当然よ」
深夜明かりの漏れる部屋から、密やかな笑い声が漏れて夜風に消えた。
◆◆◆
クソゲーがっ!
思えば『本編』もおかしかった。ヒロインって世界の中心、約束された存在なのよ?それがどうして!悪役令嬢が!あのドブスがヒロインを国外追放にするのよ!
…同じヒロインなら、気が合うと思ったのに。とんだ雌ギツネだったわ。私のモノに手を出すなんて、なんて野心家なんだよ。
「あの娘はいかがいたしましょう?」
恐る恐る尋ねてきた侍従に、シャーロットは苛立たしげに命じた。
「地下牢に。医師はいらないわ。テキトーに脅しといて」
腹は立つが、ヒロインは生かしておかねばならない。あんな小娘だ。地下牢に押し込めて心が折れた頃に出してやれば、自分に従うだろう。シャーロットはそう考えた。
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