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建国~黎明~編
146 討伐せよ!
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火竜の仕込みが失敗した。
コソ泥エルフを絞ったところ、『暴れて』の単語以外は聞く耳を持たなかったという。
「クッ!ドラゴンブレスとか威力が洒落にならねぇぞ!」
後方でグワルフの第三王子が喚いている。それを無視して、飛竜に跨がったアルフレッドは配置についた冒険者とペレアス軍に声を張りあげた。
「攻撃来るぞ!三時の方向!」
火竜という強大な魔物の攻撃――ドラゴンブレスは、数十人で張った結界をいとも容易く破壊する。セヴラン&グワルフ兵、冒険者たち、さらに引っ張り出してきたライオネルと正教会の光魔法使いらで三重の結界を張ってようやく勝負になるくらい、圧倒的というより絶望的な力の差があるのだ。さらに分が悪いことに、火竜は宙に浮かんでいる。並の攻撃は当たりもしない。一応人語はわかるようなので、攻撃の合間を縫ってアルフレッドが接近しては対話を試みているが、火竜はチラリと目をやるだけだ。相手にすらされていない。防戦一方である。
…実は火竜、アルフレッドが必死に話しかけているのはバッチリ聞こえていたのだが…
(もうちょこっと遊んでも…まあ、大丈夫じゃろう。わしの力が見たいと言うしのぉ)
と、内心ではニマニマしていた。傍迷惑でしかない。
と、そんな時だ。
ウォオオオン!!!
魔の森から、咆哮が聞こえたのは。
新たな魔物の出現を告げる咆哮に、火竜と対峙する多国籍討伐隊の面々に絶望が広がった。目の前のバケモノを抑えるだけでいっぱいいっぱいなのに、さらに別の魔物などとても――
ウォオオオン!!!
今一度の咆哮。
「ぬっ?」
火竜にはわかる。これは己と同じ竜……にしては気配が小さいな。なんだ?
(とりあえず、炎弾でも撃てば出てくるかの)
後ろの人間共はとりあえず置いておこう。少なくとも、ポッと出の気配の方が矮小なる人間共よりは愉しめそうだ。早速、火竜は気配の方へ無数の炎弾を放った。
「結界!!!」
しかし、すかさず人間共がチマチマと結界を張り、炎弾を弾いてしまった。
「ぬおっ?!人間共よ、邪魔をするな」
ならばもっとたくさん撃てばいいだけの話だ。ついでにちょいと威力もあげよう。炎弾が焼夷弾クラスなら、今度はミサイル並の威力にすればいい。軽~い気持ちで、火竜は攻撃を実行に移した。
「結界!!!」
「にょほほ……その程度の盾など無意味よ」
思った通り、矮小なる人間共の張った結界は粉々に砕け散り、威力をあげた炎弾が森に点々と爆炎をあげ……その時、火竜は首筋を虫に刺されたような微かな痛みを覚えた。
…ここ、ドラゴンモスキートなんかいたっけ??
アレ、刺されると痒いんよのぉ~。
呑気に考えていた火竜。完全に油断していた。だから、「貴様ァー!!!」と飛竜に乗っていた矮小な人間が突っ込んで来たのにも気づかなかった。
「ふぎゅおっ?!ッああぁ~、目にゴミが入ったぞなーっ」
それ、森にミサイル炎弾落とした火竜にキレたアルフレッドが、火竜の目ん玉に剣をブッ刺したんだけどね。あと、首筋をチクッとやったのは、エヴァの氷魔法で作った氷柱(特大・殺気入り)だったりするのだが…
「ゴミが入ったぁ~!目が痛いぞなーっ!」
ゴミじゃなくて鋭利な刃物である。そりゃ痛い。攻撃などやっていられずオタオタする火竜。そこへ…
「ウォオオオン!!!」
間髪を入れず森から漆黒の竜が飛び出し、火竜の喉笛に噛みついた。
「ぶぎゃあ?!」
なんだか、ずいぶん小っさくて細っこい竜だ。喉笛にがっちり食らいついた竜は、長い体躯を火竜の首に巻きつけ、ギチギチと締め上げた。
◆◆◆
討伐隊の目に信じがたい光景が映っている。どうしてか森に爆炎が上がった途端、アルフレッドがキレて、命知らずにも単騎で突っ込み、火竜の目ん玉に剣をブッ刺したのは別にどうでもいい。……いや、よくあんなことして火竜に殺されなかったけど!奇跡だけど!
そんなことより、火竜に食らいついている魔物は何だ?!火竜に比べると細いし小さいし弱そうだけど。どう見てもアレ、ドラゴンなんだが。
これ、どういう状況?!
◆◆◆
ゲームの最終イベントが始まった。わあわあ騒ぐ冒険者や兵士達を建物の陰に隠れて見物したながら、王妃は近づいてきた巨大な気配にワクワクして……
「ハハハハハ!!!矮小な人間共よ!!我は火竜!!歓び、跪くがよかろう!!!」
「はへ?」
予想外の魔物の出現に、ポカンとした。
邪竜、どこ行った?
しかも現れた火竜は、ドラゴンブレスを吐きまくって大暴れを始めた。冒険者や自軍の主力部隊、さらに複数の攻略対象と正教会までもが連携して戦っているが、まるで勝負になっていない。防戦一方だ。
「何よコレ。無理ゲーってヤツなの??」
さすがの『本編ヒロイン』たる王妃も、あのバケモノには手も足も出ない。そもそもヒロインは稀少な光魔法の使い手であって、光魔法が最も威力を発揮するのは、闇属性の魔物――『邪竜』とかである。炎の化身たる火竜に、光魔法をぶつけてもあまり効果はない。無理。
……まあ、とりあえずは様子見かしら。
たぶん、これはアレだ。バグか何かよ。そのうち治るでしょ。
王妃は、無駄に鉄火場をくぐり抜けてきたので、この程度では動じなかった。まだ彼女の『賭け』を擲つには早過ぎる。
「あの子も戦っているみたいだし。ヒロインも……どっかにいるでしょ」
実はノエル、既に寝ちゃってたりする。爆睡。知らぬが仏。
そうしてしばらく火竜討伐を見物していた王妃の耳に、魔の森から咆哮が聞こえた。
「これ…!!」
そう!確かゲームのテキストでも邪竜はこんな鳴き声だった。やっと出たわね遅いわよもうっ!
「ウフフッ。ヒロインに代わって私が討伐してあげようじゃないの!」
どさくさに紛れて、王妃はいそいそと討伐隊に近づいていった。
◆◆◆
アルが火竜の動きを止めた一瞬を狙った。隠れていた森から躍り出て、火竜の喉笛に噛みついて、己が体躯を巻きつけて火竜の首を締め上げる。蛇ってこうやって獲物を絞め殺すよね。
「く…苦しいけど、女人に絞められてなんか新しい世界に目覚めそうじゃ~」
…いや、そんなモンに目覚めてくれても困る。
「ウォオオオン!!!(デブトカゲ!落ちろ!)」
んにゃろー。このトカゲ、無駄に図体がデカいのよっ!体固すぎでしょ!
力が拮抗し、ミシミシと互いの身体が軋む。深紅と漆黒の鱗がパラパラと剥がれ落ちた。
「ウォオオオン!!!(絞め落として湖に沈めてやる!)」
「《聖なる光》!!」
「?!」
誰かの詠唱の直後、空中に幾本もの眩い光の鎖が現れたかと思うと、竜体に叩きつけられた。
「ウォオオオン!!!(ギャアアアッ!!!)」
太い光の鎖が鱗を破砕し、肉に食いこむ。軀から血が噴き出し、ごぼりと口からも血が零れた。シュウシュウと軀から魔力が蒸発してゆく。
「ウォオオオン!!!」
振り払おうと暴れるものの、光の鎖は粘っこく軀にまとわりついて執拗に締め上げてくる。何…この鎖?光魔法ってこんなにいやらしいの…?全身を苛む痛みと嫌悪感に、身を捩る。
「小癪な」
ギュオオオオオッ!!!
耳を劈くような咆哮が響き渡る。同時に、深紅の炎が身体を包む。
「ウォオオオン!!!(あッッつ!!!)」
いやらしい光魔法は霧散して解放されたけど!もっとマシな助け方はなかったのかよ!
「ウォオオオン!!!(苛めだ訴えてやるっ!!)」
自棄っぱちで喚いた私。その時、視界の隅に、テグスのような光の糸が見えた。これは…
アル…!!
火竜の身体の上を右へ左へと駆けていたアルの手から幾本もの光魔法の細い糸が出ていて。そのアルが私の顔の前まで駆けてきた。
「サアラ!口開けろ!!俺を咥えて、思いっきり引っ張れ!!」
言うが早いか、空中に身を踊らせたアルを口で傷つけないようにキャッチする。そのまま、グンッ!と引っ張った。
バチン!!
光魔法の糸は、火竜の四枚の翼に何重にも巻きついていて。私が竜の筋力で術者ごと引っ張ったことで、蝶が羽を閉じるようにピッタリとくっついた。そしてそうなると当然………
「ウヒョホ~~?!」
珍妙な悲鳴をあげて、火竜の巨体は私を首に巻きつけたまま、魔の森に墜落した。
コソ泥エルフを絞ったところ、『暴れて』の単語以外は聞く耳を持たなかったという。
「クッ!ドラゴンブレスとか威力が洒落にならねぇぞ!」
後方でグワルフの第三王子が喚いている。それを無視して、飛竜に跨がったアルフレッドは配置についた冒険者とペレアス軍に声を張りあげた。
「攻撃来るぞ!三時の方向!」
火竜という強大な魔物の攻撃――ドラゴンブレスは、数十人で張った結界をいとも容易く破壊する。セヴラン&グワルフ兵、冒険者たち、さらに引っ張り出してきたライオネルと正教会の光魔法使いらで三重の結界を張ってようやく勝負になるくらい、圧倒的というより絶望的な力の差があるのだ。さらに分が悪いことに、火竜は宙に浮かんでいる。並の攻撃は当たりもしない。一応人語はわかるようなので、攻撃の合間を縫ってアルフレッドが接近しては対話を試みているが、火竜はチラリと目をやるだけだ。相手にすらされていない。防戦一方である。
…実は火竜、アルフレッドが必死に話しかけているのはバッチリ聞こえていたのだが…
(もうちょこっと遊んでも…まあ、大丈夫じゃろう。わしの力が見たいと言うしのぉ)
と、内心ではニマニマしていた。傍迷惑でしかない。
と、そんな時だ。
ウォオオオン!!!
魔の森から、咆哮が聞こえたのは。
新たな魔物の出現を告げる咆哮に、火竜と対峙する多国籍討伐隊の面々に絶望が広がった。目の前のバケモノを抑えるだけでいっぱいいっぱいなのに、さらに別の魔物などとても――
ウォオオオン!!!
今一度の咆哮。
「ぬっ?」
火竜にはわかる。これは己と同じ竜……にしては気配が小さいな。なんだ?
(とりあえず、炎弾でも撃てば出てくるかの)
後ろの人間共はとりあえず置いておこう。少なくとも、ポッと出の気配の方が矮小なる人間共よりは愉しめそうだ。早速、火竜は気配の方へ無数の炎弾を放った。
「結界!!!」
しかし、すかさず人間共がチマチマと結界を張り、炎弾を弾いてしまった。
「ぬおっ?!人間共よ、邪魔をするな」
ならばもっとたくさん撃てばいいだけの話だ。ついでにちょいと威力もあげよう。炎弾が焼夷弾クラスなら、今度はミサイル並の威力にすればいい。軽~い気持ちで、火竜は攻撃を実行に移した。
「結界!!!」
「にょほほ……その程度の盾など無意味よ」
思った通り、矮小なる人間共の張った結界は粉々に砕け散り、威力をあげた炎弾が森に点々と爆炎をあげ……その時、火竜は首筋を虫に刺されたような微かな痛みを覚えた。
…ここ、ドラゴンモスキートなんかいたっけ??
アレ、刺されると痒いんよのぉ~。
呑気に考えていた火竜。完全に油断していた。だから、「貴様ァー!!!」と飛竜に乗っていた矮小な人間が突っ込んで来たのにも気づかなかった。
「ふぎゅおっ?!ッああぁ~、目にゴミが入ったぞなーっ」
それ、森にミサイル炎弾落とした火竜にキレたアルフレッドが、火竜の目ん玉に剣をブッ刺したんだけどね。あと、首筋をチクッとやったのは、エヴァの氷魔法で作った氷柱(特大・殺気入り)だったりするのだが…
「ゴミが入ったぁ~!目が痛いぞなーっ!」
ゴミじゃなくて鋭利な刃物である。そりゃ痛い。攻撃などやっていられずオタオタする火竜。そこへ…
「ウォオオオン!!!」
間髪を入れず森から漆黒の竜が飛び出し、火竜の喉笛に噛みついた。
「ぶぎゃあ?!」
なんだか、ずいぶん小っさくて細っこい竜だ。喉笛にがっちり食らいついた竜は、長い体躯を火竜の首に巻きつけ、ギチギチと締め上げた。
◆◆◆
討伐隊の目に信じがたい光景が映っている。どうしてか森に爆炎が上がった途端、アルフレッドがキレて、命知らずにも単騎で突っ込み、火竜の目ん玉に剣をブッ刺したのは別にどうでもいい。……いや、よくあんなことして火竜に殺されなかったけど!奇跡だけど!
そんなことより、火竜に食らいついている魔物は何だ?!火竜に比べると細いし小さいし弱そうだけど。どう見てもアレ、ドラゴンなんだが。
これ、どういう状況?!
◆◆◆
ゲームの最終イベントが始まった。わあわあ騒ぐ冒険者や兵士達を建物の陰に隠れて見物したながら、王妃は近づいてきた巨大な気配にワクワクして……
「ハハハハハ!!!矮小な人間共よ!!我は火竜!!歓び、跪くがよかろう!!!」
「はへ?」
予想外の魔物の出現に、ポカンとした。
邪竜、どこ行った?
しかも現れた火竜は、ドラゴンブレスを吐きまくって大暴れを始めた。冒険者や自軍の主力部隊、さらに複数の攻略対象と正教会までもが連携して戦っているが、まるで勝負になっていない。防戦一方だ。
「何よコレ。無理ゲーってヤツなの??」
さすがの『本編ヒロイン』たる王妃も、あのバケモノには手も足も出ない。そもそもヒロインは稀少な光魔法の使い手であって、光魔法が最も威力を発揮するのは、闇属性の魔物――『邪竜』とかである。炎の化身たる火竜に、光魔法をぶつけてもあまり効果はない。無理。
……まあ、とりあえずは様子見かしら。
たぶん、これはアレだ。バグか何かよ。そのうち治るでしょ。
王妃は、無駄に鉄火場をくぐり抜けてきたので、この程度では動じなかった。まだ彼女の『賭け』を擲つには早過ぎる。
「あの子も戦っているみたいだし。ヒロインも……どっかにいるでしょ」
実はノエル、既に寝ちゃってたりする。爆睡。知らぬが仏。
そうしてしばらく火竜討伐を見物していた王妃の耳に、魔の森から咆哮が聞こえた。
「これ…!!」
そう!確かゲームのテキストでも邪竜はこんな鳴き声だった。やっと出たわね遅いわよもうっ!
「ウフフッ。ヒロインに代わって私が討伐してあげようじゃないの!」
どさくさに紛れて、王妃はいそいそと討伐隊に近づいていった。
◆◆◆
アルが火竜の動きを止めた一瞬を狙った。隠れていた森から躍り出て、火竜の喉笛に噛みついて、己が体躯を巻きつけて火竜の首を締め上げる。蛇ってこうやって獲物を絞め殺すよね。
「く…苦しいけど、女人に絞められてなんか新しい世界に目覚めそうじゃ~」
…いや、そんなモンに目覚めてくれても困る。
「ウォオオオン!!!(デブトカゲ!落ちろ!)」
んにゃろー。このトカゲ、無駄に図体がデカいのよっ!体固すぎでしょ!
力が拮抗し、ミシミシと互いの身体が軋む。深紅と漆黒の鱗がパラパラと剥がれ落ちた。
「ウォオオオン!!!(絞め落として湖に沈めてやる!)」
「《聖なる光》!!」
「?!」
誰かの詠唱の直後、空中に幾本もの眩い光の鎖が現れたかと思うと、竜体に叩きつけられた。
「ウォオオオン!!!(ギャアアアッ!!!)」
太い光の鎖が鱗を破砕し、肉に食いこむ。軀から血が噴き出し、ごぼりと口からも血が零れた。シュウシュウと軀から魔力が蒸発してゆく。
「ウォオオオン!!!」
振り払おうと暴れるものの、光の鎖は粘っこく軀にまとわりついて執拗に締め上げてくる。何…この鎖?光魔法ってこんなにいやらしいの…?全身を苛む痛みと嫌悪感に、身を捩る。
「小癪な」
ギュオオオオオッ!!!
耳を劈くような咆哮が響き渡る。同時に、深紅の炎が身体を包む。
「ウォオオオン!!!(あッッつ!!!)」
いやらしい光魔法は霧散して解放されたけど!もっとマシな助け方はなかったのかよ!
「ウォオオオン!!!(苛めだ訴えてやるっ!!)」
自棄っぱちで喚いた私。その時、視界の隅に、テグスのような光の糸が見えた。これは…
アル…!!
火竜の身体の上を右へ左へと駆けていたアルの手から幾本もの光魔法の細い糸が出ていて。そのアルが私の顔の前まで駆けてきた。
「サアラ!口開けろ!!俺を咥えて、思いっきり引っ張れ!!」
言うが早いか、空中に身を踊らせたアルを口で傷つけないようにキャッチする。そのまま、グンッ!と引っ張った。
バチン!!
光魔法の糸は、火竜の四枚の翼に何重にも巻きついていて。私が竜の筋力で術者ごと引っ張ったことで、蝶が羽を閉じるようにピッタリとくっついた。そしてそうなると当然………
「ウヒョホ~~?!」
珍妙な悲鳴をあげて、火竜の巨体は私を首に巻きつけたまま、魔の森に墜落した。
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