RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

文字の大きさ
171 / 205
建国~対列強~編

170 いざ!グワルフへ【前編】

しおりを挟む
会議を終えた私は、大急ぎで魔の森へ走った。例の人型の洞の空いた木へ滑りこむと…
「ウガ?」
ダンジョン唯一の魔物兼門番のゴブリンが腰をあげた。入ってきたのが魔物だとわかるや、また定位置である壁際に座りこむ。暇だなぁ、と顔に書いてある――人の来ないテーマパークの駐車場で、ひたすら座ってるおじいちゃんみたいだ。
全長十メートルほどの(短っ!)ダンジョンを抜け、いざ魔界へ。なんとこのダンジョン、魔王城直結。いいのか、それで。
「魔王様いる?暇?暇だよね?!」
バァン!と開けた扉の向こうでは…
「いぎゃあっ?!邪竜の娘?!ノックをせぬか!」
厨二魔王の手には毛抜き。眉毛のお手入れの真っ最中だったようだ。暇だな。
「サイクロプスがラスボスやってる『魔窟』について知りたいの。道は平ら?」
私が切りだすと、厨二魔王はピクリと片眉を跳ね上げた。よくよく見れば、眉にヘンな切れ目がある。毛抜きに失敗したらしい。
「……研修か?」
「違うからね?」
私はラスボスやらないから!
「で?道は平ら?途中に崖とか濁流とか、馬車の隊列が通れないところ、ないよね?」
ゲームのナレーションでは、ラスボスまでの道程は詳しく語られていなかったのだ。あくまでも目的がバトルだから、それ以外の描写はいい加減なのだろう。
「馬車の隊列?カモか?」
一転、ワクワク顔の厨二魔王。早くも追い剥ぎの皮算用をしている模様。顔がにやけ下がってるよ。
「諸事情があって馬車の隊列を通したいの。対価は払うわ。コレよ」
差し出したのは、オリバーの店で仕入れた果実水とクッキー。魔王は目を瞬いてしばし…いや、けっこう長い間私の手許をジィーッと見ていた。やがて…
「対価はそれでよい。して…」
改まった顔の厨二魔王。やっぱ眉毛がおかしい。ぜんぜんキマッてない。笑っちゃいけない…。
「その取引は人類に絶望を齎すのか?」
懲りもせずまた聞いてきた。私はニヤリと笑った。
「もちろんさ!」

◆◆◆

厨二魔王といくつか打ち合わせをした後、私はダンジョンを通って魔の森へと戻ってきた。一息ついて、木の洞から飛び出す。

ガキン!

剣と剣がぶつかり火花が散る――ウィリスからコソコソつけてきたのは、五人。ダンジョンまでついてこなかった、ということは恐らく突然私の気配が消えたから見失ったと思ったんだね。諦めも悪く、待ち伏せしていたらしい。
「誰の命令?」
念のため尋ねたけど、相手は答えない。無言で五人同時に斬りかかってきた。躊躇いのなさとか、身のこなしとか、プロだねコイツら。
「《竜鱗の鎧ドラゴンスカル》」
服は切り裂かれたけど、身体に刃は通らない。目を見開く刺客たちに私は間髪を入れず、
「《瘴霧ヴェノムミスト》」
高濃度の瘴気をお見舞いした。
魔物だからね。こういう攻撃もできる。
咄嗟に結界を張れなかった刺客たちは、ものの見事に瘴気を吸いこみ、叫び声もあげずに昏倒した。
「ウィリスに連れて帰って尋問かな…」
とは言ったものの、昏倒した五人の刺客をウィリスまで運ぶのは……やめよ、しんどい。かと言ってこのまま放置しても、また悪さをしにくるだろうし……どうしたものか。
「ダンジョンに入れとけば?」
「ティナ、ナイス」
相棒の提案で、私は刺客を一人ずつ抱えあげると、さっき出てきた木の洞に放り込んだ。ゴブリンのおじさん、仕事だよ~。
身ぐるみ剥がれてスッポンポンになったら、暗殺依頼なんかできないでしょ。寒い格好でウィリスに戻ってきたところを捕まえればよし。

◆◆◆

ルッドゥネス侯爵子息は、物陰から女王の館を窺っていた。確かにここにイヴァンジェリンが入っていき、待って待ってかれこれ一時間が経過した。しかしいっこうに彼女が出てくる気配がない。女の子絡みなら多少の労力は厭わない侯爵子息もそろそろ焦れてきた。
(ひょっとして、今日はもう出てこないのでは?)
だとしたら、ここで待ち続けるのも時間の無駄だ。

そこで閃いた。

相手は王太女殿下。出てこないということは、彼女は女王の館に滞在しているに違いない。ここに身分の高い『男』はいない。サイラスも中身は女だし、王太女殿下は安心して滞在なさっているのだ。
(そうとわかれば、こちらから訪ねればよいだけのこと!)
相手は逃げない。それに邪魔だてする男もいない。なら焦ることはない。
一度モルゲンの宿に戻って、王太女殿下に失礼のない服装……もちろんパンツまで勝負服に着替えてこよう。伊達にプレーボーイをやってはいない。女の子に好かれるコーデで出直すのだっ!侯爵子息は、意気揚々とモルゲンの宿へ帰っていった。

そして四時間後…

夕暮れの空の下、一張羅を纏い、髪をセットし、真紅の薔薇の花束を持ってウィリスを訪れた侯爵子息の目に映ったのは、今しも出立しそうな数台の馬車。先頭馬車の扉の前にサイラス・ウィリスが立っている。
「あれはっ!」
侯爵子息は見逃さなかった。サイラスの手からほっそりとした女性の手が離れ、馬車の中へ消えていったのを。一拍遅れるように車内に消えた、青いドレスの裾も。
のんびり支度している間に、イヴァンジェリン殿下が馬車でどこかへ行こうとしている?!
侯爵子息は大いに焦った。まさか、彼女はウィリスを発つおつもりでは?!
そうこうする間にも、鞭が鳴り、馬車が出発する。
(まずいぞ!アレはやたら速いという新型馬車では?!)
逡巡は一瞬。侯爵子息は動き始めた馬車の隊列を必死で追いかけ、なんとか最後尾の荷台に飛び乗ることに成功した。薔薇の花束は放り出した。
(どこへ行かれるか知らないが、とりあえず…)
間もなく日が落ちる。侯爵子息は、幌を持ち上げ、荷台の中に入りこんだ。

◆◆◆

夜闇の中を、馬車の隊列が駆けてゆく。
灯りは灯していない。先頭の馬車に夜目の利く使い魔のハチを繫ぎ、エヴァの魔法で召喚した夜目の利くアンデッドが馭者を務めているので、闇の中でも進めている。けっこう長い隊列だし、夜盗にとってはカモでしかないし。目立たないに越したことはない。
「負担かけてごめんね、エヴァ」
いくらエヴァの魔力が高いとはいえ、夜ずっと魔力を使い続けるのはしんどいはずだ。一応、こんな夜間行軍をするのは今夜だけで、街道の分岐点から教会領に入ったら、普通に灯りつけて人間の馭者に交代する予定だ。
「いいよぉ。これくらい余裕」
対するエヴァはニカッと笑った。
「その代わりィ、分岐点過ぎたら膝枕して?サイラス君」
「お安い御用」
「っしゃあ!やる気出たぁ!」
女子二人で笑い合っていると、
「ねぇサイラス君…。本当にその…ダンジョンを通り抜けるの?冗談じゃなくて?」
イライジャさんが不安そうに尋ねてきた。今回は、フリッツはオフィーリアとお留守番である。よって、イライジャさんについてきてもらった。
「うん。魔王様には話つけたし。いざとなったら、私がサイクロプスと殴り合いするよ」
「サイクロプスぅ~!?」
震え上がるイライジャさん。あれ?言ってなかったっけ?ああ…サイクロプスって一つ目の巨人ね?力自慢の。大きさは知らんけど。
「サイラス君…俺、遺言書書いた方がいいのかな…」
イライジャさんったら、目からハイライトが消えちゃってる。大丈夫だって!まあ…多少荒っぽいことはするけど、ね?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...