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第1章 宿り木ホテルと季節の人々
第15話 奏と結と味喧嘩とスパイスカレー
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昼の厨房。
スパイスの香りがむわっと漂い、結が鼻をひくひくさせた。
「奏さん……カレー作ってます?」
「新メニューの試作だ。
冬限定の“香味ラムと林檎のスパイスカレー”。」
奏は鍋をぐつぐつと煮ながら塩をぱらりと振った。
結は鍋を覗き味見をしてすぐに眉を寄せた。
「……塩ちょっと多くないですか?」
奏「あ?これでちょうどいいだろ」
結「ラムを煮詰めるなら、もう少し抑えた方が……甘味が死にます!」
奏「甘味なんて、後で砂糖足せば調整できるだろ」
そのひと言に、
結のこめかみがピクッと動いた。
「奏さん。
スイーツ担当の私の前で、
“砂糖であとから調整できる”は禁句です」
「いや事実だろ?」
「事実じゃありません!!」
――空気がピシッと割れた。
支配人が遠目からつぶやく。
「……これは見逃せない展開だな」
結は再度スプーンを取り、奏のカレーをひと口味見した。
途端にバシッと置く。
「……やっぱり塩、強すぎます!」
「甘味が強いとスパイスがぼやけるんだよ」
「甘味がなければ“奥行き”が生まれません!」
「塩が無いと“輪郭”が出ない!」
「スパイスに塩ぶつけてどうするんですか!!味がケンカしてます!」
「ケンカするくらいでちょうどいいんだよ!」
京子が耳をふさぐ。
「わぁ……今日は本当にガチのやつ……」
江藤はニヤニヤしながら結を見る。
「結ちゃん、心拍上がってるよ。完全に戦闘モードだ」
「江藤さん黙っててください!!」
「はいはい二人とも、鍋投げないでねー」
結は自分のタルト用の林檎コンポートを取り上げる。
「いいですか奏さん。
料理における甘味っていうのは“優しさ”なんです。
素材をつなぎ、香りをまとめる力がある。
ラムにもスパイスにも甘味は必須です!」
奏はスパイスの瓶を並べながら反論する。
「塩こそが料理の芯なんだよ。
甘味は時々、主張しすぎて全体を濁らせる。
香りを引き締めるには、塩の輪郭が必要なんだ」
「優しさは必要なんです!」
「強さだって必要だ!」
結・奏「だから!!」
二人の声がぴったり重なる。
通りすがりの山本静江が
「……夫婦喧嘩?」
京子がにやにやしながら
「まだ付き合ってもないんですよ~」
江藤もつられてにやにやしながら
「いや、もうだいたい付き合ってるみたいなものでしょう」
奏・結「付き合ってない!!」
声の揃い方が妙に仲が良い。
結はエプロンをきつく締める。
「……わかりました。
奏さんの塩味のカレーと、
私の“甘味を軸にしたスパイスカレー”。
どっちがおいしいか勝負しましょう」
「望むところだ」
舞が艶やかに
「いいわねぇ、カレー戦争」
京子が意地悪い顔で
「負けた方が勝った方のお願いなんでも聞く、とか?」
奏・結「えっ⁉」
二人は顔を赤くしたまま、同時にうなずいた。
「「……わかった」」
数時間後。
舞、京子、江藤、そしてなぜか静江も並び、
二つのカレーを試食する。
「まず奏の塩スパイス……うん、香りは鮮烈ね」
舞が皿を鼻に近づけクンクンと嗅いでから一口食べてみる。
「輪郭あるな。けど攻撃的でもある」
快がまじまじと皿のカレーを見ながらがつがつと食べる
「はい次、結ちゃんの甘味カレー……え、香りやさしい……」
京子が驚きながらも止まらない様子で食べ進める
「……(もぐもぐ)……どちらも……悪くはないね」
静江の皿はほとんどからになっていた
全員の表情が複雑。
「これは……どちらが勝者とかじゃないわね」
「香りの強弱、甘味と塩味……方向性が違いすぎる」
「もう混ぜちゃえば?」
奏・結「えっ!?」
半信半疑で、二人のカレーを半量ずつ混ぜてみる。
甘味の丸み、塩の輪郭、
スパイスの強さと林檎の優しさ――
全部が噛み合う瞬間、
カレーが不思議なおいしさになった
舞が目を見張る。
「ちょっと……これ……すごいわよ……!
境界が消えて“調和”になってる」
「甘味と塩味の喧嘩じゃなくて……共鳴だね!」
「いがみ合うより、混ざった方が美味しい……ってことね」
「……っ」
「……お前の甘味、悪くなかったな」
「奏さんの塩味だって……ちゃんと意味、ありましたね」
どちらともなく、目が合う。
「……ごめんなさい、私…言いすぎました」
「俺もだ。甘味を軽く言った」
舞がニヤリ。
「はいはい、仲直りの握手は?」
結「い、いいです!」
奏「そ、そういうのは……!」
手を伸ばしあった。
触れた瞬間、結の耳が赤くなり、奏は目をそらす。
京子がほっとした様子で
「おー、甘味と塩味、和解しました!」
江藤は
「結局……相性良すぎなんだよねこの二人」
仕事が終わり、厨房を片付ける二人。
奏がぽつりとつぶやく。
「……結。お前の甘味、俺は好きだよ」
「………………っ!?
い、いきなり何言ってるんですか!!」
「いや……料理の話だ。料理の」
「そ、そうですよね!料理の話ですよね!!」
顔を真っ赤にしながら、
結はなぜかずっとカレー鍋を洗い続けていた。
奏はそんな結を見て、
ほんの少し、笑った。
第16話 「風邪ひきと看病とおじやと」につづく
スパイスの香りがむわっと漂い、結が鼻をひくひくさせた。
「奏さん……カレー作ってます?」
「新メニューの試作だ。
冬限定の“香味ラムと林檎のスパイスカレー”。」
奏は鍋をぐつぐつと煮ながら塩をぱらりと振った。
結は鍋を覗き味見をしてすぐに眉を寄せた。
「……塩ちょっと多くないですか?」
奏「あ?これでちょうどいいだろ」
結「ラムを煮詰めるなら、もう少し抑えた方が……甘味が死にます!」
奏「甘味なんて、後で砂糖足せば調整できるだろ」
そのひと言に、
結のこめかみがピクッと動いた。
「奏さん。
スイーツ担当の私の前で、
“砂糖であとから調整できる”は禁句です」
「いや事実だろ?」
「事実じゃありません!!」
――空気がピシッと割れた。
支配人が遠目からつぶやく。
「……これは見逃せない展開だな」
結は再度スプーンを取り、奏のカレーをひと口味見した。
途端にバシッと置く。
「……やっぱり塩、強すぎます!」
「甘味が強いとスパイスがぼやけるんだよ」
「甘味がなければ“奥行き”が生まれません!」
「塩が無いと“輪郭”が出ない!」
「スパイスに塩ぶつけてどうするんですか!!味がケンカしてます!」
「ケンカするくらいでちょうどいいんだよ!」
京子が耳をふさぐ。
「わぁ……今日は本当にガチのやつ……」
江藤はニヤニヤしながら結を見る。
「結ちゃん、心拍上がってるよ。完全に戦闘モードだ」
「江藤さん黙っててください!!」
「はいはい二人とも、鍋投げないでねー」
結は自分のタルト用の林檎コンポートを取り上げる。
「いいですか奏さん。
料理における甘味っていうのは“優しさ”なんです。
素材をつなぎ、香りをまとめる力がある。
ラムにもスパイスにも甘味は必須です!」
奏はスパイスの瓶を並べながら反論する。
「塩こそが料理の芯なんだよ。
甘味は時々、主張しすぎて全体を濁らせる。
香りを引き締めるには、塩の輪郭が必要なんだ」
「優しさは必要なんです!」
「強さだって必要だ!」
結・奏「だから!!」
二人の声がぴったり重なる。
通りすがりの山本静江が
「……夫婦喧嘩?」
京子がにやにやしながら
「まだ付き合ってもないんですよ~」
江藤もつられてにやにやしながら
「いや、もうだいたい付き合ってるみたいなものでしょう」
奏・結「付き合ってない!!」
声の揃い方が妙に仲が良い。
結はエプロンをきつく締める。
「……わかりました。
奏さんの塩味のカレーと、
私の“甘味を軸にしたスパイスカレー”。
どっちがおいしいか勝負しましょう」
「望むところだ」
舞が艶やかに
「いいわねぇ、カレー戦争」
京子が意地悪い顔で
「負けた方が勝った方のお願いなんでも聞く、とか?」
奏・結「えっ⁉」
二人は顔を赤くしたまま、同時にうなずいた。
「「……わかった」」
数時間後。
舞、京子、江藤、そしてなぜか静江も並び、
二つのカレーを試食する。
「まず奏の塩スパイス……うん、香りは鮮烈ね」
舞が皿を鼻に近づけクンクンと嗅いでから一口食べてみる。
「輪郭あるな。けど攻撃的でもある」
快がまじまじと皿のカレーを見ながらがつがつと食べる
「はい次、結ちゃんの甘味カレー……え、香りやさしい……」
京子が驚きながらも止まらない様子で食べ進める
「……(もぐもぐ)……どちらも……悪くはないね」
静江の皿はほとんどからになっていた
全員の表情が複雑。
「これは……どちらが勝者とかじゃないわね」
「香りの強弱、甘味と塩味……方向性が違いすぎる」
「もう混ぜちゃえば?」
奏・結「えっ!?」
半信半疑で、二人のカレーを半量ずつ混ぜてみる。
甘味の丸み、塩の輪郭、
スパイスの強さと林檎の優しさ――
全部が噛み合う瞬間、
カレーが不思議なおいしさになった
舞が目を見張る。
「ちょっと……これ……すごいわよ……!
境界が消えて“調和”になってる」
「甘味と塩味の喧嘩じゃなくて……共鳴だね!」
「いがみ合うより、混ざった方が美味しい……ってことね」
「……っ」
「……お前の甘味、悪くなかったな」
「奏さんの塩味だって……ちゃんと意味、ありましたね」
どちらともなく、目が合う。
「……ごめんなさい、私…言いすぎました」
「俺もだ。甘味を軽く言った」
舞がニヤリ。
「はいはい、仲直りの握手は?」
結「い、いいです!」
奏「そ、そういうのは……!」
手を伸ばしあった。
触れた瞬間、結の耳が赤くなり、奏は目をそらす。
京子がほっとした様子で
「おー、甘味と塩味、和解しました!」
江藤は
「結局……相性良すぎなんだよねこの二人」
仕事が終わり、厨房を片付ける二人。
奏がぽつりとつぶやく。
「……結。お前の甘味、俺は好きだよ」
「………………っ!?
い、いきなり何言ってるんですか!!」
「いや……料理の話だ。料理の」
「そ、そうですよね!料理の話ですよね!!」
顔を真っ赤にしながら、
結はなぜかずっとカレー鍋を洗い続けていた。
奏はそんな結を見て、
ほんの少し、笑った。
第16話 「風邪ひきと看病とおじやと」につづく
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