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第1章 宿り木ホテルと季節の人々
第17話 大掃除と鬼と牛丼と
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冬の冷たい空気がホテル リトルフォレスト の廊下に満ちる朝。
結は完全復活した勢いそのままに、ほうきを抱えて厨房に入ってきた。
「奏さん! 今日、大掃除がしたいです!」
「……なんでだ」
「体を動かしたくて。あと……風邪で迷惑かけたし、ホテルに恩返ししたいので!」
京子が横からひょこっと顔を出した。
「わかるー! じゃあ私も手伝う! ついでに恋愛運の上がる掃除とかしよ!」
舞も工具袋を肩にかけて加わる。
「天井裏もやる? あそこホコリやばいよ」
江藤も、なぜか雑巾を指に巻いて参戦した。
「女性が頑張るなら、俺も動かないとね」
奏は渋い顔のままだったが、結にじっと見つめられ、観念した。
「……わかった。手伝う」
だが――この後、全員が後悔する。
このホテルに“掃除の鬼”がいることを忘れていたのだ。
「……騒がしいわね」
いつのまにか背後に立っていたのは、清掃係・山本静江。
黒髪をひっつめ、無表情のままみんなの掃除道具をじっと見つめる。
結「し、静江さん! 今日、みんなで大掃除を……!」
静江「そうかい見ていられないねぇ……貸して」
そう言った瞬間、静江さんの影が――まるで分身のように動き始めた。
――まずはロビー――
「結さん。そこの観葉植物の下……“埃”。やり直し!!」
「ひっ……!」
「静江さん、床は私が—」
「舞さんまだ汚い。“やり直し”!!」
「え、えぇ……」
京子が窓ガラスを拭いていると。
「京子さん。そこ、指紋残ってる。“やり直し”!!」
「ひいっ!?」
江藤はこっそり逃げようとした。
「江藤さん。どこ行くんだい逃走禁止だよ!!」
江藤「こわっ……!」
奏は雑巾をしぼりながらぼそりと言った。
「……俺料理人なんだけど」
「料理人でも埃は許されない」
「……はい」
――つぎは厨房――
奏は本来ならこのエリアの絶対王者のはずなのに、
今日だけは静江が皇帝だった。
「奏さん。換気扇の裏……“まだ”汚い」
「え、もう三回やったんだが」
「四回目をやるんだよ!!」
結は冷蔵庫を拭いている。
「結さん。棚の“上”。忘れてる」
「はいっ!」
「静江さん、今日なんか怖くない?」
「いや普段も怖いよ」
「京子さん、麻衣さん口だけじゃなく手も動かす!!」
静江は淡々としていた。怒ってもいないし、イライラしてもいない。
ただ黙々と――ひたすら完成度だけを追求している。
その純粋さが逆に怖い。
その後ホテル中を静江の指揮のもと清掃し
最後は全員、肩で息をするようになっていた。
しかし結だけは不思議なほど元気だった。
「なんか……楽しいです!」
「結お前、強いな……」
「もう私う腰が……」
「私も脚が震えてる……」
「俺も心が折れた……」
「歩き方がシャキッとしてない。やり直し!!」
全員「ひいいいい!!」
大掃除、完了
その日の夕方
リトルフォレストはまるで新築のように輝いていた。
壁は白く、床は磨かれ、窓は鏡のように景色を映し返す。
天井裏まで埃ひとつ残っていない。
支配人の木島が帰ってきて、その光景に目を丸くした。
「……なんの奇跡だ? 今日ここで神でも降臨したのか?」
「京子鬼ならいたよね……」
「そうね舞、清掃の……ね」
奏は壁にもたれかかりながら言った。
「二度とやらない……」
「俺も……」
だが結だけは、両腕を広げて嬉しそうに笑っていた。
「見てください! リトルフォレスト、最高に綺麗です!」
奏はその笑顔を見て、疲れがふっと軽くなるのを感じた。
「……まあ、悪くないか…」
佐山結の満面の笑み。
それは今日一日、スタッフ全員がへばるまで動いた理由を、すべて肯定する光のようだった。
そんな彼女を見た静江が、小さく――本当に小さく。
「……よく頑張りましたね」
と呟いた。
全員が一瞬黙った。
静江さんの“褒め言葉”は、年に一度あるかどうかの貴重品だ。
結はぱあっと笑って頭を下げた。
「ありがとうございます! 静江さんまた一緒に……」
「そうね」
「はい!!ありがとうございます」
その日の夜
リトルフォレストは静寂に包まれていた。
いつもなら夜の賄いの準備で慌ただしいはずの厨房も、
今日は妙にしんとした空気が漂っている。
奏も結も大掃除で全身筋肉痛になっていた
結は厨房の椅子に座ったまま
「……今夜のまかない、どうします?」
奏は天井を仰ぎながら
「……牛丼でよくない?」
筋肉痛でも手際はプロ。
しかし動きは終始ぎこちなかった。
しかし香ばしい香りが立ち上った瞬間お腹はすく
食堂にて
支配人と静江以外の全員、牛丼の器を持ち上げられず
仕方なく、
器をテーブルに置いたまま少しずつスプーンでかきこんでいく。
支配人はニコニコしながら
「いや~きれいなホテルで食べる牛丼美味いね」
結はしみじみしながら
「なんか、沁みますね……」
静江は
「あれだけ動き回ったらご飯も美味しいはずだよ」
奏は苦笑しつつも、
自分の牛丼が皆の“復活の儀式”になっているのを感じてちょっと嬉しい。
食べ終えて、動けずに机に突っ伏している中——
京子
「……来年の大掃除、外注しません?」
全員
「賛成ーーーー……」
静江だけは腕を組み笑顔で
「何言ってるの。来年はもっと計画的に徹底的にやるわよ」
第18話 「収穫祭ディナーと白みそ鍋と秋全開カクテルと」
結は完全復活した勢いそのままに、ほうきを抱えて厨房に入ってきた。
「奏さん! 今日、大掃除がしたいです!」
「……なんでだ」
「体を動かしたくて。あと……風邪で迷惑かけたし、ホテルに恩返ししたいので!」
京子が横からひょこっと顔を出した。
「わかるー! じゃあ私も手伝う! ついでに恋愛運の上がる掃除とかしよ!」
舞も工具袋を肩にかけて加わる。
「天井裏もやる? あそこホコリやばいよ」
江藤も、なぜか雑巾を指に巻いて参戦した。
「女性が頑張るなら、俺も動かないとね」
奏は渋い顔のままだったが、結にじっと見つめられ、観念した。
「……わかった。手伝う」
だが――この後、全員が後悔する。
このホテルに“掃除の鬼”がいることを忘れていたのだ。
「……騒がしいわね」
いつのまにか背後に立っていたのは、清掃係・山本静江。
黒髪をひっつめ、無表情のままみんなの掃除道具をじっと見つめる。
結「し、静江さん! 今日、みんなで大掃除を……!」
静江「そうかい見ていられないねぇ……貸して」
そう言った瞬間、静江さんの影が――まるで分身のように動き始めた。
――まずはロビー――
「結さん。そこの観葉植物の下……“埃”。やり直し!!」
「ひっ……!」
「静江さん、床は私が—」
「舞さんまだ汚い。“やり直し”!!」
「え、えぇ……」
京子が窓ガラスを拭いていると。
「京子さん。そこ、指紋残ってる。“やり直し”!!」
「ひいっ!?」
江藤はこっそり逃げようとした。
「江藤さん。どこ行くんだい逃走禁止だよ!!」
江藤「こわっ……!」
奏は雑巾をしぼりながらぼそりと言った。
「……俺料理人なんだけど」
「料理人でも埃は許されない」
「……はい」
――つぎは厨房――
奏は本来ならこのエリアの絶対王者のはずなのに、
今日だけは静江が皇帝だった。
「奏さん。換気扇の裏……“まだ”汚い」
「え、もう三回やったんだが」
「四回目をやるんだよ!!」
結は冷蔵庫を拭いている。
「結さん。棚の“上”。忘れてる」
「はいっ!」
「静江さん、今日なんか怖くない?」
「いや普段も怖いよ」
「京子さん、麻衣さん口だけじゃなく手も動かす!!」
静江は淡々としていた。怒ってもいないし、イライラしてもいない。
ただ黙々と――ひたすら完成度だけを追求している。
その純粋さが逆に怖い。
その後ホテル中を静江の指揮のもと清掃し
最後は全員、肩で息をするようになっていた。
しかし結だけは不思議なほど元気だった。
「なんか……楽しいです!」
「結お前、強いな……」
「もう私う腰が……」
「私も脚が震えてる……」
「俺も心が折れた……」
「歩き方がシャキッとしてない。やり直し!!」
全員「ひいいいい!!」
大掃除、完了
その日の夕方
リトルフォレストはまるで新築のように輝いていた。
壁は白く、床は磨かれ、窓は鏡のように景色を映し返す。
天井裏まで埃ひとつ残っていない。
支配人の木島が帰ってきて、その光景に目を丸くした。
「……なんの奇跡だ? 今日ここで神でも降臨したのか?」
「京子鬼ならいたよね……」
「そうね舞、清掃の……ね」
奏は壁にもたれかかりながら言った。
「二度とやらない……」
「俺も……」
だが結だけは、両腕を広げて嬉しそうに笑っていた。
「見てください! リトルフォレスト、最高に綺麗です!」
奏はその笑顔を見て、疲れがふっと軽くなるのを感じた。
「……まあ、悪くないか…」
佐山結の満面の笑み。
それは今日一日、スタッフ全員がへばるまで動いた理由を、すべて肯定する光のようだった。
そんな彼女を見た静江が、小さく――本当に小さく。
「……よく頑張りましたね」
と呟いた。
全員が一瞬黙った。
静江さんの“褒め言葉”は、年に一度あるかどうかの貴重品だ。
結はぱあっと笑って頭を下げた。
「ありがとうございます! 静江さんまた一緒に……」
「そうね」
「はい!!ありがとうございます」
その日の夜
リトルフォレストは静寂に包まれていた。
いつもなら夜の賄いの準備で慌ただしいはずの厨房も、
今日は妙にしんとした空気が漂っている。
奏も結も大掃除で全身筋肉痛になっていた
結は厨房の椅子に座ったまま
「……今夜のまかない、どうします?」
奏は天井を仰ぎながら
「……牛丼でよくない?」
筋肉痛でも手際はプロ。
しかし動きは終始ぎこちなかった。
しかし香ばしい香りが立ち上った瞬間お腹はすく
食堂にて
支配人と静江以外の全員、牛丼の器を持ち上げられず
仕方なく、
器をテーブルに置いたまま少しずつスプーンでかきこんでいく。
支配人はニコニコしながら
「いや~きれいなホテルで食べる牛丼美味いね」
結はしみじみしながら
「なんか、沁みますね……」
静江は
「あれだけ動き回ったらご飯も美味しいはずだよ」
奏は苦笑しつつも、
自分の牛丼が皆の“復活の儀式”になっているのを感じてちょっと嬉しい。
食べ終えて、動けずに机に突っ伏している中——
京子
「……来年の大掃除、外注しません?」
全員
「賛成ーーーー……」
静江だけは腕を組み笑顔で
「何言ってるの。来年はもっと計画的に徹底的にやるわよ」
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