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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第116話 決勝課題
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会場が再び静まる。
準決勝進出者4名がステージ上に並ぶ。
照明は強いがどこか落ち着いた色だ。
司会者がゆっくりと口を開く。
「決勝試験の課題をここで発表します」
結は自然と背筋を伸ばした。
心拍数はもう上がらない。
覚悟が先に立っていた。
「決勝試験の課題は――」
一拍。
「フルコースです」
ざわ、と会場全体が揺れる。
隣の料理人が小さく息を呑む音が聞こえた。
「前菜、
スープ、
魚料理、
肉料理、
デザート」
「制限時間内にすべてを提供し
“一人の料理人としての世界観”を
評価いたします」
結は目を閉じなかった。
逃げなかった。
一皿ではない。
技術でもない。
料理人としての生き方を見せるフルコース。
そう直感的に理解した。
「なお使用食材は自由とし料理ジャンルも自由です」
完全な真剣勝負。
結は深く息を吸った。
そして、ゆっくり吐いた。
怖さはある。
でも。
やっと、ここまで来た。
コンクール後ホテルに戻った夜
――祝勝会という名のいつもの場所
ホテルの厨房。
結が戻ると厨房の灯りがまだ点いていた。
「おかえり」
最初に声をかけたのは公だった。
大げさな拍手はない。
横断幕もない。
でも。
テーブルの上には料理が並んでいた。
ローストチキン。
温野菜。
簡単なパスタ。
「……祝勝会ですか?」
結が言うと京子が肩をすくめる。
「大げさなのは決勝終わってからね」
舞が笑う。
「今日は“おかえり会”かな」
奏は少し離れた場所でグラスを持っていた。
静かに見ている。
結は席についた。
みんなと一緒に。
料理はいつもの味だった。
派手じゃない。
でも、妙に美味しい。
「……落ち着きます」
結が言うと公が笑った。
「それがホームだろ」
その言葉に胸の奥が
少し温かくなる。
誰も決勝の話をしない。
誰もプレッシャーをかけない。
ただ、
食べて、
飲んで、
少し笑う。
逃げ場があることが、
どれほど大切か。
結は今になって分かった。
「勝ちたい」という言葉
初めての欲
片付けが終わり厨房が静まったあと。
結は一人で作業台を拭いていた。
そこに奏が来る。
「……決勝」
低い声。
「どう思う」
結はすぐには答えなかった。
布巾を畳み、
手を止める。
「……正直」
「やっぱり怖いです」
奏は頷くだけ。
「でも」
結は顔を上げた。
「今回は違います」
言葉を探しながら。
「今までは、
“できるところまででいい”
ってどこかで思ってました」
「負けても経験だって
逃げ道を作ってた」
拳を少しだけ握る。
「でも……」
一拍。
深呼吸。
「決勝は勝ちたいです」
声は震えていなかった。
「このホテルで。
この厨房で。
この人たちに囲まれて」
「自分の料理で一番を取りたい」
言い切った瞬間。
胸が少し痛くなる。
でも。
不思議と後悔はなかった。
奏は、
結を見て――
ほんの一瞬笑った。
「……そう言えるようになったか」
それだけ。
でも。
その一言が何よりの料理人としての承認だった。
厨房の灯りを落とす。
外はもう深夜だ。
結は、
包丁ケースを
抱えながら思う。
決勝は怖い。
でも。
逃げない。
誤魔化さない。
勝ちに行く。
それが今の自分だ。
新しい章が、
静かに、
確実に――
始まっていた。
準決勝進出者4名がステージ上に並ぶ。
照明は強いがどこか落ち着いた色だ。
司会者がゆっくりと口を開く。
「決勝試験の課題をここで発表します」
結は自然と背筋を伸ばした。
心拍数はもう上がらない。
覚悟が先に立っていた。
「決勝試験の課題は――」
一拍。
「フルコースです」
ざわ、と会場全体が揺れる。
隣の料理人が小さく息を呑む音が聞こえた。
「前菜、
スープ、
魚料理、
肉料理、
デザート」
「制限時間内にすべてを提供し
“一人の料理人としての世界観”を
評価いたします」
結は目を閉じなかった。
逃げなかった。
一皿ではない。
技術でもない。
料理人としての生き方を見せるフルコース。
そう直感的に理解した。
「なお使用食材は自由とし料理ジャンルも自由です」
完全な真剣勝負。
結は深く息を吸った。
そして、ゆっくり吐いた。
怖さはある。
でも。
やっと、ここまで来た。
コンクール後ホテルに戻った夜
――祝勝会という名のいつもの場所
ホテルの厨房。
結が戻ると厨房の灯りがまだ点いていた。
「おかえり」
最初に声をかけたのは公だった。
大げさな拍手はない。
横断幕もない。
でも。
テーブルの上には料理が並んでいた。
ローストチキン。
温野菜。
簡単なパスタ。
「……祝勝会ですか?」
結が言うと京子が肩をすくめる。
「大げさなのは決勝終わってからね」
舞が笑う。
「今日は“おかえり会”かな」
奏は少し離れた場所でグラスを持っていた。
静かに見ている。
結は席についた。
みんなと一緒に。
料理はいつもの味だった。
派手じゃない。
でも、妙に美味しい。
「……落ち着きます」
結が言うと公が笑った。
「それがホームだろ」
その言葉に胸の奥が
少し温かくなる。
誰も決勝の話をしない。
誰もプレッシャーをかけない。
ただ、
食べて、
飲んで、
少し笑う。
逃げ場があることが、
どれほど大切か。
結は今になって分かった。
「勝ちたい」という言葉
初めての欲
片付けが終わり厨房が静まったあと。
結は一人で作業台を拭いていた。
そこに奏が来る。
「……決勝」
低い声。
「どう思う」
結はすぐには答えなかった。
布巾を畳み、
手を止める。
「……正直」
「やっぱり怖いです」
奏は頷くだけ。
「でも」
結は顔を上げた。
「今回は違います」
言葉を探しながら。
「今までは、
“できるところまででいい”
ってどこかで思ってました」
「負けても経験だって
逃げ道を作ってた」
拳を少しだけ握る。
「でも……」
一拍。
深呼吸。
「決勝は勝ちたいです」
声は震えていなかった。
「このホテルで。
この厨房で。
この人たちに囲まれて」
「自分の料理で一番を取りたい」
言い切った瞬間。
胸が少し痛くなる。
でも。
不思議と後悔はなかった。
奏は、
結を見て――
ほんの一瞬笑った。
「……そう言えるようになったか」
それだけ。
でも。
その一言が何よりの料理人としての承認だった。
厨房の灯りを落とす。
外はもう深夜だ。
結は、
包丁ケースを
抱えながら思う。
決勝は怖い。
でも。
逃げない。
誤魔化さない。
勝ちに行く。
それが今の自分だ。
新しい章が、
静かに、
確実に――
始まっていた。
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