ホテル「ソラスフォレスト」と季節の人々 ~44歳男性コックと25歳女性コックの不器用関係と不思議なスタッフと~

物書き赤べこ

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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に

第115話 結果発表

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 会場の照明が少し落とされる。

 司会者が台本を持ち直す音が
 やけに大きく聞こえた。

「それでは第四次試験・準決勝。
 Bグループ決勝進出者の二名を発表いたします」

 結は背筋を伸ばしたまま手を握りしめる。

 指先が少し冷たい。

 隣に立つ他の料理人たちの息遣いが、
 やけに近い。

「……まず一人目」

 間。

 ほんの数秒。
 それでも永遠みたいに長い。

「フリーランス料理人
 黒崎一期」

 歓声。

 拍手。

 黒崎が前に出る。

 結は反射的に拍手をした。

 きちんと。
 ちゃんと。

 まだ、終わっていない。

 司会者が視線を落とす。

「そして――二人目です。」

 結の耳鳴りが強くなる。

 観客席。

 京子が両手を胸の前で握りしめている。

 舞は無言で親指を立てていた。

 厨房組は誰一人声を出さない。

 声を出さないという応援。

「――
 ホテル・ソラスフォレスト所属」

 そこで息が止まる。

「佐山結(ゆい)」

 一瞬。

 「えっ」

 本当に一瞬だけ。

 結は自分の名前が理解できなかった。

 次の瞬間。

 音が戻ってくる。

 拍手。
 歓声。
 椅子が揺れる音。

 誰かが名前を呼んでいる。

 でも。

 結は動けなかった。

 奏の声が客席から届く。

「……行け」

 短い。
 でも確かな声。

 結は一歩前に出た。

 二歩。

 三歩。

 スポットライトが、
 正面から当たる。

 眩しい。

 でも目は逸らさなかった。

 逃げなかった。

 司会者がマイクを向ける。

「今のお気持ちは?」

 定番の質問。

 なのに。

 結は少し考えてから答えた。

「……
 やっと、
 料理に恩返しができました」

 会場がざわつく。

「これまでずっと料理を作ってきましたが
 一方通行な感じでしたが」

「でも今日はちゃんと
 料理に感謝出来た気がします
 皆さんありがとうございました!!」

 言い終えた瞬間。

 観客席からひときわ大きな拍手が起きた。

 ホテルスタッフだ。

 揃って立ち上がっている。

 誰が合図したわけでもない。

 ただ自然に。

 結はその光景を見て
 初めて――

 少しだけ目が潤んだ。

 舞が口パクで言う。

「おかえり」

 京子はもう号泣だ。

 木島支配人は腕を組んだまま静かに頷く。

 控室へ戻る途中。

 奏が隣を歩く。

「……お疲れ」

 それだけ。

 でも。

 結は、足を止めた。

「すごく……怖かったです」

「遅れてるって分かってて、
 止められなくて」

 奏は少しだけ考えてから
 言った。

「遅れてたんじゃない」

「流されなかっただけだ」

 結ははっとして奏を見る。

「それができる料理人は案外少ない」

 視線がまっすぐだった。

「だから、決勝に行けた」

 結は小さく笑った。

「……はい、それとお願いがあります」

「ん?なんだ?」

「少しでいいのでギュッとしてもらえませんか?」

「……分かった」

奏は優しく結を抱きしめた

「ありがとうございます、いまさら震えが来ちゃって……」

「そうか、本当によく頑張ったな」

 外ではまだ拍手が続いている。

 でも。

 結の中は静かだった。

 包丁を研ぎ続けた夜。
 眠れなかった不安。
 他人の完成度に
 押し潰されそうになった瞬間。

 全部。

 今日の一皿に置いてきた。

 そして。

 次は――決勝。

 もう、
 逃げる理由はない。
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