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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第114話 審査
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審査員の前に結の皿が置かれる。
照明が当たりソースがわずかに反射する。
結の皿には派手さはない流行りの盛り方でもない。
けれど、どこか“異次元の静けさ”があった。
最初の審査員がフォークを入れる。
肉がすっと切れた。
その瞬間、結の心臓が強く打つ。
硬すぎず柔らかすぎない。
狙った通り。
一口食べると審査員の眉がほんの少し動く。
次の審査員が同じように口へ運ぶ。
――沈黙。
観客席も音を失う。
評価が始まるまでのこの時間が一番長く感じた。
やがて一人が口を開いた。
「……正直に言います」
結の背筋が伸びる。
「これは今大会で一番“遅れて”出てきた皿です」
胸がきゅっと締めつけられる。
やっぱり。
そう思ったその直後。
「ですが食べる側の時間としても一番ゆっくり流れた
そんな一皿でした。」
結は息を止めた。
別の審査員が続く。
「派手な驚きはなかった。
ですが途中でナイフとフォークを置くことができませんでした」
「途中で“続きを食べたい”と思わせるのは技術以上の何かが必要だと思います」
評価が割れ始める。
「完成度で言えば、
他に上がいる皿はあると思いますが」
「だが“作った料理人が見える皿はこの皿以外には私はないと思う」
結の胸に熱が広がる。
審査員の一人が、
結を見た。
「あなたはこの料理で何を伝えたかったのでしょうか?」
一瞬、
言葉が詰まる。
でも。
不思議と怖くはなかった。
「食べる事に……急いでほしくない。
私の勝ち負けではなく
ここまで来ることができたお礼として
食事をゆっくり楽しんでほしい
そういう思いでこの皿を作りました」
会場が、
ざわりとする。
「早く仕上げるより、
皆様が食べ続けることを選びました」
「美味しく“見せる”より、
美味しく“終わる”ことを考えました」
結は自分の声を聞きながら気づく。
これが――
私の料理の言葉だ。
「最後にもう一度食べたいと思ってもらえたら
それでいいと思いました」
沈黙……
そして。
小さな拍手。
最初は一人。
次に、数人。
やがて観客席全体へ広がる。
結は目を伏せた。
涙は出なかった。
代わりに、
胸の奥が
静かに満たされていく。
観客席。
京子が鼻をすすっている。
「……もう、完全にプロの顔じゃん」
舞は腕を組んだまま小さく頷く。
木島支配人は、
満足そうに笑っていた。
そして――
奏。
彼は拍手をしなかった。
ただ、目を細めていた。
“見届ける”という表情。
それが、
何よりの答えだった。
結果はまだ出ない。
でも。
結ははっきりと分かっていた。
今日、
自分は初めて――
料理人として、
胸を張って立っている。
照明が当たりソースがわずかに反射する。
結の皿には派手さはない流行りの盛り方でもない。
けれど、どこか“異次元の静けさ”があった。
最初の審査員がフォークを入れる。
肉がすっと切れた。
その瞬間、結の心臓が強く打つ。
硬すぎず柔らかすぎない。
狙った通り。
一口食べると審査員の眉がほんの少し動く。
次の審査員が同じように口へ運ぶ。
――沈黙。
観客席も音を失う。
評価が始まるまでのこの時間が一番長く感じた。
やがて一人が口を開いた。
「……正直に言います」
結の背筋が伸びる。
「これは今大会で一番“遅れて”出てきた皿です」
胸がきゅっと締めつけられる。
やっぱり。
そう思ったその直後。
「ですが食べる側の時間としても一番ゆっくり流れた
そんな一皿でした。」
結は息を止めた。
別の審査員が続く。
「派手な驚きはなかった。
ですが途中でナイフとフォークを置くことができませんでした」
「途中で“続きを食べたい”と思わせるのは技術以上の何かが必要だと思います」
評価が割れ始める。
「完成度で言えば、
他に上がいる皿はあると思いますが」
「だが“作った料理人が見える皿はこの皿以外には私はないと思う」
結の胸に熱が広がる。
審査員の一人が、
結を見た。
「あなたはこの料理で何を伝えたかったのでしょうか?」
一瞬、
言葉が詰まる。
でも。
不思議と怖くはなかった。
「食べる事に……急いでほしくない。
私の勝ち負けではなく
ここまで来ることができたお礼として
食事をゆっくり楽しんでほしい
そういう思いでこの皿を作りました」
会場が、
ざわりとする。
「早く仕上げるより、
皆様が食べ続けることを選びました」
「美味しく“見せる”より、
美味しく“終わる”ことを考えました」
結は自分の声を聞きながら気づく。
これが――
私の料理の言葉だ。
「最後にもう一度食べたいと思ってもらえたら
それでいいと思いました」
沈黙……
そして。
小さな拍手。
最初は一人。
次に、数人。
やがて観客席全体へ広がる。
結は目を伏せた。
涙は出なかった。
代わりに、
胸の奥が
静かに満たされていく。
観客席。
京子が鼻をすすっている。
「……もう、完全にプロの顔じゃん」
舞は腕を組んだまま小さく頷く。
木島支配人は、
満足そうに笑っていた。
そして――
奏。
彼は拍手をしなかった。
ただ、目を細めていた。
“見届ける”という表情。
それが、
何よりの答えだった。
結果はまだ出ない。
でも。
結ははっきりと分かっていた。
今日、
自分は初めて――
料理人として、
胸を張って立っている。
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