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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に
第113話 時間一杯の決断からの完成
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残り時間の表示が結の視界の上部に入った。
残り二十分。
場内に微妙な緊張が走る。
完成した皿がひとつまたひとつと
審査台へ運ばれていく。
カメラが追い観客が息を詰める。
(……二十分)
長いようで短い。
結の皿はまだ“完成形”ではない。
焼きは終わった。
付け合わせも火入れは完了。
だが――
最後の要素がまだ決まっていない。
ソース。
鍋の中で静かに揺れている。
シチューをベースにした今回の核。
温度は適正。
濃度も悪くない。
でも。
(……このままじゃ、ただ“美味い”で終わる)
結はスプーンを持ったまま
動けなくなる。
安全にまとめるか。
それとも――
(これから踏み込む?)
一瞬頭に浮かぶのは
これまでの失敗。
カルボナーラでの敗北。
ペペロンチーノを作り続けた夜。
料理が嫌いになりかけた瞬間。
でも。
その奥に別の記憶が重なる。
炊き出しの湯気。
何も飾らない味。
「温度」を感じたあの日の一杯。
奏の声が脳裏に蘇る。
――料理は嘘をつかない。
(……じゃあ)
(私はどうなんだろう?)
結は鍋を持ち上げた。
ソースをもう一段煮詰める。
火を強める。
周囲から小さなどよめき。
今さら?
ここで?
という空気。
でも、止めない。
焦げる寸前まで水分を飛ばす。
香りが変わる。
甘みが立ちコクが前に出る。
その瞬間。
(ここだ!!)
結は火を落とした。
すぐに仕上げへ入る。
皿はシンプルな白。
中央に肉。
付け合わせは、
高さを出さず、
あくまで“添える”。
最後に――
ソース。
たっぷり、
でも溺れさせない。
スプーンで、
一筋。
肉と野菜を繋ぐように。
残り五分。
結は皿を持ち上げた。
少しだけ手が震える。
でも、それを止めようとはしなかった。
(……大丈夫)
審査台へ向かう途中。
観客席が再び視界に入る。
スタッフ全員が静かに見ていた。
応援のポーズはもうない。
ただ、
信じて待つ顔。
奏だけが小さく息を吐いたのが見えた。
結は目を逸らさず、
皿を置く。
カチリと音がして
制限時間終了の合図。
場内が一瞬静まり返る。
審査員が順に皿を見る。
視線が止まる。
結の皿の前でほんの少しだけ長く。
誰かが小さく言った。
「……遅かったけど空気感が違う」
結の胸がきゅっと縮む。
オペレーション的には遅れていた。
それは確かだ。
でも――
遅れたからこそ削らなかったものがある。
そのことを初めて他人の言葉で
肯定された瞬間だった。
結は深く息を吸い、
そして、ゆっくり吐いた。
(……やっと)
(ここまで来た)
結果はまだ分からない。
でも……
この皿を出せたことだけは胸を張っていい。
結はそう思えた。
残り二十分。
場内に微妙な緊張が走る。
完成した皿がひとつまたひとつと
審査台へ運ばれていく。
カメラが追い観客が息を詰める。
(……二十分)
長いようで短い。
結の皿はまだ“完成形”ではない。
焼きは終わった。
付け合わせも火入れは完了。
だが――
最後の要素がまだ決まっていない。
ソース。
鍋の中で静かに揺れている。
シチューをベースにした今回の核。
温度は適正。
濃度も悪くない。
でも。
(……このままじゃ、ただ“美味い”で終わる)
結はスプーンを持ったまま
動けなくなる。
安全にまとめるか。
それとも――
(これから踏み込む?)
一瞬頭に浮かぶのは
これまでの失敗。
カルボナーラでの敗北。
ペペロンチーノを作り続けた夜。
料理が嫌いになりかけた瞬間。
でも。
その奥に別の記憶が重なる。
炊き出しの湯気。
何も飾らない味。
「温度」を感じたあの日の一杯。
奏の声が脳裏に蘇る。
――料理は嘘をつかない。
(……じゃあ)
(私はどうなんだろう?)
結は鍋を持ち上げた。
ソースをもう一段煮詰める。
火を強める。
周囲から小さなどよめき。
今さら?
ここで?
という空気。
でも、止めない。
焦げる寸前まで水分を飛ばす。
香りが変わる。
甘みが立ちコクが前に出る。
その瞬間。
(ここだ!!)
結は火を落とした。
すぐに仕上げへ入る。
皿はシンプルな白。
中央に肉。
付け合わせは、
高さを出さず、
あくまで“添える”。
最後に――
ソース。
たっぷり、
でも溺れさせない。
スプーンで、
一筋。
肉と野菜を繋ぐように。
残り五分。
結は皿を持ち上げた。
少しだけ手が震える。
でも、それを止めようとはしなかった。
(……大丈夫)
審査台へ向かう途中。
観客席が再び視界に入る。
スタッフ全員が静かに見ていた。
応援のポーズはもうない。
ただ、
信じて待つ顔。
奏だけが小さく息を吐いたのが見えた。
結は目を逸らさず、
皿を置く。
カチリと音がして
制限時間終了の合図。
場内が一瞬静まり返る。
審査員が順に皿を見る。
視線が止まる。
結の皿の前でほんの少しだけ長く。
誰かが小さく言った。
「……遅かったけど空気感が違う」
結の胸がきゅっと縮む。
オペレーション的には遅れていた。
それは確かだ。
でも――
遅れたからこそ削らなかったものがある。
そのことを初めて他人の言葉で
肯定された瞬間だった。
結は深く息を吸い、
そして、ゆっくり吐いた。
(……やっと)
(ここまで来た)
結果はまだ分からない。
でも……
この皿を出せたことだけは胸を張っていい。
結はそう思えた。
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