ホテル「ソラスフォレスト」と季節の人々 ~44歳男性コックと25歳女性コックの不器用関係と不思議なスタッフと~

物書き赤べこ

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第2章 季節の変わり目は複雑な天気に

第139話 めちゃくちゃ観戦!!

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 ホテルのラウンジにはありえない人数が集まっていた。

 テーブルには酒。
 カウンターにも酒。
 なぜか業務用ケースで届いた酒。

 「……これ、打ち上げじゃないですよね?」

 結が恐る恐る聞くと京子が即答した。

 「違うわ。これはみんなで“観戦”」
 「完全に宴会に見えますけど」
 「気のせいよ」

 その時点ですでに川谷は日本酒を開けていた。

 「いやあ、テレビ出るって聞いたらね」
 「なんで来てるんですか」
 「これはある種縁起物だろ」

 意味が分からない。

 テレビがつく。

 画面に映る緊張した顔の料理人たち。

 「出た出た!あの包丁の持ち方!」
 「結ちゃん肩上がってる!」
 「今のカメラ寄りすぎ!」
 「結ちゃん一番かわいいなぁ~」

 まだ一皿も出ていない。

 奏は腕を組み黙っている。
 だが隣の舞が肘で突いた。

 「ねえ奏今のカットどう思う?」
 「……編集がなんかうるさいな」
 「だよね」

 静江はいつの間にかテレビの真横に立っていた。
 誰も気づかなかった。

 前菜が映る。

 「トマトのプリンです!」

 一斉に声が上がる。

 「出た!」
 「それそれ!」
 「昨日賄いで食べたやつ!」

 木島が腕を組み、満足げに頷く。

 「うちの自慢の料理人のうちの料理だ!!!!」
 「支配人、誇らしげすぎです」
 「当たり前だろ!!!!」

 黒いスープが映った瞬間。

 「……あ」
 「黒っ」
 「攻めすぎ!」

 快がグラスを掲げる。

 「この色で引かない審査員に乾杯」
 「なんで乾杯なんですか!」

 川谷が真顔で言う。

 「これ、現場で見たらもっと黒いんですよ~」
 「言わなくていいです」

 鯛、豚、デザートと進むにつれ酒の量も進む。

 「今のカメラワークだとリンゴが見えないな」
 「干し柿カットしすぎ!」
 「塩、今入れた?」

 完全に副音声だった。

 結はソファの端で縮こまっていた。

 「……これ、私の料理ですよね」
 「そうよ?」
 「なんでこんなに落ち着かないんですか」
 「生きてるから」

 京子の答えは意味不明だった。

 結果発表。

 静まり返るラウンジ。

 「……二位!」

 一瞬の沈黙のあと、

 「よし!」
 「十分!」
 「初出場でこれは化け物!」

 なぜか拍手。

 結が慌てる。

 「い、いや、悔しいですし」
 「それはそれ」
 「これはこれ」

 奏が初めて口を開く。

 「胸張れ」
 「……はい」

 エンドロールが流れた瞬間誰かが言った。

 「よしっ!!、飲み直すぞ!!」
 「もう飲んでる!」

 グラスが鳴る。

 笑い声が重なる。

 テレビの中の結と今ここにいる結は同じ顔をしていなかった。

 だがそれでいいと結は思った。

 料理は流れていく。
 けれど、こうして見てくれる人たちがいる。

 「……次は一位を見せますからね!!」
 「お、言ったな」
 「記録した?」
 「してないけど覚えた」

 ラウンジは夜遅くまでうるさかった。

 それは悪くない騒がしさだった。
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