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1章:鬼狩りαはΩになる

8:鬼狩りαはΩになる(1)※

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(信じられない……)
 
 本当にこれで治るのか……? と思っていたが、宙がアラタの腕をペロペロと舐め始めた瞬間、その傷口からかすかに煙のようなものが出て、ゆっくりと傷が癒されていくではないか。
 その、まるで魔法か呪いのような光景に、アラタはまだ自分は悪い夢でも見ているのではないかと、我が目を疑った。同僚に体を舐められている……その信じがたい事実から目をそらすため、アラタはボソリと宙に話題を振った。
 
「……君のことをもう少し詳しく訊いてもいいですか?」
「おっ、アラタさん、俺に興味あるのー?」
「別に君自身に然程興味はありませんが、仕事には役に立ちそうなので」
 
 アラタの返しに、宙はふはっと笑うと、気を悪くした様子もなく、まあ、俺の正体はさっき見たまんまっスよ、と伝えた。
 
「何代前か知らねーけど、陰陽師やってた俺の祖先と関係持った相手に鬼の血が混じってたみたいなんですよね。通常であればそういう子供は「産まれない」んですけど、隔世遺伝なのか俺が特殊なのか、まあ、ああいう中途半端な状態になっちまってんスよ。一応、京都の人間の間では鬼と区別して鬼神化って話になってますけど」
「……つまり君もよく分からないということですか」
「ぶっちゃけ言うとそうっスねー。でも、まあ、俺は鬼みたいに人に対しての破壊衝動とかはないですし……鬼狩りは実家の方でも見つけ次第やってたから。どうせなら組織に属してた方が、世間様の役に立っていいでしょ。実家の寺継いでのんびりしてもよかったけど、鬼の数は東京が一番多いから」
 
 なるほど、と思えなくもないが、野村が知っていて許可を出したとなれば、研究所にも宙のことは伝わっているはずだ。出自が出自なだけに、流石に研究サンプルにはされないか、とアラタは首をひねった。そして、少し戸惑ったが、もう一つ話を訊いてみる。
 
「……あの、角を食べるのは……」
「ああ」
 
 あれね、と言いつつ、宙は、うん? と首をひねった。
 
「俺、殺人衝動や傷害衝動は全く起こらないんですけど、鬼に対してだけ捕食衝動があるんっスよねー興奮を抑えるのに食う、みたいな?」
「!!」
「角を見ると食いたくなる。食うと落ち着く。それだけっスわ」
 
 その理由も、アラタがあっさりとそれを話すこと自体にも驚いたが、つまりは本人もよく分からないことが多い、ということのようだ。まあ、おいおい話を聞いていくかとも思う。
 
(しかし、こんな相手とバディを組めって……? 部長も何を考えて……やはりバディについては再考してもらうべきか……)
 
 右腕と左腕の傷が塞がり、傷自体はそこまで深くないが、胸元に宙の息がかかる。この状態は一体なんなんだ……と思いつつ、その濡れた感触に耐える。
 
「ん……っ!」
「ふ、色っぽい声ですね♡」
「からかわないで、さっさと……しなさい」
「はぁい♡」
 
 本当にどういう状況なのか。アラタは呆れつつも、その舌の感触にびくりと細かく震えた。腕ならともかく、胸元に同僚の顔があるなんておかしくないか? しかも男なのだから……と思っていると、宙の手がアラタの胸を支えるように動いた。
 
「? なんですか?」
「いや、アラタさんって結構胸ありますよねー」
「は?」
「鍛えてんなーって。ほら、胸筋って鍛えると、ふわふわおっぱいになるじゃないですか」
「おっぱいってなんて言い方を……普通でしょう……んっ!?」
 
 何を言ってるんだ? と疑問に思うが、宙の舌がアラタの胸の突起をかすめた。思わず声を出したのをふさぐと、向こうがニヤりと笑う。
 
「……っ、もういいでしょう! やめなさい!」
「えー、まだ、こっちまでちゃんと舐めないと」
「そっちに傷はありませんが?」
 
 そう言って体を起こして、ん? と自分の太腿に擦り付けられている感触に気づく。……いや、まて。待て待て、君、どうしてそうなるんですか、とも言えず、絶句していると、宙が悪びれもせずに笑った。
 
「いや、俺、鬼やった後、興奮状態になるから、さっき言ったように自分の鬼神化抑えるのに鬼を喰って中和するんスけど、さっきのだと足りなかったのかもー」
 
 ぺろりと舌なめずりする宙に驚き、アラタは少しだけ後ずさる。
 
「……どういう……意味ですか……?」
「俺って食欲が満たされないと、性欲にいっちゃうタイプなんですよねえ。まあ、アラタさんって俺の好みでもあるしー」
「!?」
 
 何を言っている!? ともっと距離を取ろうとしたが、ぐっとその腕を抑えられる。すごい力だ。自分もかなり力も体力もある方だが、怪我の影響か何か分からないが、まだ力も入りきらず、そして、頭もぼうっとしているうちに押さえ込まれてしまった。
 
「わ、私はαですが……っ!?」
「α同士はセックスしちゃいけない決まりでもありました?」
「は!?」
 
 今、何を言った、こいつは!? とアラタは信じられないと目を見開いた。しかし、目の前の宙はそんな反応に臆することもなく、むしろ楽しむかのように、まあまあ、と笑っている。
 
「俺の唾液とか、体の中からも効くんで。痛みも少なくなりますし、気持ちいいですよ?」
「な、なにを……っ!?」
 
 唇が触れる。いや、触れるどころではない。食べられるかのようなキスは、アラタの唇を奪い、そして戸惑うことなく舌が挿し入れられた。
 
「ん……ぅっ、ふ……っぅ」
 
 頭の端から痺れるような。ふわふわとした感覚に包まれて、つい、そのキスを受け入れてしまう。舌の感触に、うわ、と思ったものの、その滑りも、熱も、なぜか気持ちよくて、口が勝手に開いていく。
 
「ん……んっぁ……」
「あー……いいっスね。すげーいい感じ」
 
 ふは、と息継ぎのような間はあれど、そのまま舌が絡んでいく。何をしてるんだと自分で思う気持ちもあるが、思考が、理性が溶けていくかのようで体からは力が抜けていく。
 
(なんだ、この感覚……っ)
 
 途端、ふわりと甘い香りがした。さっきもどこかで思った気がする。甘い……桃の花の香り。桃?どこかでそんな話を聞いたような……けれど、その香りがアラタの鼻の奥をくすぐると、どんどんと頭が痺れて何も考えられなくなっていくのだ。
 
「ぁ……んっ、ぅ……、ま、まて……っ」
「ん……気持ちよくなってきてくれました?」
「んっ、な……わ、け……」
 
 ないでしょう、という語尾は消え入ってしまう。宙に触れられた先、ベルトだけ緩めたスラックスのその奥は硬く濡れそぼり、その欲望の形をあらわにしていた。宙の熱がそれに擦れて、互いにそれなりに大きなものが熱をもって触れ合う。
 宙はペロリと舌を出すと、どかっとアラタの上に跨り直してくる。やめ、と彼の指先の辿る先を睨んでも、腕に力が入らない。さっきの鬼の傷の違和感は消えたのに、自分の体がどこかおかしい。
 
「ぁ……、待て……やめ……ろっ……!」
「あー……やっべ、素が出てくるのもたまんねえ」

 すっとスラックスの前を寛げられ、自分の熱が硬く外に飛び出すのが分かる。あっという間に下着をずらされ、すでに布を濡らしたそれを指でしごかれる。その濡れた感触にアラタは呻いた。
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