【R18】年上上司のオトシ方

二久アカミ

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1:年上上司の口説き方

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「オレが駆け込みみたいに営業処理してるから、お前、先週もずっと日が変わるまで残ってただろ。内務に残らせるわけにもいかねえもんな。さすがに無理な納期いって悪かったな、って思ってんだよ。慣れてきたやつに残業させるなんてマネージャーとしては下の下だ」
「い、いえ……オレの処理が遅いんで……」
「たまに本当に一人で突っ走って仕事のスピードあげちまうの、悪い癖みてーで……統括についてからあんまり自分では動かねーようにしてたんだけどな……つい、やりすぎちまうんだよ。悪かった」

 本気で助かってる、と言う上司の耳は少し赤かった。コーヒーを入れながら、それを確認して、つられてこっちも顔が赤くなる。仕事で褒められることがこんなに恥ずかしいだなんて。

(やべえ……すっげえ……嬉しい……!)

 まあ、それだけではないのだけれど、もう、全身が心臓になったみたいに、どくどくと音が全身に響き、コーヒーをセットする手まで震えそうだった。
 ふるふると震える手をおさえて、ありがとうございます、嬉しいです、いただきます、となんとか応えることができた。

「お前、これ、できてる資料か? 今チェックしていい? 明日は時間とれねえかもしんねえんだよな」
「あ、はい。お願いします」

 部長机の横にある応接セットのソファーに、奥村は腰掛けると、濱口の資料をパラパラとめくっていく。濱口がコーヒーとチョコレートをもってきた時点ですでに最後のページを見終わり、四ページ目と七ページ目だけグラフ見やすく、と指示をして終わった。
 周りが暗い中で、その一角だけ灯りがある中、コーヒーの湯気がふわりと立つ。奥村は薄目に入れたそれに口をつけ、濱口にチョコをあけるように促してくる。濱口は長い指でそっとリボンをはずした。勿体ないな、と思いながら。

(くそ……奥村部長からのチョコだから大事にしまっときてえのに……! 明日先輩に見つかったら絶対食べられるし! 今食べた残りは持って帰ろうかな……ううっ、でも、点数にいれとかないと、部長に後で結果きかれたら不自然かもしんねえし……!)

 本当にくだらないことで悩みながらも、パッケージをあけてみると、その豪華で上品なチョコは丁寧に二段になっていた。どれも同じようなシンプルな形だが、ちょっとしたデコレートで中の味が違うのをわけているようだ。

「オレ、ナッツ系入ってるのが好きなんだよなあ……キャラメルとかどろっとしたの入ってるのは苦手」
「あ、そうなんですか。どれですかね……」
「そこに種類の説明書はいってねえか?」
「あ、これですか」

 箱を二人で覗き込みながら見ていると、随分と色んな種類があるようだ。これ、デパ地下とかで買ったのかなあ……奥村部長が? あの戦場みたいなところで? と週末通ったデパート近くを思い出して、想像つかねえ……と思っていると、パッケージには有名なホテルの名前が小さく上品に入っていた。

(あ……この前、クリスティーノさん? とかと行くって言ってた場所だ)

 だから、そこで買ったのかあ……とちょっと納得すると、オレ、コレいただきますね、と小さなチョコレートを指でつまんで口に放り込む。コーティングされた中には柔らかめのビターチョコがあって、舌の上で蕩けるような食感が美味しかった。これ、高いんだろうなあ……と思いながら、違うのを食べている奥村をじっと見ていると、なんだよ? と言われる。見蕩れていたなんて言えないのだが、いえ、高そうだな、と思って、と思わず口に出た言葉は我ながら品がなく、ちょっと後悔した。

「あー、まあ高いのか? バレンタインのチョコなんて全部高くねえか?」
「いえ、本当に……ありがとうございます……」

 奥村部長、チョコお好きなんですね、と訊くと、いや別に、なんで? という返しにちょっと戸惑ってしまう。

「いや、だってオレも食いたいやつだからって……」
「あー……」

 いや、それは……と奥村は言い淀むと、ちょっと視線を逸らして、ぼそりと恥ずかしそうに呟いた。

「ご褒美って思ってんのに、お前の好みじゃなかったら……イヤだし」

 お前がちゃんと食うかなって……と言ってきた言葉に、濱口は全身をぎゅうっと抱き締められるような感触に襲われた。クリスティーノの言うとおり美味かったからもう一個食う、と恥ずかしそうに伸ばす手を思わずぎゅっと握りしめる。

「あ?なんだよ。こんなにあるんだから、もう一個くらいいいだろ? ケチくせーなぁ」
「……っ! そうじゃなくて!」
「?」

 奥村が訝し気に見つめてくる視線が真っ直ぐで困る。濱口は、その目を見れずに、つい握ってしまっている細い手に視線をおとして、そうじゃないんですけど……と言葉を探す。

「フランス……い、くんですか……?」
「あ?」
「いえ、この前から気になってて……オレ……!」
「……いっ……!」
「あっ、す、すみません……あ……チョコどうぞ……」

 思わず手に力が入ってしまった。それを離すと、奥村は、うーん……と少し言い淀んで、チョコを口に放りいれ、どうだろうな、と苦く笑った。
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