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第一章 二千年後の世界
文明と魔法への違和感
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やがて街に到着して御者席から飛び降りた俺は、街を眺めてすぐに妙な違和感を覚えた。
「……本当に二千年後の世界か?」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない。それより、ここまで送ってくれて助かった」
俺は商人の男からの問いかけを適当に流すと、一つ頭を下げて謝辞を述べた。
「いいっていいって、まあ、精々目ぇつけられてように気をつけな。冒険者の中には野蛮な奴もいるからな。んじゃ、またな~」
商人の男はそんな俺の言葉を軽く受け止めると、ひらひらと片手を振りながら馬車を走らせていった。
良い人だったし、また会えたら嬉しいな。
全く知らない世界だからこそ、ああいった商人と良い関係を築くのは大切になりそうだ。
俺が今のこの世界でどのくらい通用するかわからないしな。
「さて、まずは……どうすればいいんだろうな」
正直言って何から始めたら良いのか全くわからない。
俺が初めて村を出て街に来た時は十歳だったが、その際はすぐに冒険者ギルドへ向かい、登録を済ませてからはただがむしゃらにモンスター討伐だけをこなしていたのを覚えている。
今はもうそんな幼くはないし、当時のような野心も情熱もない。
ましてや、ここは二千年後の世界だ。
過去しか知らない俺にできることなんてあるのだろうか。
「……うだうだ考えても仕方ないな。まずは街を散策してみて、今を生きる冒険者たちの実力を把握するところから始めようか」
俺はまだ見ぬ未知の不安に心を曇らせつつも、多くの人々で賑わう大きな通りへと足を踏み入れた。
いざこうしてじっくり街を見てみると、やはり最初に覚えた違和感に間違いはなかったのだとわかる。
街に立ち並ぶ大小多くの建物の外観はどれも木や土、レンガ、石造りになっており、それらは二千年前と変化はない。
加えて、行き交う人々の服装を見ても、特に大きな変化はなさそうだった。冒険者であろう者たちは重厚な鎧を装備し、腰元には剣、背中にはバックパックを背負っている。
見慣れた光景だ。
しかし、その見慣れた光景こそが異様なのだ。
「なぜ二千年も経過しているのに、文明が発展していないんだ?」
俺は周囲に視線をやりながら呟いた。
本来、人間のみならず魔界に住まう魔族たちだって、長い月日を経て進化を遂げていくものだ。
新たな素材を発見したり、ゼロから生み出したり、装いに変化が現れ、異端だったことがいつしか常識になり、そうして時の流れとともに移り変わるのが当たり前である。
だが、なぜか二千年後のこの世界は二千年前とほとんど変わらない。
いや、むしろ……一面だけ見ると衰退しているとも言えるか。
「……冒険者たちの実力が以前と変わらないようだが、魔法使いの姿が全く見当たらないな」
商人の男が言っていたが、バトロードタウンは昔から冒険者が多い街らしい。
それにしては、冒険者たちが体内に秘めた魔力量は異様に少なく、佇まいにすら覇気を感じない。
短剣や長剣、細剣や斧、大型のハンマーや鎖鎌など皆多様な武器を装備しており、おそらく前衛であろう冒険者連中の実力はそれなりだ。しかし、俺が探しているのは、杖を手にローブを纏うありし日の懐かしい魔法使いだ。街に彼らの姿はない。
「どういうことだ」
「———おにーさん、何かお困りですか?」
一人思考を続けていると、建物間の暗い路地から、茶髪の少女が顔を出した。
少女はにこやかな顔つきで首を傾げていたが、その身に纏うほつれたベージュ色の衣服とやや痩せ気味の肉体から察するに、きっと物乞いかスラムの住民、あるいは金に飢えた貧民か何かだろうと想像がつく。
適当にあしらって取り合わないので吉だな。
「……本当に二千年後の世界か?」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない。それより、ここまで送ってくれて助かった」
俺は商人の男からの問いかけを適当に流すと、一つ頭を下げて謝辞を述べた。
「いいっていいって、まあ、精々目ぇつけられてように気をつけな。冒険者の中には野蛮な奴もいるからな。んじゃ、またな~」
商人の男はそんな俺の言葉を軽く受け止めると、ひらひらと片手を振りながら馬車を走らせていった。
良い人だったし、また会えたら嬉しいな。
全く知らない世界だからこそ、ああいった商人と良い関係を築くのは大切になりそうだ。
俺が今のこの世界でどのくらい通用するかわからないしな。
「さて、まずは……どうすればいいんだろうな」
正直言って何から始めたら良いのか全くわからない。
俺が初めて村を出て街に来た時は十歳だったが、その際はすぐに冒険者ギルドへ向かい、登録を済ませてからはただがむしゃらにモンスター討伐だけをこなしていたのを覚えている。
今はもうそんな幼くはないし、当時のような野心も情熱もない。
ましてや、ここは二千年後の世界だ。
過去しか知らない俺にできることなんてあるのだろうか。
「……うだうだ考えても仕方ないな。まずは街を散策してみて、今を生きる冒険者たちの実力を把握するところから始めようか」
俺はまだ見ぬ未知の不安に心を曇らせつつも、多くの人々で賑わう大きな通りへと足を踏み入れた。
いざこうしてじっくり街を見てみると、やはり最初に覚えた違和感に間違いはなかったのだとわかる。
街に立ち並ぶ大小多くの建物の外観はどれも木や土、レンガ、石造りになっており、それらは二千年前と変化はない。
加えて、行き交う人々の服装を見ても、特に大きな変化はなさそうだった。冒険者であろう者たちは重厚な鎧を装備し、腰元には剣、背中にはバックパックを背負っている。
見慣れた光景だ。
しかし、その見慣れた光景こそが異様なのだ。
「なぜ二千年も経過しているのに、文明が発展していないんだ?」
俺は周囲に視線をやりながら呟いた。
本来、人間のみならず魔界に住まう魔族たちだって、長い月日を経て進化を遂げていくものだ。
新たな素材を発見したり、ゼロから生み出したり、装いに変化が現れ、異端だったことがいつしか常識になり、そうして時の流れとともに移り変わるのが当たり前である。
だが、なぜか二千年後のこの世界は二千年前とほとんど変わらない。
いや、むしろ……一面だけ見ると衰退しているとも言えるか。
「……冒険者たちの実力が以前と変わらないようだが、魔法使いの姿が全く見当たらないな」
商人の男が言っていたが、バトロードタウンは昔から冒険者が多い街らしい。
それにしては、冒険者たちが体内に秘めた魔力量は異様に少なく、佇まいにすら覇気を感じない。
短剣や長剣、細剣や斧、大型のハンマーや鎖鎌など皆多様な武器を装備しており、おそらく前衛であろう冒険者連中の実力はそれなりだ。しかし、俺が探しているのは、杖を手にローブを纏うありし日の懐かしい魔法使いだ。街に彼らの姿はない。
「どういうことだ」
「———おにーさん、何かお困りですか?」
一人思考を続けていると、建物間の暗い路地から、茶髪の少女が顔を出した。
少女はにこやかな顔つきで首を傾げていたが、その身に纏うほつれたベージュ色の衣服とやや痩せ気味の肉体から察するに、きっと物乞いかスラムの住民、あるいは金に飢えた貧民か何かだろうと想像がつく。
適当にあしらって取り合わないので吉だな。
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