パーティーから追放された賢者は王都で念願だったバーを開く

チドリ正明@不労所得発売中!!

文字の大きさ
4 / 54

不遇な少女

しおりを挟む
「実はね———」

 小柄な銀髪の少女——シエルはここに来た経緯を口にした。

 何でも最近冒険者になったが、初めて入ったパーティーの男たちに騙されて多額の借金を背負わされてしまったらしい。

 理不尽な目に遭ったせいなのか、日の当たるところにいると周囲の視線に晒されて嫌な気持ちになるようだ。
 そうしてジメジメとした路地裏に入ったところで、ここに辿り着いたんだとか、

 さらにここからが大事なところで、何と背負わされた借金の返済期限は明日。
 このままだと奴隷堕ちが濃厚なようで、今にも死んでしまいそうなほど絶望的な表情をしていた。

「———そうですか」

「……マスターならどうする?」

 ただのバーのマスターに聞いても解決しないことは分かっているはずなのに、シエルは弱々しい声色で言葉を紡いだ。

「そうですね……失礼ですが、くだんの借金の額はどのくらいですか?」

 駆け出しの冒険者ということなので、そんなに大きい額ではないはずだ。

「……一千万ゼニー。私、もうダメかも」

 シエルは空笑いを浮かべながら答えた。
 
 一千万ゼニーか……。
 貴族を除く一般人の年収のおよそ三倍だ。
 Sランク適正のクエストを十回こなせば稼げる額だが、駆け出しとなると死に物狂いになっても短期間での返済は絶対に不可能だ。

 ただ、そんな借金をチャラに出来る方法が一つだけある。

「ご存じかどうか分かりませんが、奴隷に堕ちれば借金はゼロになりますよ。明後日は半年に一度の奴隷オークションの日なので、その際に誰かに買ってもらえば、合法的に借金は無くなります」

 奴隷堕ちすれば、借金の支払い義務は奴隷から奴隷を購入した主に移るのだ。
 借金そのものが消えるわけではないが、本人の支払い義務がなくなる。

 まあ、主から借金と同程度の働きを言い渡されて潰された奴隷も中にはいるが、それは稀有な例だ。
 基本的に負債まみれの奴隷を買うやつなんて飛び抜けた金持ちしかいないので、借金は実質チャラになると言える。

「……え? そ、それなら、またやり直せるかも! あ……っ、でも、私みたいな女を買うのなんて……」

 シエルは一瞬だけ希望に含んだ表情になったが、最悪の場合を想定したのか、すぐに俯いてしまった。

 おそらく、女をモノとしか見ていない悪徳な貴族に買われることでも想像したのだろう。

 ただ……。

「お気持ちはお察しいたしますが、そうとも限りません」

「どういうこと?」

「ただの屋敷のお手伝いとして雇われる可能性もありますよ? それこそ、財があれば一般人でも奴隷を買うことは可能ですから」

 奴隷は金さえあれば買うことができる。
 それこそ、

「……そんな小さい可能性に賭けられないよ!」
 
 シエルはジュースを一気に煽ると、やるせない憤りを露わにした。瞳には涙が溜まり、相当追い詰められていることがわかる。

「話は変わりますが、お客様は接客の経験はありますか?」

「……いきなりだね。家の手伝いくらいならあるよ。私のお母さんとお父さんはお料理屋さんだったから」

「ふむ。では、これからも冒険者として活動していく気概はありますか?」

 元のパーティーメンバーから派手に騙されても冒険者として活動を続ける気概があれば、今後も一人で生きていけるだろう。

「……わからない。でも、また同じことをされたらって思うと難しいかも……」

 暫しの沈黙の後に、シエルは重たい口を開いた。

「辛いことを思い出させてしまい申し訳ありません」

 聞きたかったことを聞けたので、俺は無礼を働いたお詫びとして頭を下げる。

「いいの。私の話を聞いてくれたのはマスターだけだったから……それで、お代は———」

「———結構です。御無礼を働いたお詫びとして、今回は私の奢りです。お客様の御武運をお祈りしております」

 シエルはのっそりと席を立ち、肩下げのカバンに手を伸ばしたが、俺は首を横に振って断った。
 今後のことを考えれば安いものだ。

「ありがと。バイバイ、マスター。またどこかで会えたらいいね……」

 シエルはふらついた足取りで店を後にした。

「お気をつけて。またどこかで」

 ぱたりと扉が閉まる。
 同時に俺は考えた。

「ふむ……明日と明後日は休みにするか」

 一つ息を吐き、空になったグラスを洗い場に置いた。

 明後日は月に一度の王都の名物行事———奴隷オークションがある日だ。
 開店二日目にして店を休みにすることにした。

 奥の金庫から金をたんまり持っていくとしよう。
 彼女を購入することができれば店の看板娘として雇える。ゲスイ貴族に競り負けるわけにはいかないな。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在4巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

処理中です...