パーティーから追放された賢者は王都で念願だったバーを開く

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ルーナを詰める

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 ルーナの気配を辿って歩みを進めていくと、すぐにその姿を捉えることに成功した。
 彼女は楽しげな鼻歌を奏でながら、大きな通りの真ん中を闊歩していた。

「るんるん……ふふん、今日もたくさん稼いじゃったぁ~」

 ルーナの機嫌はすこぶる良さそうだった。
 彼女はその足取りのまま、狭い裏路地へ姿を消す。

「……怪しいな」

 俺はルーナの後を追った。
 
 左右には背の高い建物があり、幅はそれほど広くない。もう少し奥に進めばひと気はなくなる。二人で話すにはうってつけの場所だ。

「男ってほんとにチョロくて助かるわねぇ」

 そう口にするルーナは大きな麻袋を胸に抱えていた。
 パンパンに膨れた麻袋の中からはジャラジャラと音が聞こえてくる。

 きっとひと仕事を終えたばかりなのだろう。
 であれば、ちょうど良いタイミングだ。

 後は帰るだけだろうし、少しだけ俺に付き合ってもらう。

「——おや? ルーナさん、こんなところで何をされているのでしょうか?」

 機を見て、俺は五メートルほど後方からルーナに声をかけた。
 彼女は急に名前を呼ばれたからか、それとも俺の声に覚えがあったからか、びくりと肩を震わせてから振り返る。

「……っ! あ、あなた……!?」

「ご無沙汰しております」

 俺はゆったりとした足取りでルーナに近寄った。

「ス、スニークさん……ね。何かご用でしょうか?」

 ルーナは瞳を細めてこちらを睨みつけてきた。
 俺への嫌悪感が隠しきれていないどころか、顕著に現れている。
 相変わらずわかりやすい反応だ。

「何の用か、それは貴女が一番よくわかっているのでは?」

「……ふんっ、なによ! 説教でもするつもり!? ギルドの受付嬢が夜の仕事をしていたらいけないってわけ!?」

 不貞腐れたような顔つきで堂々と言い放ってきたが、俺が聞きたいのはそんなことではない。誰もそれを咎めることはないだろう。
 そもそも美人局や夜遊びについて聞いてはいたが、夜の仕事をしているなんて話は知らなかったしな。

「論点がまるで違いますね。夜の仕事をするのは各々の自由ですし、私はそれを否定する気は一切ございません。私が聞きたいのは、……それだけだ。その表情、身に覚えがあるようだな」

 俺は一歩ずつルーナに近寄り、彼女に微笑みかけた。
 彼女は完全に言葉を失っているのか、驚く様子すら見せずに固まってしまった。

「……」

「シエルから話を聞いた限り、あんたらの犯行はあまりにも手際が良すぎる。きっとこれまでに嵌めてきたのは一人や二人じゃないんだろ? 受付嬢という立場にいればバレないと思ったか? どうなんだ?」

 俺は無言で歯を食いしばるルーナを問い詰めた。

 眉間に皺を寄せて悔しそうにしており、返す言葉もないのか全く口を開く様子はない。

 だが、確かに心当たりはあるようで、こめかみには一滴の汗が伝っていた。

「協力者がいるんだろ? 初級冒険者のフリをした三人組だ。ほら、この顔に見覚えはないか?」

 俺はルーナの眼前に一枚の紙を突きつけた。
 魔紙写によって鮮明に写し出された三人の男の素顔に心当たりがあるはずだ。

「っ……し、知らないわよ!」

 思わず反射的に紙を確認したルーナは、黒い瞳を小刻みに揺らしていた。
 明らかに狼狽えている。

 このまま押して吐かせてやろう。

「いつ、どこでこいつらと出会った? どうやって犯行に及んだ? なぜシエルのような無害な初級冒険者をターゲットにした?」

 俺はルーナとの距離が無くなるほど詰め寄ると、間近で彼女の揺らぐ瞳をじっと見つめた。

 怯えてわなわなと肩が震えている。

 しかし、まだ口を割るつもりはないのか、俺から視線を逸らして二、三歩後退すると、大きく息を吸い込んだ。

「———助けてぇぇっ! 襲われてるのぉぉーーーーーーーー!!」

 突然、ルーナは甲高い悲鳴をあげた。

 叫び声はそれほど響かなかったが、迷いのないその行動は確実に助けてくれる何者かを呼んでいるように思えた。

「……」

 俺は無言で呆れてしまった。
 全く、面倒なことをしてくれる。
 そんなことをしても無駄だというのに。

「あんたみたいな弱そうな奴なんて、あっという間にやっつけてやるんだから!」

 何も口にしない俺が怯えているのだと勘違いしたのか、ルーナは打って変わって得意げな様子で胸を張った。

 その瞬間、背後からドタバタと複数人の足音が聞こえてくると、そこには見覚えのある三人組の男たちが立っていた。

「ああ……都合が良いな」
 
 俺は思わず笑みを浮かべて呟いた。

 
 
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