パーティーから追放された賢者は王都で念願だったバーを開く

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夢を見ていた

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 夢を見ていた。

 感覚的にわかった。
 これは……三年前か?

 当時はまだソロのAランク冒険者で、賢者として名を馳せていたわけでもなかった俺は、何の気なしにエルフの里へと足を運んでいた。

 最近は冒険に対してのモチベーションも低くて放浪したい気分だったので、気分的にはちょうどいい。
 しばらく滞在してもいいかなと思うくらいだ。

 自然も手付かずで綺麗だし、鮮やかな森林の中にいると心が洗われる。

「……流石に里の中には行かない方が良さそうだな」

 俺はエルフの里の近くの森の中にいた。
 森の大きな木の上に登り、少し離れた位置からエルフの里の全体を眺める。

 自然と調和しエルフたちの笑顔が溢れる里の光景だったが、なぜかエルフと人間は昔から仲が良くないので、無闇矢鱈に接触しない方が良さそうだ。

 ちなみに、人間と共に冒険者をしていたり街に住まうエルフは度々見かけるが、その数はごく少数である。

「みんな綺麗だなあ」

 エルフの容姿は美しいことでも有名だ。
 他にも、生まれ持った魔力の量が多く、魔法の扱いに長けている。
 魔法使いの割合が少ない人間とは真逆だな。

「……よし、決めた」

 俺は軽やかな足取りで大木から飛び降りると、周囲の気配を探りながら森の中を歩き始めた。

 しばらくここに居座らせてもらおう。

 そのために里にいるエルフたちにバレることなく、衣食住を万全にこなせる場所を探すことにした。

「それにしても広い森だな」

 俺は森の中を歩きながら呟く。

 こんなところで暮らせるエルフは幸せ者だな。
 人間はモンスターの討伐のために森林を丸ごと焼き払うこともあり、自然との調和は難しいと考えている。なので、こういう幻想的な自然は魅力的である。

 三十分ほど歩みを進めていくと、森の中心からほど近い位置に広々とした洞窟を発見した。
 入り口付近には魔力の残滓もなく、周囲に人が来た形跡もない。
 直近では誰も足を踏み入れていない場所だ。

 都合が良い。ここにしよう。

「ふぅ……よし、いい機会だしここらで姿を変えておくか」

 俺は洞窟に荷物を置いてひと段落してから、全身に魔法をかけた。
 一瞬にして髪色が茶色から赤色に変化し、併せて、瞳の色も赤色に変化する。

 ついでに、今は160センチくらいの小柄な少年の風貌だったが、それも魔法で15センチほど背丈を伸ばした。
 これで一般的な成人男性の姿だ。

 服装は魔法収納アイテムボックスから取り出した適当なものを見繕う。
 無難な黒いローブを羽織り、無地でベージュ色のパンツと白のカッターシャツを合わせる。

 自分の姿を偽るのも手慣れたものだ。

「血のようか赤色だから物騒だな」

 視界の隅に映る赤黒い髪を指で撫でた。

 俺はソロ冒険者であるが故に目立ってしまうことを恐れ、事あるごとに容姿や性別、服装の全てを魔法で欺き続けている。
 本名はスニーク。本当は黒い髪に黒い瞳を持つ変哲もない容姿だ。
 しかし、その名前を名乗ることもなければ、その姿で人前に出ることもない。

 目立つのが嫌だし、何かトラブルが生じた時に容易く回避できるから、たったそれだけの理由だ。
 仮にエルフに遭遇した時でも、仮の姿であればバレても問題なくやり過ごすことができる。

「とりあえず、森の散策をしてみるか」

 変身を終えた俺は早々に荷物の整理を済ませて洞窟を出た。

「念のためスポットに魔力を埋め込んでいくか」

 俺は森の中を歩き周り、数十メートルごとの等間隔で靴の踵で地面を抉った。穴の中に大量の魔力を付与していく。

 これは魔力領域マジックテリトリー
 スポットに埋め込まれた魔力の上を生物が通ると、その情報が俺に伝わる仕組みである。
 何人が通ったか、それは人間かモンスターか、それとも動物か、性別や種族は何か、それくらいしかわからないが、エルフから距離を取り接触を避けるためには必須の魔法だ。

 上を通った相手の魔力に干渉することで、情報を手に入れることができるのだ。

 やがて、俺は一時間ほどかけて森の全域に魔法領域マジックテリトリーを展開すると、次にエルフの里を見渡すための高所を探した。

 理由はエルフという種族に興味があるから。エルフが住まうエルフの里の光景を見たいから。それだけだ。

「ベタに木の上で問題ないか……」

 俺はエルフの里からほど近い大木を見上げて跳躍した。
 いくつかの木を蹴り上げながら、大木の一番上を目指す。

 ふむ……高さも距離感もバッチリだな。

 空気も美味いし景色も最高だ。

 大木の一番上には、運良く鳥型モンスターの巣らしき跡もあって、一時的に過ごすための気苦労は少なく済みそうだ。
 当のモンスターは見当たらないし、この巣は俺が貰い受けることにする。

 気が休まるその時まで留まることにしよう。

 魔法収納マジックボックスの中には万が一に備えて三年分くらいの食料が詰め込まれているし、エルフの里とは反対に位置する森の奥地には湖もあった。
 普通に暮らすことは容易なので、重大なトラブルが起きない限りは自然に癒されたいところだ。

 


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