ハーレムキング

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1章 ハーレムキングの目覚め 編

ハーレムキングの使命を知る

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 ここは、どこだ?

 頭がぼんやりしている。目の前に広がるのは、見渡す限りの緑。聞き慣れない鳥の声と、肌に触れる風の匂い——。

「あ、あれ? オレ死んだ、んだよな……?」

 確か、バイトからの帰り道。夜中の横断歩道でブレーキ音が聞こえて、目の奥に強い光が飛び込んできた。
 その先の記憶はない。でも、目を覚ましたらこの森の中だった。なんで全裸なのかも分からない。

「全裸!?」

 改めて整理すると、どうして全裸なのかは本当に理解できなかった。
 肉体は筋肉でコーティングされている。傷一つ、ほくろひとつ、汚れひとつない肉体はまさに”美”そのものと言えた。

 中肉中背だったオレの肉体はどこに消えたんだ……?

「まさか、転生したのか?」

 口にして、自分で笑った。

 彼女いない歴=年齢の無様な童貞男子大学生の最後が事故死かよ。ほんで、知らないうちに転生なんてして……ラノベじゃないんだから。

 バカバカしい。

 でも、この状況はどう考えても普通じゃない。
 夢とは違うし……なんかこう、リアルすぎるというか、転生を信じるわけじゃないが、どこか体の感覚がおかしい。
 まるで、自分の体じゃないみたいな感じがする。

 そう思っていた時だった。

 頭の奥で、何かが——「告げた」。



 【転生特典:ハーレムキング】

 効果:対女性アプローチ時、羞恥・躊躇が完全に消失。優れた容姿と話術を得る。また、王としての資質と何人にも負けない圧倒的な力を獲得する。
 備考:この力は、あなたの価値観の中心を“女性”に再構築します。必ずしも女性を堕とせるわけではありません。相応の努力が必要です。創作の世界のような「びびーん!」とくる一目惚れは稀です。



「な、んだそれ……」

 誰に向けた言葉でもない。
 だがそれを理解した瞬間、身体の奥で何かが“塗り替わる”感覚があった。

 心が、少しずつ軽くなる。
 恥ずかしいとか、遠慮とか、そういうのが……どうでもよくなっていく。
 いや、違う。どうでもいいんじゃない。

 女の子のこと“しか”考えられなくなっていく。


 大学の男友達の記憶が朧げになった。あいつは誰だっけ?

 高校の頃の親友の顔にモヤがかかった。なんであいつとは親友になれたんだっけ?

 その他の男に関する記憶もまた、突如として薄れていった。

 完全に消えたわけじゃない。単に男が映る記憶の全てが見えにくくなっていた。

「——オレは、誰だ?」

 無意識に口をついて出た言葉に、答えはなかった。

 ただ、気づいた時には立ち上がっていた。
 背筋は伸びて、笑みが浮かんでいた。

「ふははははっ……そうか。これがオレの……王の力か!」

 その声は確かに“オレ”だったけれど、“オレ”じゃなかった。


 オレは、ただの大学生から、全裸のイケメン——もといハーレムキング・デイビッドになっていた。




◇◆◇◆◇




 【ハーレムキング】

 能力はシンプル。
 女の子に対するアプローチに一切の躊躇がなくなる。
 美しい見た目と、それなりに軽妙な話術は付属品。だが、最も重要なのは——心のブレーキが完全に消えてるってこと!

 つまり、告白でも口説きでもプロポーズでも、初対面だろうが気にせずぶっ込める。
 失敗? 些細なことは気にしない。
 断られる? そんなの微塵も気にも止めない。

「ふっ、愛とはタイミングだ。だからこそ、真正面から素直に伝えるしかないんだ!」

 そう自信満々に口走るオレの姿は、端から見たらただの危ないイケメンである。黒髪で全裸のな。

 そして今、ちょうど良く現れたのが——

「……あなた、誰?」

 森の奥から出てきたのは、弓を背負った少女。栗毛の髪を一つにまとめ、キリッとした目でこちらを見据えている。よし、好みだ。

 オレは迷いなく、にっこりと微笑んだ。

「初めまして、お嬢さん。オレはハーレムキング・デイビッド。まだ服も持たぬ王である! よろしく頼む!」

「は、は……? 変な人……」

「君は実に美しい。よろしければ、この出会いに祝福を込めて、結婚を前提にお茶でもどうかな? 無論、こんな森にお茶はないがなっ! ふはははははっ!」

「……やっぱり変な人!!」

 叫んで逃げていく少女。

 だが、オレは追わない。これでいいのだ。

 第一印象は最悪でもいい。
 むしろ、そこからどうやって振り向かせるかが勝負!
 オレは知っているぞ! 恋とは“数”だ! 情熱だ! 誠意と努力の積み重ねなのだ!

「ふははははっ! 面白い! 実に面白いぞ、この世界ッ!」

 笑いながら立ち上がる。まだ服すらない。でも心は満ちている。

 オレは、女の子のために戦い、旅をし、ドラゴンをも倒すだろう。
 だって、そうだろう?

 ハーレムキングとは、女の子のために命を燃やす王の称号なのだから!




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