表と裏と狭間の世界

雫流 漣。

文字の大きさ
8 / 60
掘り出しもの

開かない小箱

しおりを挟む
「で…リック。なにか他に面白い話があるんだろ?」
明るい口調でカイが質問すると

「ニュースかぁ…ないわけじゃあ…ないかな」
リックはコホンと咳払いをした。

話すべきか話さないべきか迷っているらしい。
少なくともそんなポーズだ。
分厚い木の上で、グラスの氷がカランと音を立てた。

急にリックがカイに顔を近づけて、低く抑えた声で囁いた。
「掘り出し物をみつけたんだ」

「掘り出し物?」

「ああ。あれをなんて表現したらいいのか…」
リックは嬉しそうに両手で頬をさすっている。

「もったいつけるな」
横目でリックを睨む。
むろんこれもポーズだ。

「まぁまて。順を追って説明するよ」

リックが続けた。
「俺は昨夜、むしゃくしゃしててさ。
ほら、コケコッピーが使い物にならないと…わかったからさ。
で、うまいことに今日は日曜日でうちの床屋は休業ときた。
俺は気分転換に遠出を決めこむことにしたんだよ」

カイが苦笑しながらグラスを置く。

「まぁ聞いてよ。そして俺は……」
リックは調子がノッてきたらしい。
ミュージカル風の、芝居がかった変な抑揚になっている。

「出かけた先の~ある場所で~~
あれを見つけた」

カイはにやりとした。
好奇心の旺盛なリックが役にたたない年代物のガラクタを集めているのは百も承知だ。
今回はどんなヘンテコ仕様だろう。

「悪口を言うと怒ってお茶を沸かすポットとか?」

「今度のは…正真正銘しょうしんしょうめい、本物なんだ」
リックは芝居をやめた。

大真面目に眉間にしわを寄せ、落ちつきなくシャツの裾で手を拭ってから、ズボンのポケットに手を突っ込む。

「これさ」

一瞬ののち、手品師も顔負けの鮮やかな手さばきで、リックがカウンターの上に何かを置いた。

5センチ四方の金色の小箱。
箱の表面は見たことのない幾何学模様きかがくもようで覆われていて、長い年月を経た代物に特有のくすんだ輝きを放っている。
蓋は丸みがあり中央に大きな目の形が彫り込まれていて、素人目にも一流の職人が手間暇かけて創作した品であることが一目でわかった。

側面に装飾された動物たちが、みな同じ方向をむいてぐるりと列になっている。
まるでサーカスの行進のようだ。

「これは立派だなあ…」
カイは小箱を見つめて感嘆の声を漏らした。

象や馬、ライオン、蛇、狐、鼠、鷹…
それらは、よく見ると角を生やしたり、背中に羽がついていたり、現実の生き物とは微妙に異なっている。
架空の動物はどれをとっても精巧で動き出しそうなほどリアルで…
なんだか…

じっと見ているうち、カイはひときわグロテスクな二つ頭の蛇から目が離せなくなった。
今にも列を離れ、鎌首をもたげて飛びかかってくるような威圧感……

カイはぎゅっと目を閉じた。
落選のショックで気疲れしているせいだろう。
心臓がどきどきと早鐘を打っている。

「すごい細工だろ?どこで見つけたと思う?」
質問したくせに、 答えを教えたくてウズウズしているリックは
骨董品屋こっとうひんや
カイの返事を待たずに自分で答えた。

骨董品こっとうひん
ああ、駅の裏を右に入った並びの…化粧品メーカーの…大きな看板があるところ?」
無理やり小箱から意識と視線を引きがす。

リックは話に夢中で、箱を見たときのカイの不自然な様子に気がつかなかったらしい。

「いや、この町じゃない。母ちゃんの故郷ふるさとさ。
子供の頃、夏休みには決まってあそこで一週間過ごしたなぁ」

「ここから近いのかい?」

「列車で四時間かかる。でも緑が多くてさ、空気が澄んでるんだ。
夜行列車に飛び乗って久しぶりにばあちゃんに会いに行ったよ」

カイをチラッと見てリックは先を続ける。

「俺は今朝まで、あの店があるのを知らなくてね。
ばあちゃんに口をすっぱくして止められて…かえって興味津々さ。
なんでも、そこのじいさんがかなり、その…変らしくて」

「ん?狼男かなにか?」

「だったら怖くないさ。歯がすっかり抜け落ちちゃった狼なんか屁でもないだろ?」

リックの言葉を聞いてカイはニヤリとした。

「偏屈な老人なんて掃いて捨てるぐらいいるさ。
で、値段…いくらしたんだい?」

「そこが問題なんだ。
じいさん、この見事な箱を一体いくらで売ったと思う?」

「さぁ…見当もつかないな」

「五ドル七十五セント」

「リック、だったらそれは完全に…」

「鉄クズだって言うんだろ?そりゃそうだ。よほどのお人好しじゃないかぎりそう思うさ。
初めは母ちゃんにプレゼントしようと思ったんだ。
洒落しゃれた小物入れくらいにはなりそうだし。
六ドルでお釣りがくるんだからな、話の種にしたって惜しくはないと思ってさ」

リックはカイに小箱を渡して言った。
「持ってみて」

小箱は冷たく、見た目より重かった。
試しに揺すってみると中で何かがことんと動く気配がした。

(…音がする)

「中になんか入ってるだろ?」

カイは黙って頷いた。

「中に何かが入ってることに気づいたのは、店を出たあとなんだ。
俺、箱の細工さいくにすっかり参っちゃってたもんだから」
リックは明らかにわくわくしている。

「開けてみたの?」
カイが身を乗り出す。

「それは無理」

(無理?…どういう意味だろう。
鍵でもってかかってるんだろうか……)

あらためて手の上の箱をまじまじと眺めて、カイははっとした。

急いで箱を三百六十度、二回ぐるっと回転させて確認する。
六面すべてを調べてカイは納得した。
思ったとおり、この箱のどこにも鍵穴らしき部分がないのだ。

リックはビールのお代わりを注文してからカイに向き直った。

「君もわかったろ?この箱には鍵なんてないんだ。
鍵がないなら普通は簡単に開くってもんだよ。
なのにこいつは開けられない」


「……妙だな。接着剤かなにかで張りつけた感じだ。
店の主人に尋ねてみた?」

「もちろんそうしたさ。店に戻って、箱がなぜ開かないのか聞いた。
でもドルバンのヤツも……えーっと、骨董品屋こっとうひんやのじいさんはドルバンっていうんだが……
アイツも首をひねってた」

カイはもう一度、今度は耳の近くで箱を左右に降ってみた。
今度はさっきよりハッキリ音が聞こえる。

「これ、どうするんだい?金槌かなづちで叩いてみるわけにいかないし」

「とりあえず、いい手段が見つかるまでそのままにしておくよ。
中身を想像しながら酒を飲むのに飽きたら、金槌かなづちでぺちゃんこにするまでさ」

しばらくの間、グラスに口をつけて考えごとをしていたカイが静かに口を開いた。
「デビーに見てもらったらどうかな」

「デビー…か。癖のあるヤツだよな。
目利きの腕は確からしいけどさ。
そんな話、聞いたことがある」

「ああ。もしデビーが…これと似たタイプの骨董品を鑑定した経験があったら儲けものじゃない?
わずかな可能性だけどね」

短くなったタバコを灰皿にぎゅっと押し付けながら、カイが続けた。

「本体も中身も傷つけずに蓋を開ける方法を知っているかもしれない」

「よし、決まりだ」
満面の笑みを浮かべてリックが即答する。
強く背中をばんばん叩かれて、カイはむせながら目を白黒させた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

処理中です...