学園一の落ちこぼれ召喚術師の私が魔王の息子を召喚できてしまったわけですが、皆さんどんな気持ちですか?

かやかや

文字の大きさ
5 / 22

5 魔導書の誘導

しおりを挟む
頭の中で必死に行きたくないと念じるが、魔導書に操られた体は気にすることもなく外へと出て行ってしまった。

気付けば校舎内にいた。私の足音と、窓に雨が当たる音だけが校舎内に響く。傘も差さずにここまで歩いてきた私は濡れねずみで、静かな雰囲気もあいまって寒気がした。

地下の扉を開け、魔導書が進んでいたのは、どうやら召喚室の方向らしい。

この時間に地下室にいると、日々の補習のことを思い出す。意地悪で嫌味っぽいマヌエラ先生。私が何も召喚できなければ、彼女の責任とされるからだろう。

彼女は、私が何か召喚できれば私を認めてくれるのだろうか。

手に持った魔導所を一瞥いちべつする。これほどの魔力を借りれば、私にだって下級の召喚くらいは……

そんなことを考えている内、召喚室に着いていた。扉の前に立った途端、手の中の魔導書が熱くなったかと思えば、自然と扉が開いた。

石畳の床には授業外時間だというのに魔法陣が描かれていて、何で描いたのかツンとする臭いが充満している。体の自由が利く状態だったら、間違いなく鼻をつまんでいたところだ。

そのまま真っ直ぐ進み、薄紫に発光する魔法陣の目の前で立ったかと思えば、そこでやっと足が止まった。少しだけ気が抜けて溜息をつき、体が自由になっていることに気が付いた。

こんな時間にこんなところをふらふらしていることが知られたら大問題だ。さっさと帰ろう。
────と、普通は思うはずだ。というか、考え自体は頭に中にある。そう思っているはずなのに、先程からさかんに過っていく考えが再び蘇ってくる。

“もしかしたらこれを使えば、私にも召喚ができるようになるのではないか。”
“これほどの魔力を借りれば、私にだって下級の召喚くらいは……”

本を開くと、見覚えのない魔法文字が並んでいるページが開いた。私には読めない魔法文字のはずなのに、自然と読み方が頭の中に浮かんでくる。気付いたときにはその文章を口にしていた。

同時に床に描かれた魔法陣が鈍く光り始める。室内に強大な魔力が渦を巻き、よどんだ色の煙が生まれて魔法陣を囲んだ。

体の中で魔力が循環する感覚がわかった。最初は体内だけだったその感覚が段々と指先から外に滲み始め、次第に魔力が私の体を包み、そうして大きく広がった力が魔法陣の中心へと集まっていく。

これが召喚の感覚。初めて味わう感覚に胸が高鳴る。

魔法陣の中心に集まった私の魔力が段々と輪郭を形成し、姿を現し始めた。四つ足の動物……大きくて首が長い。馬に似ている。ぼんやりとそんなことを考えていると、頭の中に声が響いてきた。

────小娘。不遜にも私を呼んだのはお前か

重々しい声だ。空気が張り詰め、思わず息を呑むが、召喚者たる私が弱腰では相手に主導権を握られてしまう。

「黙りなさい。不遜だろうと小娘だろうと、使役者は私。姿を現しなさい」

なるべく強い語調で言い切ると、不服そうな息遣いを最後に魔法陣の光が強まり、目の前が眩んだ。視界が開けてくると、魔法陣の中心には確かに姿が現れていた。

最初に見えたのは、不気味に霞んだ青い馬。たてがみは青い焔が揺れ、その上にはすらりとした姿の男性が跨っていた。塗り潰したような黒の髪と、対照的な色白の肌。美しいコントラストに映えるのは切れ長のルビーのような瞳で、火のような熱い色の目が冷たくこちらを睨んでいた。軍服にも似たデザインの黒の服に、右肩にだけある肩章についた赤いマントが、風もないのになびいていた。

呆けたようにその姿を眺めていたのは、顔立ちにどこか見覚えがあったから。視線が気に障ったのか、形の整った眉を一瞬しかめ、吐息っぽく語りかけてくる。

「……ふん。間の抜けた顔の娘だ。こんな輩に召喚ばれるだなどと……」

声を聞いて、ますます既視感が強まった。どこかで聞いたことがある。というか、最近どこかで話した気がする。確かこの声は────

「……アルトゥール・クラウスナー?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...