6 / 22
6 アルトゥール・クラウスナー
しおりを挟む
「……アルトゥール・クラウスナー?」
その名前を口にした途端、悪魔の声がぴたりと止まった。目付きが更に鋭さを増し、こちらを睨み付けてくる。
最初は敵意ばかりが込められている視線だったが、次第に私のことを吟味するような雰囲気に変わった気がする。自分で名前を出しておいて何だけど、良く言えば爽やか、悪く言えば軽薄そうなアルトゥールとは似ても似つかないオーラだ。
口を閉ざしたままの彼の代わりに、私が先を切った。
「……この魔導書、貴方の忘れ物だったんです。だから……」
「……。その魔導書で俺を呼んだというのか?お前のような小娘が?まさか本当に……!」
「え……?」
つんと澄ましていた端正な顔立ちが、驚愕の色を露わにした。突然声を荒げた彼に思わず警戒の姿勢を取ると、自分の言葉の意図が伝わっていないことを察したのか、一つ咳払いをしてから彼が続けた。
「私……いや、いいか。俺の名はオロヴァセーレ。魔王の息子……つまり、いずれ魔界を統治する者だ。アルトゥール・クラウスナーは人間界における仮の名に過ぎない」
「え……?じゃあ、学園長の孫っていうのは……」
「学園長の記憶を改竄しただけだ。……その程度、赤子の手を捻るよりも容易だ」
そう言いつつもなんだか鼻が高そうだ。
「どうして悪魔が人間界に?そういうのってよくあることなんですか?あとは、えっと、……!」
「少し黙れ」
新情報が次々出てきて頭が混乱し、矢継ぎ早に質問を口にする私に向けて食指を指したかと思えば、その途端に声が出なくなった。使役者である私の行動を縛れるあたり、やはり魔王の息子なのだろう。
不満そうに見上げていると、彼が霞んだ幽体の馬から降りてこちらに近付いてくる。魔法陣から出る寸前まで近付くと、改めて顔立ちがはっきりと見えた。図書館で遭遇したアルトゥールとは雰囲気が正反対だ。
「……俺は、自らの召喚術師たる人間を探しに来た」
細めた瞳でまっすぐとこちらを見据えてくる。血のような色の目に影が差し、禍々しく感じる。
「俺の魔力に耐え得る人間。俺を使役するほどの強大な魔力の持ち主。……それがお前、ということになるが」
重苦しかった視線がふっと軽くなり、再び吟味するような目へと変わった。じろじろと不躾に見回した後、くっと喉を鳴らして笑われた。
「お前、例の落ちこぼれだろう。ノヴァーリス創立きっての腑抜けと名高い」
「……っ」
言い返せない悔しさに唇を噛む。結局今回だって、私はアルトゥールの……オロヴァセーレの魔導書に宿る魔力に頼って彼を召喚したに過ぎない。このままオロヴァセーレを無理矢理使い魔にしたとしても、きっと魔力不足で喰われて終わるだけだろう。
彼がパチンと指を鳴らすと、声が出るようになった。
「……そう、です。私は魔力が少ないから、下級悪魔すら召喚できなくて……」
「違う」
遮られて顔を上げる。変わらない冷たい瞳がこちらを見下ろしていた。
「下級悪魔が寄り付くはずもない。畏れているんだ。……この才がわからないとは、ノヴァーリスも腑抜けたな。父上の時代はこうではなかったと聞いたが」
「え?どういう……」
この学園に来て以来の屈辱的な記憶が蘇ってくる。言葉をなくし視線をさまよわせていると、力が抜け、手に持っていた魔導書が床に落ちた。
「お前の魔力は多すぎる。……強大すぎる、ということだ」
その名前を口にした途端、悪魔の声がぴたりと止まった。目付きが更に鋭さを増し、こちらを睨み付けてくる。
最初は敵意ばかりが込められている視線だったが、次第に私のことを吟味するような雰囲気に変わった気がする。自分で名前を出しておいて何だけど、良く言えば爽やか、悪く言えば軽薄そうなアルトゥールとは似ても似つかないオーラだ。
口を閉ざしたままの彼の代わりに、私が先を切った。
「……この魔導書、貴方の忘れ物だったんです。だから……」
「……。その魔導書で俺を呼んだというのか?お前のような小娘が?まさか本当に……!」
「え……?」
つんと澄ましていた端正な顔立ちが、驚愕の色を露わにした。突然声を荒げた彼に思わず警戒の姿勢を取ると、自分の言葉の意図が伝わっていないことを察したのか、一つ咳払いをしてから彼が続けた。
「私……いや、いいか。俺の名はオロヴァセーレ。魔王の息子……つまり、いずれ魔界を統治する者だ。アルトゥール・クラウスナーは人間界における仮の名に過ぎない」
「え……?じゃあ、学園長の孫っていうのは……」
「学園長の記憶を改竄しただけだ。……その程度、赤子の手を捻るよりも容易だ」
そう言いつつもなんだか鼻が高そうだ。
「どうして悪魔が人間界に?そういうのってよくあることなんですか?あとは、えっと、……!」
「少し黙れ」
新情報が次々出てきて頭が混乱し、矢継ぎ早に質問を口にする私に向けて食指を指したかと思えば、その途端に声が出なくなった。使役者である私の行動を縛れるあたり、やはり魔王の息子なのだろう。
不満そうに見上げていると、彼が霞んだ幽体の馬から降りてこちらに近付いてくる。魔法陣から出る寸前まで近付くと、改めて顔立ちがはっきりと見えた。図書館で遭遇したアルトゥールとは雰囲気が正反対だ。
「……俺は、自らの召喚術師たる人間を探しに来た」
細めた瞳でまっすぐとこちらを見据えてくる。血のような色の目に影が差し、禍々しく感じる。
「俺の魔力に耐え得る人間。俺を使役するほどの強大な魔力の持ち主。……それがお前、ということになるが」
重苦しかった視線がふっと軽くなり、再び吟味するような目へと変わった。じろじろと不躾に見回した後、くっと喉を鳴らして笑われた。
「お前、例の落ちこぼれだろう。ノヴァーリス創立きっての腑抜けと名高い」
「……っ」
言い返せない悔しさに唇を噛む。結局今回だって、私はアルトゥールの……オロヴァセーレの魔導書に宿る魔力に頼って彼を召喚したに過ぎない。このままオロヴァセーレを無理矢理使い魔にしたとしても、きっと魔力不足で喰われて終わるだけだろう。
彼がパチンと指を鳴らすと、声が出るようになった。
「……そう、です。私は魔力が少ないから、下級悪魔すら召喚できなくて……」
「違う」
遮られて顔を上げる。変わらない冷たい瞳がこちらを見下ろしていた。
「下級悪魔が寄り付くはずもない。畏れているんだ。……この才がわからないとは、ノヴァーリスも腑抜けたな。父上の時代はこうではなかったと聞いたが」
「え?どういう……」
この学園に来て以来の屈辱的な記憶が蘇ってくる。言葉をなくし視線をさまよわせていると、力が抜け、手に持っていた魔導書が床に落ちた。
「お前の魔力は多すぎる。……強大すぎる、ということだ」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~
ぱすた屋さん
ファンタジー
ギルドの受付嬢アイラは、冒険者たちから「鉄の女」と呼ばれ、畏怖されている。
絶世の美貌を持ちながら、常に無表情。そして何より、彼女は窓口から一歩も動かない。
彼女の前世は、某大手企業のコールセンター勤務。
営業成績トップを走り抜け、最後には「地獄のクレーム処理専門部署」で数多の暴言を鎮めてきた、対話術の怪物。
「次の方、どうぞ。……ご相談ですか?(クローズド・クエスチョン)」
転生した彼女に備わったのは、声の「真偽」が色で見える地味な能力。
だが、彼女の真の武器は能力ではなく、前世で培った「声のトーン操作」と「心理誘導」だった。
ある日、窓口に現れたのは「相棒が死んだ」と弔慰金をせしめようとする嘘つきな冒険者。
周囲が同情し、ギルドマスターさえ騙されかける中、アイラは座ったまま、静かにペンを走らせる。
「……五秒だけ、沈黙を差し上げます。その間に、嘘を塗り直すおつもりですか?」
戦略的沈黙、オウム返し、そして逃げ場を塞ぐイエス・セット。
現代のコールセンター術を叩きつけられた犯人は、自らその罪を吐き散らし、崩れ落ちる。
「あー、疲れた。一五分も残業しちゃった。……マスター、残業代三倍でお願いしますね」
これは、一歩も動きたくない受付嬢が、口先だけで悪を断罪し、定時退勤を目指す物語。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる