狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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29.王都で二人で職業訪問

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「――で、あれはなんだったの?」

 伊達に撮影班の責任者ではないベンデリオは、私が言うまでもなく、アルトワール城を背景に撮影を行う準備をして待っていた。 

 映える光景に抜け目がない。
 久しぶりにあったが、やはりベンデリオは有能だ。

 撮影班を、そして何より訪問する店側を待たせている状態だったので、まずは最優先でシャロとともに宣伝用の撮影をした。

 今度の劇団氷結薔薇アイスローズの舞台「恋した女」の主演女優シャロ・ホワイトと、捨てられる子供役の私で、しっかり日時と公演期間を告知した。

 公演期間は一週間。
 二日だけ昼夜やり、残りは夜だけだ。

 これから稽古で一週間。
 本番である公演が一週間。

 そして、例の二週間後の血祭りが待っている、というのが私の王都でのスケジュールとなっている。
 一番最後に一番おいしいものが待っているというこの日程、なかなか悪くない。きっと残りの日数を指折り数えるたびにわくわくが止まらず、気分も盛り上がっていくことだろう。

 まあそれはともかく、宣伝告知である。

 ――よくよく考えると、無名の主演女優より「氷の二王子」か、劇団の名前にもなっている氷結薔薇アイスローズルシーダが来た方が宣伝効果は高かった気もするが。まあ誰もが色々と不慣れなので、こんなミスもある。

 そして、だ。

「シャロを助けに行っただけよ」

 さっきの路地裏でのことを「なんだったの」と聞かれても、それ以外答えようもない。

「嘘でしょ?」

 今度の舞台衣装でもあるシックな造りのタイトなドレスに、やや派手めのメイクで、かなり年上に見えるシャロははっきり言った。

 嘘でしょ、と。

 ちなみにささやかに胸を盛っていることを私は知っている。

「すごく楽しそうにいたぶってたじゃない。私を助けに来たんじゃなくて、誰でもいいからいたぶりたかったんでしょ?」

「心外だわ。シャロの一大事と聞いて我を忘れて駆け付けたのに」

「はいはいどーも。どう見ても私のことなんて二の次だったけど、一応お礼は言っておくわ」

 心外な。
 チンピラを殴るのもシャロを助けたいというのも、気持ちは同じくらいだったのに。

「……あ、ごめんなさい。これから撮影なの」

 私としても、主にリノキスに告げ口されないようシャロには口封じ的なことを言っておきたいのだが。

 ――ちなみにリノキスが連れてきた衛兵は、さっさと帰した。ああいう時はリストン家の名前が効くから面倒がなくていい。

 問題は、ずーっとずーっとリノキスが疑いの目で私を見ていることだが。撮影が終わったら絶対に追及されるだろう。憂鬱である。

 まあ、彼女のことは後回しにするとして。

 これからすぐに、レストラン「黒百合の香り」で職業体験をすることになる。
 ただでさえ舞台の宣伝に、手間と時間を取らせてしまったので、これ以上は待たせられない。




「――ニアちゃん。ちょっといい?」

 撮影班が機材などを店に運んでいる中、なぜかベンデリオがくどい顔でこちらにやってきた。

 なんだろう。
 こういう時の彼は、真っ先に訪問先の人に最後の打ち合わせをしにいくんだが。

「どうかした?」と問うより早く、彼は指をパチンと鳴らしてシャロを指さした。

「彼女いいね。どう? 今回は二人でやってみない? その方が宣伝効果も高いと思うけど」

「えっ」

 シャロが驚いているが、私も驚いている。

「ニア・リストンの職業訪問」はもう何度も撮影をしてきたが、二人でやる、というのは初めてのケースだ。

「せっかくの王都での撮影だからね。こんな時くらいゲストがいるのも特別感があっていいと思うよ」

 特別感ねぇ。

 まあ、私は今までベンデリオ始め現場監督の言う通りにやってきたから、そう指示するなら受け入れて頑張るだけだが。

「ベンデリオ様がそう判断するなら、私は構いません」

 彼の仕事なら、悪いようにはしないだろう。

 私の答えに満足したのか、ベンデリオはくどい顔をシャロに向けた。

「君はどうかな? まあギャラはあんまり払えないけどね。
 何かやらかしてもニアちゃんがフォローしてくれるし、気楽にやってみない? せっかく着飾ってきてくれたんだし」

「え、えっと……」

 シャロが困った顔で私を見るが、私には困る理由がわからない。

「迷う理由があるの? ようやく主演を勝ち取った今度の舞台、どうしても成功させたいんでしょう? だったらしっかり宣伝しなきゃ」

 ――こうして、急遽二人での職業訪問となり、撮影がスタートした。




 女優シャロと、王都で有名なレストラン「黒百合の香り」の中年男性コックと一緒に、打ち合わせ通りパスタを作った。
 
 緊張しているシャロと、シャロ以上にすごく緊張しているコックに、作業をしながら話題を振り続けていると、段々と二人は落ち着いてきた。

 パスタとソースの作り方、作る時の注意点、作る時の心構え、作る時に考えること、今までの料理の成功・失敗談、シャロの男の趣味、コックの女の趣味、初めて料理を作ってあげた異性の話、コックが恋人を募集していること、コックがこんな女性がいいと色々語り出したこと、コックが本気で恋人探しをしていることを猛烈アピールし始めたところで撮影は終了。

 最後に、自分たちで作ったパスタを実食して、本日の撮影は終了した。

 ちなみに今日の私の昼食はこれだったので、朝から何も食べていなかった。
 食べる撮影は胃の調整が面倒なのだ。




「ニアさん、今日はありがとうございました」

 コックが言うには、前に王都の放送局から取材を受けた時、ガチガチに緊張して料理も発言も失敗し、結局魔法映像マジックビジョンには流せないものになってしまったらしい。

 前の失敗があったから余計に緊張していたわけだ。納得である。

「おかげで今度は上手くいきました。本当に、ありがとうございました!」

 私と、恐らくベンデリオを筆頭に撮影班全員も、きっと思っていることだろう。

 ――上手くいきすぎだ、と。

 絶対にしゃべりすぎだろ、このおっさん。恋人を募集するな。




 と、なんだかんだ問題もあったが、無事に撮影も終わり。

 あとは、一週間後の舞台に備えるだけとなった。



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