狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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79.添い寝をする話

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「眠そうね」

 闇闘技場の夜を楽しんだ翌日。
 結構ギリギリの時間に学院に戻ってきた私は、あまり寝られないまま、何事もなかったかのように新たな一日を送っていた。

 横の席にいるレリアレッドが、何度も欠伸をしている私を見て呆れている。

「眠そうというか、眠いのよ」

 子供の身体ゆえに眠気がすごい。
 私じゃなければその辺に倒れ込む勢いで熟睡しそうなほどに眠い。

「昨日の夜、寝られないくらい興奮したの?」

 うん? ……ああ、うん。

「それなりに、かしら」

 レリアレッドは、周囲と同じく、私も昨日の武闘大会の興奮が冷めていないものと勘違いしているようだ。

 生徒たちが熱狂した武闘大会の夜が、闇闘技場のイベントだったから。
 寝られないほど気が昂ったのか、と。

 今日は、武闘大会の次の日。
 周りの話題は、やはり昨日のことばかりだ。
 私が眠い理由を知らないレリアレッドが、同じように括るのもわからなくはない。

 子供たちの武闘大会はともかく、闇闘技場も興奮するほどではなかったが――楽しいは楽しかったかな。

 久しぶりに……というか前世ぶり・・・・に魔剣を見ることができたし、むせかえるような鮮血の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、ほんの少しだけ本能と血肉がざわめく感覚を味わった。

 不満がないではないが、悪くない夜だった。

「ま、帰ってから寝ればいいんじゃない?」

 そうしようかな。

 前もってスケジュールを調整し、今日は午前中で終わりとなっている。
 そして、撮影した武闘大会の模様が放送されるのは、今日の午後からである。

 ――周囲の子たちの熱が冷めないのも、これから放送で昨日の試合を振り返ることができるから、かもしれない。

 直接観客席で見た子は多いが、だからといって、すべての試合を見られた者も少ないはずだ。
 特に選手として参加した子は、必然的に見られなかった試合もあるだろう。

 お菓子を買っておこう。
 トイレを済ませておこう。
 俺の勇姿を見ろ。
 放送が始まったら誰がなんと言おうと魔法映像マジックビジョンから離れない、等々。

 盛り上がり方はそれぞれだが、注目度は非常に高い。
 この分なら、また魔晶板が売れそうな雰囲気である。

 ――昨日の今日で、大急ぎで映像の編集を終えた王都放送局は大変だっただろうな。きっと向こうも徹夜だろう。




 全体的にそわそわしていた小学部校舎の午前中授業が無事終わり、レリアレッドと一緒に寮に戻ってきた。

 貴人用女子寮には珍しく、なんだかみんなバタバタしている。
 どうもお菓子やお茶の準備を、あるいは今の内に小さな雑事を済ませているようだ。

 ロビーにある魔晶板の前から動かないで済むよう、今の内に、終わらせるべきことを終わらせているのだろう。

「――パンケーキ欲しい人ー?」

「「――はーい!」」

 子供たちと一緒になって寮長カルメも忙しそうだ。……パンケーキか。ほしいな。

 私とレリアレッドは実家経営の関係で、ほかにも階級が高い貴人の子は個人用の魔晶板を持っているので、部屋で観戦できる。

 でも、なんというか、少人数で観るのと大勢で観るとでは、雰囲気や盛り上がり方も違うんだよな。

「一緒に観る?」

 レリアレッドはその辺をよくわかっているので、ロビーで一緒に観るのもいいと思っているようだ。
 試合のたびに一喜一憂して、皆と盛り上がりたいのだろう。

「私は無理。途中で寝そうだから」

 大会中はヒルデトーラがインタビューしたり、試合の案内をしたりと活動していたので、私もそれはチェックしたいのだが。

 しかし如何せん眠い。
 もう尋常じゃなく眠い。
 たぶん今座ったら三秒で寝られる。
 というか気を抜いたら立ったままでも寝られそうなくらい眠い。

「そんなに眠いの?」

 眠い。
 子供の身体が睡眠を欲している。

 観たい気持ちももちろんある。
 きっと放送局の人が徹夜したであろう、ハードスケジュールで仕上げてくれた武闘大会の模様を、私も観たい。

 が、眠気の方がはるかに強いので、もう迷うことなく寝ることにした。

 どうせ再放送もするだろうから。



 部屋に戻ると、リノキスが寝ていた。

 私のベッドで。

「……確かに言ったけど」

 多く血を失ったから、とにかく食って寝ろと。
 朝、部屋を出る前に、確かに言ったけど。

 でも、私のベッドで寝ていいとは言っていない。一言も言っていない。

「…………」

 いったいどういうつもりなのかは気になる……いや聞きたくもないが、穏やかな寝顔ではあるが顔色が悪いのを察してしまうと、叩き起こしたり床に落とすのも憚られる。

「添い寝か……」

 昨夜、というか早朝か。
「何をそんなに……」と言いたくなるほど添い寝添い寝言っていたリノキスの姿を思い出す。

 これは暗にしろと。私に添い寝をしろと。
 そういう意味なのだろう。

 ……仕方ないな。

「――えい」

「――ごぶっ!?」

 とりあえず、寝ている間にリノキスが起きないよう、ちょっと腹に食らわせておく。――うむ、白目をむいた穏やかな寝顔になった。これでしばらく起きることはないだろう。

 いったいなんのこだわりがあるのかは知らないが、お望み通り添い寝してやることにした。



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