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134.王様への手紙、王子からの手紙
しおりを挟む進級試験が終わり、あと数日で春休みという学期末のある日。
「――お嬢様。ヒルデトーラ様がお見えです」
放課後となり、今日も疲れた頭を乗せて寮に戻り、自室で手紙をしたためていた時のこと。
ドアをノックされて対応したリノキスが、まさかの来客相手の名前を告げた。
本当にまさかという感じである。
なんというタイミングで来るのか。好都合極まりない。
「通して」
リノキスに指示を出すと、すぐに金髪の女の子が部屋に入ってきた。
「ごきげんようニア。急に来てごめんなさい」
「気にしないで。私もヒルデに用があったから」
ヒルデトーラとは、三学期は一度立ち話をしたっきりだった。学年が違うのもあるし、お互い忙しかったというのもある。
「わたくしに何か用事でも?」
「ええ。今書いている手紙を王様に渡してほしいの」
本当にいいタイミングだった。
こうして会えなければ、明日か明後日にはこちらから会いに行っていたことだろう。
「王様に、……ということは、例の十億クラムの報告かしら?」
うむ。
ヒルデトーラとこの件の話をするのは、去年の夏の浮島旅行以来のことである。彼女は王様から直々に、私と王様のつなぎ役にと命じられていた。
「もしかしてちょっと待ってた?」
私の向かい、リノキスが引いた椅子にヒルデトーラは優雅に腰を下ろす。
「そうですね。あれから一度もこの話題が出なかったので、気にはなっていましたよ。――拝見しても?」
テーブルの上にある、書き終わった一枚目の便箋を見ている彼女に、特に隠すようなことはないので渡しておく。
「……えっ。い、一億九千万も調達したんですか?」
「ええ。その報告をした方がいいと思って」
あの王様が読むことを考えて、内容は無駄を省いて簡潔にしてある。
一枚目は、今セドーニ商会に預けてある武闘大会用の資金の総額。
二枚目は、次の夏休みの終わりまでに稼げそうな予想額と、稼ぐペースの伺いを立てることにしている。
十億稼ぐまで企画が動かない、というわけではない。
準備だけなら一億もあれば始められるはずだし、いつまでにいくらずつ必要になるのかわかっていれば、ノルマをこなすがごとく効率的かつ無駄なく、そして無理なく活動できると見越したのだ。
その辺の意見を聞きたいのだ――今すぐでも企画が動かせるのなら預けている金も使っていいよ、というこちら側の許可も添えて。
「どうやって稼いだのですか?」
「冒険家リーノ。知らない? 今アルトワールではすごく有名だけど」
「え? ええ、名前だけは……」
「彼女」
私でも滅多に飲めない高い茶葉で紅茶を入れているリノキスを指差す。
「冒険家リーノって、私の侍女のことなの。彼女に稼いでもらっているの」
「……あ、そうですか」
すごく驚いているヒルデトーラからは、それだけだった。
「まあ……事情がありそうですし、これについてはわたくしからは何も言わないことにします」
言いたいことは色々あるんだろうな。
冒険家として活動しているのになぜ侍女をやっているのか、とか。侍女として働くより冒険家に専念した方が稼げるだろうになぜ、とか。
その辺の疑問を飲み込んでの「何も言わない」宣言だ。
「秘密にしておいてね」
どうやって稼いだか。
王様にも同じ質問をされた場合を考えて、ヒルデトーラには一応教えておくことにしたのだ。
レリアレッドはいまいち怪しいが、ヒルデトーラは上流階級、それも最たる王族である。
貴人社会は足の引っ張り合いも日常茶飯事。不用意に秘密を漏らせばいろんな不利益が、あるいは己の立場が揺らぐ可能性だってあることをよく知っているはずだ。彼女に限って誰彼構わず触れ回ることはないだろう。
「それで、ヒルデはどうしてここに来たの? お茶を飲みに?」
「あ、そうそう。色々と先に驚かされたせいですっかり忘れていました」
と、彼女は手紙をたたんでテーブルに置いた。
「実は、わたくしもお兄様から手紙を預かってきたのです」
偶然ってあるものですね、と。ヒルデトーラは制服の上着の内ポケットから、飾り気のない白い封筒を出した。
ほう。お兄様から手紙。
確かに偶然とはあるものだな。ヒルデトーラは私に手紙を届けて、その足で私から手紙を預かって城に帰ることになるのか。
無駄がなくて結構なことだ。
「お兄様と言うと、私はヒエロ王子としか会ったことがないけど」
確か、ヒルデトーラには何人か兄がいるはずだ。
姉もいるし、でも下はいないんだっけ。
それと、噂では認知していない王様の隠し子も何人かいるそうだが……王様の性格からして、確実にいると思う。それも計画的に作った隠し子が。優秀な人材を得るために。……冷静に考えると本当にめちゃくちゃな王だな。
「そのヒエロお兄様からです」
ああそう。なんだろう。
「ちょっと待ってね。さっさと書くから」
リノキスと相談して、書くことはまとめてある。あとは私の直筆で文章にするだけだ。
手早くまとめて封筒に入れる。
封印はいらないかな。この場でヒルデトーラに渡してしまおう。
「お預かりします――ではこちらを」
封筒を渡して、違う封筒が戻ってきた。こちらも封はしていない。早速中身を検めてみる。
「……あら」
ヒエロからの手紙の内容に、驚いた。地味に驚いた。
「何か気になることでも書かれていました?」
封はしていないが、どうやらヒルデトーラは読んでいないようだ。
まあ、封をしていないってことは、彼女が見る可能性もあったということだ。ならば知られてもいいことなのだろう。
「春休みを空けておけ、ヴァンドルージュで行われる結婚式に出てほしいって」
「えっ、結婚式ですか?」
具体的には、「ザックファードとフィレディアが私を結婚式に呼んでいるから来てくれ。詳しい話は後日直接話す」と。そういった内容だった。
「結婚式……そういえば、ヴァンドルージュの修学館に属するハスキタン家のご子息と、機兵王国マーベリアのコーキュリス家のご令嬢が、卒業と同時に結婚するとかしないとか聞いたことがあります」
さすが王族というべきか。
ヒルデトーラほど多忙かつ小さい子でも、その手の情報は仕入れているようだ。
まあ、それはさておき。
問題は、私が結婚式に呼ばれたことではない。
ヒエロ王子が「来い」と言っていることだ。
つまり恐らくは、これも魔法映像普及活動に拘わること。
それも、「他国に売り込んでいるヒエロが呼んでいる」という意図を考えると、もしかしたら売り込みに成功した可能性がある。
だから驚いたのだ。
私を呼ぶということは、私に魔法映像に関する協力を要請しているということだ。
詳しくは書かれていないが――ヒエロの仕事が前進した可能性は非常に高い。
……そういえば、何か悪だくみをしていたもんな、あの王子たち。あれがうまくいったのかもしれない。
「了解したと伝えておいて。ただ、予定は早めに教えてほしいわ」
春休みをどの程度空けなければいけないのか。
きっともう春休みのスケジュールは、リストン領の撮影で埋まっているはずだ。それをどうにかこうにか調整しないといけなくなりそうだ。
ただでさえ弟子たちの面倒を見たり、撮影したり、出稼ぎの計画を考えたり、油断ならないリノキスを牽制したりと私も忙しい中、更に予定が入ると言われるとたまったものではないが――
魔法映像を普及させるためと言われれば、協力せざるを得ないだろう。
アルトワール王国に普及するのも大事だが、他国に売れる方が利益は大きい。……まあ私に利益が入るわけではないが。
「わかりました。近く、お兄様の予定を伝えにまた来ますので」
紅茶一杯分だけ世間話をして、ヒルデトーラは早々に引き上げていった。
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