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143.結婚式 第二部
しおりを挟む「うっうぅぅぅうう……ぐううう……!」
で、最終的にはフィレディアより、ザックファードの方が号泣する、と。
「泣きすぎでしょ……」
新郎の泣きっぷりに新婦が引いている。
フィレディアは最初の波を越えた辺りから、割と平気そうだった。まあザックファードが泣き出したのでびっくりして止まったのかもしれないが。
「――以上になります」
映像が終わったので、魔晶板を回収する。新郎新婦のほかに、控えている侍女までちょっと来ているようだ。
「ありがとう、ニア。とても素敵な映像だったわ」
映像が終わってもハンカチをびしゃびしゃにしているザックファードを置いて、フィレディアが微笑む。
「お礼ならヒエロ王子にお願いします。これはあの方から、友人の結婚式への贈り物として用意したものですから」
この魔晶板と「祝いの言葉の魔石」は、二人へのプレゼントになる。もちろん結婚式に撮った映像もすべてだ。
――これも規制の内に入っているのだ。この国で撮影した映像をアルトワールに持ち帰ることは禁止されている。
そこまで約束した上で、ようやく撮影の許可が下りたのだ。
クリストも言っていたが、ヴァンドルージュ皇王の警戒心はかなりのものである。まあ当初のカカナの警戒っぷりを思い出せば、彼女の態度こそ皇王の心境そのものだったのかもしれない。
理解が進めば対応も変わってくるかもしれないが、それはさておき。
この結婚式で撮った映像すべて、見やすいように編集して、残していくことになる。
そして、想定では、結婚式に来られなかった人――フィレディアの祖父母に観せるために持っていく、という感じになると思う。
「まあ、ザックはちょっと心を揺らされすぎたみたいだけれど……いいわね」
しみじみとフィレディアは語った。
「今日は、家の付き合いと、家格に見合う来賓しか呼べなかった。でも本当に祝福してほしかった人たちは、今の映像の中にいたわ。
家も身分も関係なく親しくなり、修学館で一緒に笑ったり怒ったり泣いたりした人たち。しばらく会っていない友人の姿も見れた。
同じ『結婚おめでとう』でも、言葉の重さが違うわよね。心に響いたわ」
同感だ。
映像にも残っているが、言葉を貰いに行った時、祝福の言葉を紡ぎながら泣く人もいたのだ。
互いが泣いたのである。
互いに思い入れがある証拠だろう。
「す、すまん……私もしばらく会っていない友人や恩師の姿に、急に込み上げて来てしまった……」
ザックファードも落ち着いてきたようだ。
「こんなに泣いたのは子供の頃以来だ。恥ずかしい姿を見せてしまったな」
「本当よ。本当に本当よ。本当だからね」
うん……新婦はやや辛辣だが、言いたくなる気持ちはわかる。
「本当に懐かしかったのだ。もう十年会っていない友人を見た瞬間、……ちょうど今のニアの歳くらいの記憶が蘇ってな。服を泥だらけにして、庭を走り回っていたあの頃と、今を比較して、せ、成長した、な、って……」
それは新婦の父親辺りが思うやつじゃないのか? 娘の成長を思い出すやつじゃないのか?
「まだダメじゃない。もう今の内に枯れるまで泣いておきなさいよ」
うむ。
想定とちょっと違うが、先に観せておいて正解だったようだ。
……新婦より新郎の方が泣くのか。想定外だな。
いや、まあ、それよりだ。
「実はもう一つ伝えたいことがあって――」
言わない、という選択肢もあったのだが。
この様子だと、特に新郎にとっては言っておいたいいと判断したので、ちゃんと伝えておくことにした。
こんなチャンスは二度とないかもしれない。
ゆえに、私たちは最善を求めるのだ。
新婦のお色直しと。
ついでにしっかり顔を洗ったりなんだりで袖を濡らした新郎も着替えをし。
神殿で見送った来賓たちがゆっくりやってきて、玄関ホールに集まった頃、二人は再び姿を現した。
ついさっき号泣したとは思えないほど精悍な顔をした新郎ザックファードと、そんな新郎に「枯れるまで泣いておけ」と言い放ったとは思えないほど粛々とした雰囲気の新婦フィレディア。
並び立つ姿は、非常にお似合いだ。
たぶん性格も一致しているのだろう。ややきつめの新婦に、包容力のある新郎だ。
こうして機会があって結婚式に拘わった身としては、やはり、これから幸せになってほしいものだ。
来賓の拍手で迎えられた新郎新婦は、二階からゆっくりと降りて……は、来ない。
私が話したからだ。
これからここでこういうことが起こるから、心の準備をしておけ、と。もう泣いちゃダメだからと。
――ふっと、玄関ホールの灯りが落ちた。
それに合わせて、壁際に控えていた使用人たちが各窓のカーテンまで閉めて、外の光が極力入らないようにする。
よし、朝早くから練習もしただけに、完璧な連携である。
一瞬で暗くなった玄関ホールに、何事だとざわつきが広がり――誰かが「あっ」と声を上げた。
――「ザック! フィル! 結婚おめでとう!」
左手側……新郎新婦から見ると右手側に、ただの人としては大きすぎる人が浮かび上がっていた。
皆驚いている。
淑女や子供は悲鳴を上げるほどに驚いている。
私も驚いていた。
準備の段階から見ていたが、こんなに大きな――人の背丈を大きく超えた魔晶板なんて、見たことがなかったから。
これが新開発されたという大型魔晶板か。すごい迫力だ。
――映像は、昨日一班と二班で撮ってきた「祝いの言葉」を編集したものだ。
飽きる前に終わるよう新郎新婦に向けた個人的なメッセージは切って、たくさんの人の「おめでとう」だけを繋いだような形となっている。
それにしても、一班の映像の既視感がすごい。
修学館……ヴァンドルージュで言うところの学院に撮影に行ってくるとは聞いていたが、たくさんの生徒たちがごちゃごちゃ集まって「おめでとう」と言うこのごちゃごちゃな映像は、去年ヒルデトーラと一緒に撮った学院案内のようだ。
とにかく、なかなかの衝撃である。
魔法映像に慣れている私さえ驚くのだ、まだあまり馴染みのないヴァンドルージュの人たちが受けた衝撃は相当なものだろう。
映像は、あっという間に終わった。
驚き、放心して、ただ目の前の衝撃から目が離せなくなっていた来賓たちは、明るくなってもしばらくその場から動かなかった。
真っ先に動いたのは、新郎だった。
また泣いてしまったようで、そそくさと新婦を連れて控室に戻るのだった。
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