狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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165.冬の仕事は別々に

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 ――「ではリーノさんは、一年後の王国武闘大会に参加するんですね?」

 ――「はい。そして優勝をもって冒険家を引退したいと思っています」




 冬休みの直前に、冒険家リーノの参戦表明が放送された。

 映像の提供は、学院準放送局。
 今やアルトワール中が武闘大会の話題で持ち切りで、しかも冒険家リーノはいろんな人に捜索されている存在である。
 大丈夫だとは思うが、うっかりバレたら大変なことになるリスクを考えると、あえて危険な場所に出る必要はないだろうと考えた。

 その結果、危険を冒して学院の外で撮影する理由もないということで、一番手近な放送局に撮影を頼んだのだ。
 そう、学院内にある放送局に、だ。
 準放送局の知名度もまだ低い、という理由もあったので、向こうの名を上げる相乗効果も狙っている。

 ヒルデトーラの伝手として冒険家リーノを紹介し、どこで撮影したかはわからないようにして、室内で撮った。

 簡単な雑談と、一番肝心の武闘大会参加表明と。
 つばの広い帽子と襟の高い服を着て、できるだけ顔を隠した冒険家リーノは、必要なことをしっかり伝えた。
 そして緊張の色も、不足もなく、立派にインタビュアーを務めたジョセコット・コイズは、一夜にして学院で知らない者はいないほどの時の人となったのだった。

 学院でも王都でも大騒ぎとなった。
 きっとほかの領地でも、しばらくは冒険家リーノの話題で持ち切りだろう。

 そして――この一言で、状況は少しばかり上昇気流に乗った。
 
 ――「私は来年の武闘大会まで姿を消しますが、その前に。何度も依頼が来ているレリアちゃんの『一日キャンプ』と、ニアちゃんの『追いかけっこ』に出演したいと思っています。この国を離れるのはそれからですね」 




 王国武闘大会は、元々は魔法映像マジックビジョン普及活動の一環だった。
 個人的には、強い者を集めたいという私の我欲というものもあるが、それはもう諦め気味だ。この時代の人でも私ほど強い者はまずいない。

 ……まあ、それはいいのだが。

 私は、冒険家リーノの人気を読み違えていた。
 さすがにこれは販促にはならないだろうと思っていたのだが、意外にもリーノの「これからの番組に出る」という情報だけで、魔晶板の売れ行きが伸びたようなのだ。

 打ち合わせなんてしていなかったのに、このタイミングを見計らったかのように、魔晶板が期間限定で二割引きされるという政策が取られたのも、大きかったのだろう。

 二割引き。
 元々が高額だけに、かなりの値引きとなる。

 その結果、「思い切って……!」と大きな買い物に踏み込む者が出てきたのだ。
 王様の仕事だろうな、きっと。彼も普及活動には前向きだったから。

 その上、冬休みの帰郷をやめたいという生徒が続出した。
 学院に残って、リーノが出る番組を観たいという層である。貴人用も庶民用も、寮には魔晶板があるからだ。

 一握りの生徒だけなら「物好きだな」で終わる話だが――数えてみたら三割近くになったそうだ。

 さすがにその数は無視できない。親だって子供の帰りを待っているのだ。
 ヒルデトーラから緊急に「冬休みの終わり頃に再放送するよう掛け合うから」という通達が出され、なんとか事態を収拾させた。

 なかなかの異常事態である。皆そんなにリーノが観たいのか。私は毎日見ているだけに感覚がよくわからない。

 あと個人的にヒルデトーラに「『料理のお姫様』にも出るようにお願いしておいて」と言われた。
 そういえば参加表明の時に「料理のお姫様」のことだけ言わなかったっけ。




 そういうわけで、冬休みはリノキスの撮影も予定に入った。

「お嬢様……」

「今回は我慢しなさい」

 そう、今回ばかりはリノキスと一緒に行動はできない。
 彼女は冒険家リーノとして、私とは違う撮影に向かわねばならない。具体的には王都とシルヴァー領で。立場が違うのでリストン領も一応含まれるかな。

 リストン家には「リノキスは休暇を取って帰省する」と話を通してある。
 そしてリノキス不在の間は、

「早く帰ってきて。本当に早く帰ってきて」

 兄の専属侍女リネットに、私の侍女役を頼んだ。――彼女を鍛えるのは急務にして義務なので、私の都合もいいのだ。よしよし、泣くほど嬉しいか。可愛い弟子め。しっかり可愛がってやるからな。

 兄も、夏の大漁祭りからファンが激増して毎日ファンレターが山のように届いては目に見えて元気がなくなっているので、この冬はあっちこっち元気に遊び回る気力もないだろう。

 数日ほどリネットを貸してもらうことに、すんなり同意してくれた。……リネットが若干ショックを受けているようにも見えたが、「こんなに簡単に許可を……」と呟いていた気もするが、まあ、気にする必要はないだろう。

「――ニア、そろそろ行こうか」

 兄に「はい」と返事を返し、懐古主義レトロな飛行船に乗り込む。
 振り返ると、いつも一緒に来るリノキスは、タラップの下からこちらを見上げている。

 ――泣きそうな顔をするなよ。たった四日後に合流する予定だろう。



 こうして、王都の港でリノキスと別れた。

 彼女はこれから王都やシルヴァー領で冒険家リーノとして撮影に参加し、四日後のリストン領の撮影で合流する予定となっている。

 彼女を一人にして大丈夫か、という不安はかなりある。
 レリアレッドのことも嫌っているし、ヒルデトーラのことも姫を姫とも思っていないような態度だし。
 撮影中に失礼がないか、心配である。

 ――いや大丈夫か。

 出ることさえなかったが、リノキスは私の撮影風景をずっと観てきたのだ。だいたいのことはもはや感覚でわかるだろう。
 これを言ったら放送事故、あれを言ったらまずい、あれをしたらどうなる。
 きっとわかるはずだ。

 …………

 いや、やっぱり、不安だな……



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