狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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167.早くも出場者がやってきているそうだ

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 やはりというか、もう恒例である。
 今回も過密スケジュールの撮影に追われている間に、冬休みが消し飛んだ。ただでさえ冬休みは短いので、本当にあっという間に終わった気がする。

 そして、王都の学院に戻るなり貴人用女子寮にいる生徒たちに囲まれた。

 振られる話題は、冒険家リーノ絡みのこと。
 たぶん、もうすでに二、三回は再放送されているであろう、「追いかけっこ」のリーノ回のことである。

 思った以上に知名度があり人気があり王都の話題独り占めみたいな現状で、噂の冒険家リーノ登場に始まってニア・リストンの不敗記録ストップという、まあまあいろんな味が楽しめる番組内容となった。
 皆の反応を見るに、それなりに楽しんでいただけたようだ。

 いつでも勝てる相手なら、勝ちに固執する気はない。
 八百長で盛り上がり、いろんなものが丸く収まるなら、私はそっちを選んでも構わない。

 実際リノキスも速かったしな。わざと負けたとは誰も思うまい。
 私の上手いさじ加減で、いかにも接戦で負けた感じにしたしな。完璧な出来レースだったはずだ。

 それに、思ったよりリノキスの「氣」の操作も上達していた。あれはもう、この国でトップクラスの強さを持っていると言っていいだろう。なんなら国で最強かもしれない。私を除けば、だが。

 さてさて、王国武闘大会の優勝は誰になるのかな。




 ――「何の変哲もない一本の棒ですが、こうして床のトラップを調べることもできます。特に落とし穴などは、引っかかれば死に直結する場合があります。このように、ダンジョンでは思わぬアイテムが有効に――」


「お嬢様。チャンネルを変えませんか?」

 ん?

「なぜ? リーノの勇姿をちゃんと観ておきたいのに」

「もういいじゃないですか。自分が出ている番組を観るのは恥ずかしいです」

「でもダンジョンの歩き方も気になるし」

「もう三回も観てるんだから覚えたでしょう?」

 こっちとしては三回観ても飽きないんだが。

 別にリノキスをどうこうは別として、私はリーノ回の「レリアレッドの一日キャンプ」は結構好きなのだ。この学院の冒険科を出ているだけに、割としっかり冒険の基礎を話しているし。映像付きだと説明がわかりやすいし。

 それに、唯一この回だけは番組解禁されているのだ。私にはまだ観られない番組が多いから。特に冒険家を扱う内容のシルヴァー領の番組はダメである。時々過激な表現があるから観ちゃダメだと言われた。……本当にそろそろ解禁されてもいいと思うのだが。

 しかしまあ、リノキスの気持ちもわからんでもないので、チャンネルを変えることにする。私だって自分が出ている番組をじっくり三回も観たくはない。チェックで一回観るくらいでいい。


 ――「このように、早くも王国武闘大会に意欲を燃やす出場者がやってきています!」


 おお、キキニアだ。

 チャンネルを変えた先に、見知った顔と見知った背景が映る。
 ここは王都の港で、中央に映っているのは学院準放送局のキキニア・アモンだ。相変わらず弾けんばかりの強い笑顔である。

 なるほど、結構いいな。
 私、レリアレッド、ヒルデトーラとは完全に違うタイプの、とにかく元気がいいインタビュアーである。知的さはまったくないが、子供らしくて悪くない。というか彼女には似合っている。

「あ、猛虎族」

 そんなキキニアの後ろを、大柄な虎獣人が二人歩いていた。――猛虎族だ。それも戦士だな。あいつらは強いんだよな。それも強者を求めるタイプが多い。つまり自然と覇道を目指す者が多いのだ。

 だがしかし――

「強そうですね。ガンドルフより大きいですよ、あれ」

 ん?

「あれが? 強そう? あんな弱そうなの、デコピン一発で泣いちゃうんじゃない?」

 はっきり言ってあれは研鑽が足りない。
 恵まれた獣人の身体が強いだけで、それ以上の強さはない。身体的な強さだけで勘違いしている未熟者だ。鍛えろ鍛えろ。もっと鍛えろ。まだまだ全然足りないぞ。せっかくの伸びしろが無駄になってるぞ。

「……それができるのはお嬢様だけですよ」

「そう? 今のリノキスならできると思うわよ?」

 そんなわけないでしょ、と溜息を吐くが……私は結構本気で言っているんだがな。

 彼女は師匠たる私と己の実力を理解していない。
 特に私の実力を理解していない。しろ。払え。敬意を。師匠に。


 ――「あの! 王国武闘大会の参加者ですか!? 少しお話いいですか!?」


 あ、キキニアが猛虎族に突撃した。
 相手は見上げるほどの大男な上に、虎の顔で二人もいるのに。物怖じしないな、あの子は。


 ――「なんだ童。我らに用か?」

 ――「おい、あれを見ろ兄者。噂に聞くキャメラというやつではないか?」

 ――「お? おう、きっとそうだぞ弟者。おい、あれで映像を撮っているのだろう? 我らを映せ」

 ――「あ、え、待っ」

 ――「どういう原理か知らんが、皆よく聞け! 今年の武闘大会、我らが優勝する!」

 ――「噂のリーノとやら! 怖じ気づくなら棄権せよ! いいか、我らの名は――!」


 おいおい、寄り過ぎ寄り過ぎ。
 湿った黒い鼻しか映ってない上に鼻息で映像が曇ってるぞ。

 うむ、おいしい映像が撮れたな、準放送局。これは確かに放送に使われるな。

「ちょっとなごみましたね」

「そうね」

 なんか名乗っていたものの、おもしろ映像とだけしか内容が入ってこなかったが。
 まあとにかく、王国武闘大会の出場者は続々と集まってきているようだ。

 さて。
 そろそろレリアレッドも来そうだし、今夜も忌むべき宿題でもやるか。




 三学期は、冒険家リーノの番組と、まだ一年近く間が開いている王国武闘大会に関する話題で持ち切りだった。

 今からこんなに騒いでいて大会当日まで持つのか、当日には息切れするんじゃないか、と言いたくなるくらい、学院も王都も大盛り上がりである。

 続々とやってくる冒険家や武闘家には、有名な名前もちらほら出ているらしい。準放送局も足しげく港に通い、それらしい参加者に話を聞くという行為を繰り返し、着実に「使える映像」を撮って行った。
 それがまた話題となり、日々尽きることがない。

 偶然会ったジョセコットは「本当は学院からの参加者を撮りたいんだけどね」と零していた。
 でもそれは内輪ネタでしかないから使えない、と王都放送局に言われたそうだ。確かに学院関係者にしか需要がなさそうなので、仕方ないのだろう。

 まあ、いずれ状況がより鮮明になってくれば、撮影するチャンスも巡ってくると思う。今はまだまだ全体的にごちゃついているからな。

「私、リストン領はこれでいいと思うんですけどね」

 王都、シルヴァー、そして準放送局と。
 冒険家や、王国武闘大会についての番組が多くなってきた。

 そんな中、リストン領の番組だけ、あまり変化がない。
 元から全体的に刺激が少なめで、のんびりした映像が多く、田舎に想いを馳せる高齢の視聴者に人気があるらしいが。

 周りのチャンネルすべてが慌ただしくなってきた今は、よりのんびりしているように思える。リーノ回の「追いかけっこ」ももう二十回は再放送したから、さすがにもう流していないようだし。

「私も嫌いじゃないわ。でも人気が押され気味だからね……」

 何かないとダメなのだろう。
 新しい企画とか。

 でも今のタイミングで新しいことをしても、なかなか注目は集めづらいと思う。

 ……十億の件が片付いて少しだけ余裕があるし、何か考えてみようかな。




 そんなことを考えながら、しかし結論はまったく出ないまま進級試験を経て、私は小学部三年生になった。

 そして、春休みに入ろうというこのタイミングで、思いがけないものと出会うことになる。



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