188 / 405
187.機兵学校、二日目の出来事
しおりを挟む深夜、冒険家崩れのようなチンピラが六人忍び込んできたのを返り討ちにして捕まえ、翌朝。
朝支度と朝食を済ませて学校へ行く私を、リノキスと子供たちが出入り口まで見送りに集まっている。
「今日、帰ったらこれまでの報酬を渡すわ。それから今後の話をしましょう」
そんな彼らに、私は言い渡した。
「……え。クビ、ですか……?」
私の言葉の意味を察したシグが驚き、その言葉で意味を察してほかの三人も驚いた。
「やだー! お嬢と離れたくないー!」
カルアが抱き着いてくる。おお、よしよし。カルアはかわいいな。たとえ打算でも。打算であっても小遣いをやりたいくらいかわいいな。
「今まではあえて何も聞かなかったけど、そろそろ聞かないといけないでしょ。どうするかは話をしてから決めましょう」
私はこの国にずっといるわけではない。
ひとまずの目途としては二、三年でアルトワールに帰ることになっている。
だから、私やリノキスはともかく、子供たちは今後の身の振り方も考えて行かねばならない。
それに加え、今は色々な意味で取り込み中だ。
その辺の事情も、そろそろ私から子供たちに話すべきだろう。
たとえば、現在進行形で、この屋敷の地下室で監禁事件が起こっていることとか。
これからマーベリアとケンカするかもしれないこととか。
一緒にいたら大変な目に遭う可能性は、どうしてもでてきてしまうから。
――子供たちを弟子にするしないも、話し合いの結果で決まることになるだろう。
アルトワールでは、王都住まい以外は全寮制だった。
しかしマーベリアの機兵学校では、寮の部屋数が限られているせいで、城下町から通う子供も少なくないらしい。
大陸自体が大きいので、他の集落のいくつかも同じ島にあるのだ。浮島ほど離れた場所に住んでいる子が少ない、というのも大きいのだろう。
学校の敷地に近づけば近づくほど、同じ制服を着ている子供たちが多くなる。そして一様に同じ場所へ向かうのだ。
そんな中、私の周囲ではひそひそと、あるいは聞えよがしに、昨日の宣戦布告の話をしている。
この分だと、しっかり噂が流れているようだ。
上々である。
ケンカを買ってくれる者が出てくるのもすぐだろう。
「――待っていたぞ、留学生!」
すぐというか、文字通りの意味で本当にすぐのことだった。
校門をくぐった先に人だかりができていると思えば、それが私の客だった。
うむ。
機兵学校二日目にしてこれなら、この学校生活も楽しくなりそうだ。
「ああ、機兵ね」
生徒たちが左右に割れて道を作った。
導かれるように、あるいは逃がさないように、私はその道の真ん中を歩き――その先で待つ機兵と対峙する。
機兵。
見るのは、初めてではない。屋敷の手入れなどをしている期間中、機兵や機兵学校についても簡単に調べておいた。
複雑な内部機構や魔導チューブ、ワイヤー、関節と、マーベリアの技術の粋を尽くして開発された全身甲冑。
正確には「強化甲冑」と呼ばれる代物だ。
半巨人族のように大きく、人間では扱えないほど重い武装を持てる腕、重い身体を支える足も、非常に太い。
まあ、丸みを帯びたその形は、見た目は短足のエール腹のおっさんのようだが。
しかし短足なのは重心を低くして安定感を高めるためなので、この形こそ、強化甲冑としては理に叶っているのだろう。むやみやたらに等身を高くすると、転倒しただけでダメージも大きいからな。
鈍色の鉄の甲冑には、なんの紋章も入っていない。
機兵には一目で所属がわかるよう、所属場所の紋章――作業用だの運搬用だの、正規の機士だの警備用だのを入れることを義務付けられているはずだ。
それがない、ということは、これは訓練用の機兵ということになるのかな。
この機兵学校では、エリートの機兵科に所属すると、資格試験に通れば訓練用の機兵が一人一台貸し出されるそうだ。
騎乗時の訓練と、自分で整備して構造を知るための教材、というわけだ。
「――待っていたぞ、留学生!」
そして、その訓練用であろう機兵の横には、明らかに年上の生徒が数人いる。小生意気な勝ち誇った顔をしているので、全員機兵科だろう。
その中の一人、機兵の真正面に立っているこれまた一際小生意気そうな貴族らしさ全開の小僧が、私に言ってくれる。
「機兵すら知らない貴様が、どこの田舎から来たのかは知らないが! 機兵を愚弄するとはこのマーベリアを愚弄することと同意義である!」
まあ、それに関しては間違ってはいないが。愚弄はしているよ。でも先に私を愚弄したのはこの国だがね。
「聞けば、機兵なんてダサくて弱くてエール腹のおっさんのような姿のオモチャ、指一本で倒せると豪語したそうだな! ならばやってもらおうではないか!」
それも確かに言っ……おや、若干尾ひれがついてるな。
大負けに負けて「蹴りで倒せる」とは言った。
マーベリアに害意はあっても、機兵そのものにはなんの感情もないから、名誉のためにあえて優しく言ったつもりだったが。
そうか、そうか。
指一本で倒していいのか。機兵が弱いことを強調してほしいのか。そうかそうか。
「やってみろ! さあ! できんなら謝れ! どちらかをしないとここは通さんぞ!」
仕方ないとは思う。
もうすぐ十歳という子供が、ちょっと調子に乗って行き過ぎた冗談を言った、としか思えないのはわかる。
「できるはずがない」という気持ちで、外国人の私に恥を掻かせたいマーベリアの生徒たちが見守っているのも、まあわかる。
行き過ぎた冗談を本気にして高くなっている鼻をへし折ってやろうとする気持ちも、わからなくもない。
――問題は、私が本当にできるという一点だ。
「どの程度?」
周囲にも、前方にいるエリートたちも、言い放ってくれた小生意気な小僧も、笑いながら私を見ている。私の反応を伺っている。
そんな彼らに、いや、正面の小僧に問う。
「なんだ?」
私が何か言ったので、周囲の笑い声が止んだ。いい見世物なので一言一句逃したくないのだろう。撮影中じゃないから再放送もないしな。
「いや、どの程度やっていいのかなって。壊さないように倒してあげましょうか? それとも全壊させた方がいい? あなたが選んでいいわよ」
今度は爆笑が起こった。
こらえきれないとばかりに噴き出すものが続出した。
私も笑ってしまった。
こんなに周りに期待されては、やらないわけにはいかないじゃないか。もう引けない。これはもう、一歩たりとも引けない案件だ。
「す、好きにしろよ! もう行っていい! これだけ笑わせてくれたならもう充分だ!」
正面の小僧は大笑いしながら許してくれた。
別に許さなくていいのに。
私はもうやると決めているのだから。
「――おはよう」
普通科の教室に行くと、クラスメイトの四人がすでに来ていた。
彼らは一瞬こちらを見たが、すぐに目を逸らした。……あまり良い感情を持たれていないのか、返事がないな。
例の宣戦布告と、外国から来た留学生ということで、敬遠されているのかもしれない。
まあ、たった五人のクラスなのだ。追々慣れてくれるだろう。
昼頃になると、今朝の一件が耳に入ったのか、露骨に怯えられるようなったが。
21
あなたにおすすめの小説
拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。
とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。
…‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。
「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」
これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め)
小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる