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233.二週間後の迎冬祭の二日前 後編
しおりを挟む「マジか……!」
緊急搬送用の大型単船と救助に来た機兵二機が、立てなくなったクワイトの機兵を起こす。
這う這うの体で正面装甲を開いて出てきたクワイトは、自分の機兵……それもやられた左足を見る。
「うわあ、嘘だろ……! あの感じ、絶対魔腱ワイヤーが切れやがったぞ……!」
そういえば、機兵科は自分の機兵を与えられると同時に、整備なんかも自分でやるとかなんとかって話を聞いたことがあるな。
つまり、あの故障はクワイト自身で直すことになるのだろう。
……あの嘆き方からして、結構重症そうだな。ご愁傷様である。
「次は私とシィル様ですね」
「ああ」
抱き合って喜ぶ掃討科、肩を落として自分の機兵と退場していくクワイト。
そんな彼らを横目に、シィルレーンとエーゲの二戦目が始まるのだが――
「私は乗りません」
一戦目の連中が去り、いざ二戦目の用意ができたところで、エーゲ・ロージスははっきり言った。
「どんな事情があろうと、我々機兵科は、機兵を使ってシィル様に武器を向けることはできません。たとえ魔法弾しか出ない武器であっても」
堂々と言うエーゲに迷いはない。
恐らく、最初からこうすることを決めていたのだろう。
「シィル様は王族なので。訓練だろうが練習試合だろうが、それは絶対に揺らぐことのない事実です。
機兵同士ならまだいいですが、今回は機兵と生身です。これで勝負するのはまずいです。たとえ当人同士が承諾していたとしても、どんな事故であなたに怪我を負わせるかわからない。
あなたにも言い分はあるかもしれません。
私の言い分を、機士として受け入れられない気持ちもあるかもしれません。
でも、それより何より、どんな事情があっても、何かこっちが罪に問われることになります。だからあなたと勝負するのは無理です」
だから、と、エーゲは違う決着の付け方を提示した。
「無人の私の機兵を倒してみてください。それができたらシィル様の勝ち、できなければ私の負けです。――承諾するしないを提示してはいますが、どうあっても私は機兵に乗る気はないですから」
……ふむ、なるほど。
「シィル、どうする?」
「承諾せざるを得ない」
シィルの返答も、また迷いも揺らぎもないものだった。
「たかが私の転属くらいで、機兵科の生徒の将来を左右することは許されないからな。この形でいいと思う」
そうか。
私は機兵と戦って勝つシィルレーンの姿を見たかったが、これもまた仕方のない流れなのだろう。
――それに、考え方次第である。
たとえ直立しているだけの機兵であっても、装甲も重量も、一人の人間で太刀打ちできるものではない。
これを倒せないようでは、戦ったところで勝負にならないだろう。
「だが、いいのか?」
シィルレーンは私物の槍の石突で、ドンと地面を叩いた。
「――動かなければ私が勝つだけだぞ。やるまでもなく勝負は見えるが」
「――構いませんよ。むしろそれを見せてください。……私だってあなたが機兵科を去ったことには納得していない。もし去るだけの理由があったのなら、それをぜひ証明してほしい」
勝負の結果は、シィルレーンの宣言通りだった。
これには、見ている生徒たちの歓声が――湧かなかった。
きっと、信じられない光景だったからだろう。
「――現段階で最高の出来だった。でもはっきり言ってまぐれだよ」
後にそう語ったシィルレーンの、全身全霊の石突での一突きは――エーゲの機兵の正面装甲を捉えた。
更に押し込む。
踏み込んだ足で地面を蹴り、更に先に踏み込み、体重と「氣」を込めて抉り込む。
突き自体の速度も、体重移動も、「氣」も、現段階で出せるシィルレーンの全てを込めた突きは、機兵を浮かせて、後ろに倒して見せた。
子供にしか見えないシィルレーンにとっては、倍どころか十倍二十倍以上も体重差がある物体である。
どんなに強烈な突きを繰り出せようが、浮くわけがないのに。
機兵に詳しい者は元より、機兵とはあまり縁のない生徒たちにも、今のはかなり奇異に見えたのだろう。
遅れて上がる声は、歓声ではなく、不可解を示すざわめきの方である。
――うん。
「悪くなかった」
掃討科の戦いも、シィルレーンの戦いも。
かなり想定と違う形にはなったが――どちらもなかなか見ごたえがあった。
かなり想定と違う結果だった。
「まさか、こんなこと……」
「信じられませんな。私は夢でも見ていたのか?」
「……これは事件ですな」
全生徒たちが知っているほどの噂である、教師たちに伝わらないわけがない。
一応何か問題があった時に誰かに説明できるよう、機兵学校の大人たちは、校舎の一室から見ていた。
というか、アカシの裏工作である。
事前に「こういうことをするけど邪魔しないでね」と話が通っていたので、教師たちは傍観することにしたのだ。
――どうせ機兵と生身の人間が戦ったところで、勝負になるわけがないから。
最初から勝負が決まっていると思ったがゆえに、目くじらを立てて邪魔する理由もなかったのである。
いまいちまだ不透明だが、ニア・リストンだけはいささか特殊のようではあるが――それこそ今回は掃討科とシィルレーンが参加するとあって、結果がひっくり返るわけがないと思っていた。
だが、蓋を開けてみれば、まさかの二敗である。
特に、二戦目のシィルレーン戦はまだしも、掃討科に負けたというのは、非常に大きな事件だった。
機兵は絶対強者である。
誰にも負けることはない。
そんな、昔から伝わり、当然だと思っていた根幹が揺らぐ事件だった。
「――おや?」
初めに出ていた機兵二機の出番が済んだので、もう終わりかと思いきや――今度は、頭部に赤い印の付いた機兵が出てきた。
あの赤い印は、機兵科の学年トップが付けることを許された、代表を示すものである。
動きからして、恐らくは九年生のジーゲルン・ゲートの機兵だろう。
訓練所の真ん中に佇むジーゲルンの機兵の前に、白い髪の少女が立つ。
あれは一目でわかる。
何かと騒ぎを起こしている、アルトワール王国からの留学生ニア・リストンだ。
「……まさか……!」
次は何事が起こるのかと見ていた教師だが――一機と一人が向き合った時点で、これから何が起こるかを理解した。
ジーゲルン機は、左腕に旧式の……訓練用に正規機士から回ってきた古い機兵連砲と、右手には訓練用の剣型の鉄棒を持っている。
対する留学生は、魔法弾判定を受ける感知装置を背負っている以外は、完全に丸腰である。
機兵と生身の人間。
それも小さな女の子である。
あまりにもあんまりな構図で――まさかの勝負が始まってしまった。
学校中が。
教師たちが。
ほかにもこっそり見ている者たちが、ただただ驚くばかりである。
至近距離からとんでもない速さで打ち出される魔法弾を、ひょいひょい避け。
訓練用ではあるが、生身の人間に当たれば普通に死にそうな鉄棒を振り回されてもひょいひょい避け。
迫ろうが退こうが、一定の距離を保って……機兵の攻撃範囲に留まり続ける白い髪の少女。
機兵は、重量がある分だけ、人間と比べるとさすがに機動力は劣る。
だが、瞬間的な動作は非常に速い。
あの威圧感で覆いかぶさるように迫れば、ただの人間であればまず恐れたり、委縮したりするものだ。
なのに――眼下の少女は、まるで遊んでいるかのように立ち回り、機兵を翻弄している。
やがて、ジーゲルン機の動きが止まった。
正面装甲が開き、ジーゲルンが降り立つ。
――活動限界だろう。あれだけ激しく動けば、あまり燃料を積めない構造になっている訓練用機兵では、あっという間に動けなくなる。
三戦目は、誰がどう見ても、ニア・リストンの勝ちである。
――あれだけ余裕のある動きを見せたのだ、もし攻めに転じたら……
――いやいや、生身の人間が機兵に敵うわけが……
誰しもにそんな疑惑の芽を植え付けて。
この出来事は、すぐにマーベリアの要人たち、そして国王の耳に入ることになる。
「――やっぱあれ本物だろ」
「――ああ。あの時も冗談みたいに強かったけど、冗談じゃなさそうだな」
「――隊長が帰ってきたら報告ね」
そして、ひそかに来ていた現役機士……東の砦で「虫のついでにやられた」機士たちも、しっかりと見ていたのだった。
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