狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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247.最東端の森へ

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 昼を少し過ぎた頃。
 私とリノキスは四輪機馬キバを止め、遅めの昼食を取ることにした。

 手頃な岩を見つけると並んで座り、朝早く起きてサクマが作ってくれた弁当を開ける。

 行く先は、とにかく東だ。
 とりあえずはマーベリア大陸の最東端か、機馬キバで行けるところまで行く予定である。

 私たちを歓迎するかのように襲ってきた巨大コウモリの林を抜け、草木の密集度が強くなり森と言いたくなるところで濃厚なもてなしをするかのように巨大蜘蛛に襲われ、そこを抜けてきたところだ。

 後ろに鬱蒼とした森を臨み、正面には青々とした草原が広がっている。
 所々が禿げたり草が倒れているのは、生物の痕跡である。

 やはり土がいいのだろう。
 季節柄もあるとは思うが、目に入るもののほとんどが、緑が豊富である。

 ――それと、少しだけリビセィルから聞いていた「草木が巨大」というのも確認した。

 知っている草や花を見かけたが、どれもが形だけは同じだが、同じ種とは思えないくらい大きかった。
 個体差もあるのだろうが、特に大きいのは元の倍以上は確実にあったと思う。ここから先はもっと目に付くはずだ。

 こうなると、やはり、土壌の良さから生物の巨大化が始まっているという推測は、当たっている気がする。
 襲ってこなかったが、巨大なバッタも見たしな。

 コウモリも蜘蛛もバッタも、やはり大きかったし。
 恐らく、蟻や蛾を追い詰めたのは、蜘蛛だと思われる。あれはかなりまずい。囲まれて糸を撒かれたら、大抵の生物はもう終わりだ。もちろん機兵も何もできなくなる。

「――東の先は森になっているそうですね」

「――そうそう。なんでも白い縁取りに囲まれた丸い森があるんだってね」

 未開の地とは言え、上空から見ることはできる。
 大まかな地形くらいならマーベリアも把握しているのだ。

 ただ、危険すぎて絶対に降りられない地なので、見ることしかできなかったようだが。

「それにしても危険すぎませんか? いくら未開の地と言えど、ここまで危険生物が多いなんて……」

「危険? 私がいるのに?」

「そりゃお嬢様は大丈夫でしょうけどぉ……私は死にますよ。さっきの蜘蛛とかどうしようもないですし」

「それって鍛え方が足りないからでしょ?」

「なんでも武で解決すると思っちゃダメですよ。人間、できることとできないことがあるんですから」

「できないことの言い訳はやめなさいよ。あなたは私の一番弟子でしょ。情けないことを言わないの」

「あっそうですか。じゃあ今年の夏休みの宿題は手伝わなくていいってことですね」

「そうね。できることとできないことがあるわよね。これはもう人間なら仕方ないことだわうん」

 宿題だけはどうしようもない。
 あれは人間のありとあらゆる悪意を壺に入れて争わせて残った、蟲毒の如き業だ。

 あんなものがあるから人は争いをやめない、戦争をやめないのだ。
 まったく現代人はどうかしている。




 昼食を済ませ、更に東へ向かう。

 見上げるばかりの巨大猪を爆散したり、狼……いや巨大な野犬どもを一撃の下に屠ったり、鷹よりも鷲よりも巨大な白いミミズクの首を飛ばしたり。

 道中も楽しい機馬キバの運転に、楽しい出会いもたくさんあって、今度の一泊二日の旅はかなり良かった。とにかく私を飽きさせなかった。

 そうだよな。
 捕食の環で虫が巨大化したなら、その虫を食らう生物だっているよな。
 むしろ虫はほかの捕食生物たちに追われて西へ向かった、と考えた方がいいのかもしれない。

 虫は最弱だった。
 ほかの捕食者から逃げるために縄張りを追われて、西へ――例の砦まで追い詰められた。

 マーベリアにとっては、ここの調査が進むにつれて虫の脅威どころの話じゃなくなってしまうかもしれないが、こればっかりは仕方ない面もあるのだろう。

 それほどまでに、土がいい。
 いや、良すぎたのだ。

 肥沃すぎる大地の生態系。
 マーベリアは一難去ってまた一難……か。

 ――シィルらには、ますます強くなる理由ができるのだ。私の弟子なら燃えてほしいものだ。




 夏ゆえに日が長い。
 体感としてはもう夕方くらいのはずだが、まだまだ青空である。

 ひたすら東へ向かって来た私たちは、ようやく遠目に森を望むことができた。恐らくあそこが最東端の森である。

 森は次第に、姿をはっきりとさせていく――と同時に、強い違和感を与えてくる。

 上空から見た感じでは、丸い森に白い縁取りがある場所である。

 絵で見た限りでは、「白くて丸い植木鉢に植わった緑」を真上から見ている感じだった。
 飛行船技術の低いマーベリアでは、高低の微調整が難しかったらしく、それ以上の詳細な目視はできなかったらしいが……

「――お嬢様! 一旦止まってください!」

 違和感に気づいたのは私だけではなく、リノキスもだ。
 普通じゃない光景を見て、情報交換したくなったのだろう。

 私としては、さっきからわくわくが止まらないのだが。

 四輪機馬キバを停車して、私とリノキスは真正面にある森を見ている。

 やはりどう見ても不自然。
 近くに行けば行くほど違和感しかない。

「お嬢様、あの白いのって何なんでしょう?」

 絵で見た限りでは、あの白いのが「森の縁取り」あるいは「植木鉢のふち」である。
 ちょうど鉢ごと地面に植わっているかのように、ふちの上に覆い茂る緑が見えるような形だが……

「あれはきっと骨ね」

 遠目には「白い縁取り」だが、近くに行けば行くほど、不揃いの物質が集まっていることがわかってきた。

 生物の、骨。
 つまり白骨だ。

 森を囲むようにして放置してあるたくさんの白骨、か。

 いよいよ核心に迫ってきた気がする。
 あの森に、私が求めた、マーベリア大陸未開の地に住む最強の生物がいる。

 ――興奮するなというのが無理な話である。



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