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255.地下室の逢引き(真相)
しおりを挟む二人が訴えるので、とりあえず話を聞いてみようという流れにはなったが――
……うん。
「事後なの?」
「ニア。子供がそういうことを言わない」
いや、だって。
ちゃんと見たら想像以上に乱れていたから。
――パッと見では着衣の乱れが目立ったが、ちゃんと見るとリノキスもサクマも顔は赤いわ汗ばんでいるわ、ちょっと激しい運動でもした直後のようじゃないか。
ちょっと激しい運動をして脱ぎ散らかした服を整えようとしていた瞬間のようじゃないか。
特にサクマだ。
隙のない姿しか見せてこなかっただけに、人間味がある姿はとても新鮮だ。
「――違うんですよ! これ見て! これ!」
と、リノキスは奥から両手に瓶を一本ずつ持ってきた。
「蜂蜜酒の試飲をしてたんです!」
何、蜂蜜酒?
酒と聞いて内心色めき立つ私をよそに、言葉を継ぐようにしてサクマが言う。
「他にもあの蜂蜜で酒を割って味を見ていました。ただ、異常に発汗作用が強いようでして。今非常に身体が熱いです」
リノキスはまだまだ焦っているが、サクマは落ち着いて説明する。
「あの蜂蜜で作ったの?」
「はい。そのまま使うには何かと濃すぎるので、ニアお嬢様のご命令通り、他に使い道はないかと模索しております。その一環です」
ああ、そうか。さっきシィルレーンが言っていた通りか。
果物はなんとか片付いたが、依然として蜂蜜は残っているのだ。あまり表に出せない代物なので、できるだけ早く処理してしまいたいとは思っているのだが……
なんというか、そう、まだいい食べ方が見つかっていないのだ。
薄く薄く伸ばして、おやつや食事などに使ってはいるそうだが、このままだと一年経っても残っている可能性もあるとか。それくらい減っていないらしい。
「お互い酔うほど飲んでいません。でもこの有様です」
確かに二人の汗の量はすごい。
こうして話している間にも、顔中から止めどなくだらだら汗が浮いてきて、きっと服の下も大変なことになっているはずだ。そりゃサクマだって襟元くらい緩めたくもなるだろう。
まあ、発汗作用はわからないが、元々強い薬効がある蜂蜜だ。
酒精と混ざることでまた違う効能でも出ているのだろう。
「そんなに効くの? じゃあ私も味見をしてみようかな」
「ダメだぞ、十歳児」
「失礼ね。もうすぐ十一歳だわ」
「それはおめでとう。しかしまだまだ足りないな」
……ダメか。どさくさに紛れていけたりしないかと思ったのだが。ダメか。
「じゃあ私の代わりにシィルが試飲してよ」
「ん? 私がか?」
「そう。王族の舌で出来栄えはどうか確かめてみて」
もし味がいいなら、人にあげるのも手だ。
贈答という手段で消化してしまおう。
あの効能が高すぎる蜂蜜は、いつまでもここに置いておくよりは、誰かの役に立った方がいいだろう。
もしかしたら、向かいのクオール婦人への贈り物に適しているかもしれないしな。
一応マーベリア産の蜂蜜だ。
国自体は好きではないが、それでも、この国に還元してもいいだろう。
「あ、もしかして飲めない?」
「いや、たしなむ程度だが飲める。王族ゆえに断れない酒もあるからな。……では味見だけしてみよう」
――その結果、シィルレーンも彼らと同じように汗をだらだら流し出した。これで一応リノキスとサクマ両名の身の潔白は証明されたと言っていいだろう。
まあ、本当に付き合っていたとしても、文句はないが。
……文句があるとすれば、私がまだ飲めない年齢であることだけだ。やれやれ。
「……あの、こちらは?」
翌日。
学校から帰ると、約束通りクオール婦人の使用人が応接間に通されて待っていた。
再び会った私は、彼女の前に、用意しておいた黄金色の液体を満たした瓶を置く。
薄めに薄めているが、それでも淡い黄金色に輝く蜂蜜色は、非常に美しい。
「あのタルト、少し特別な果実を使っていて、すぐには調達できないの。その代わりに蒸留酒の蜂蜜割を用意したわ。
もしよかったら、それを持ち帰って使用人たちで味見してみて。やっぱりタルトがいいっていうなら、当日に合わせて焼くよう準備するから」
「あ、そうなんですか。申し訳ありません。わざわざお手を煩わせるわけには――」
やはり軽い気持ちで頼んでいたようで、腰を浮かせるほど焦っている老婆に私は「いいえ」と言葉を遮る。
「うちの使用人たちが、あなたたちにはとてもお世話になったと言っていたわ。ささやかだけど私も何かお礼をしたいの」
リノキスもサクマも、子供たちも、彼女らと繋がりができたことで、質のいい食物が手に入るようになったと言っていた。
さすが地元民と言うべきか、この街のことは詳しいらしく、店や卸商人の紹介をしてもらったとかなんとか。
そういうの、突き詰めると私にも関係があるからな。
日々おいしいおやつが食べられるのも、彼女らのおかげでもあるのだ。
「それに混ぜている蜂蜜ね、かなり薬効が強いの。ぜひ試してみて」
「はい。ありがとうございます」
酒瓶を抱えて帰った老婆は、また翌日もやってきた。
「――あのお酒でお願いします。とてもおいしくて、でも味だけではく身体の底から力が湧いてくるような感じで……私ども使用人の間で『これしかない!』と満場一致で結論が出ました。
ぜひもう一瓶、ご用意していただけますか?」
昨日一昨日はややくたびれた感のあった彼女は、今日は肌の色艶もよく、声にも張りがあり、顔に力が入っていて、妙に漲っているように見えた。
どうも効いたようだな。想像以上に。
……うん、でも、効きすぎるとなると贈答には向かないかもな……あんまり評判が立つと騒ぎになりそうだ。
酒にしていろんな人に配る。
これはやめた方がよさそうだ。
贈答で処理は無理、か……あの蜂蜜、どうするかなぁ。
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