狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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313.マーベリアの日常へ

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「――お嬢ぉ! お嬢おおぉぉぉぉうおおおぉおぉぉぉ!!」

 空の旅は順調そのもので、滞りなくマーベリアの屋敷に戻ってくることができた。
 一応人目を忍んで夜到着するように調整し、こっそりと帰ってきた。

 玄関前で、戻ってきた私たちに気づいたカルアから熱烈な帰還の抱擁を受けていると、シグ、バルジャ、ミトも集まってきた。はっはっはっ、よしよし。帰ってきたぞ。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 サクマもやってきた。

「ただいま、サクマ。何か問題は?」

「特にございません」

 そうかそうか。子供たちと一緒にこの家を守ってくれたか。

「もしかして暇だった? 私がいないのに留守番を任されて」

 仕事とは言え、私の見張りを兼ねて雇われたのに、肝心の私が不在になってしまったから。一ヵ月も。

 サクマなら効率よく臨機応変にやるだろうと思って、下手に束縛しないようあえてその辺の確認はしなかったのだが。

「いいえ。お嬢様の本意かどうかはわかりませんが、クランオール様もシィルレーン様もアカシも、よく泊まりに来てますから」

 さすがに戴冠式間近のリビセィルと、リビセィルが動けないので東の砦に詰めている副隊長イルグは来れなかったらしいが。
 多少時間に余裕がある他の馴染みの連中は、修行がてら子供たちの様子を見に来ていたんだとか。

「王族の別荘扱いか。まあ無駄に遊ばせるよりはマシね」

 可愛い弟子たちが使っていたというなら、特に文句もない。




 一ヵ月ぶりの我が家だ。……一応我が家でいいよな?
 見慣れた内装に調度品、雰囲気も、ここを離れたあの日と同じである。

 子供たちが離れないので、一旦応接室にやってきた。
 もう少し落ち着かせてから通常業務に戻ってもらおう。……というかもう夜だから、仕事も終わってるかな。

 ――しかし、まあ、アレだ。

「私は城にいることになっているのよね?」

 前後左右を子供に取り巻かれたままソファに座る私の前に、サクマが紅茶を用意する。ちなみにリノキスは侍女服に着替えるため、今は部屋に戻っている。

「はい。より正確に述べると、近く行われるリビセィル王子の戴冠式の手伝いをしていることになっています」

 ああ、そうだった。
 それが私が不在だった期間の足跡となるのだ。

 ニア・リストンは空賊列島には行っていない、マーベリアの城にいた、と。
 マーベリアの王族が証言するという確実な保証の下、私の不在はなかったことになるのだ。

 そのため、まだ髪も黒いままである。
 染髪魔法を解くのは、城へ行って私の身代わりを勤めているはずの誰かと入れ替わった後だ。

「明日入れ替わるから、向こうに連絡を付けておいてくれる?」

「畏まりました」

 ――それから、少し大事な話があるのだが……肝心の子供たちがまだ落ち着いていないので、これは後日の方がいいか。




 こうして、マーベリアに留学してきた貴人の子としての日常が戻ってきた。

「ひさしぶりぃ!」

 翌朝。
 一ヵ月ぶりの自分のベッドで熟睡していると、まだ空も暗い頃にやってきたアカシに寝込みを襲われた。

 まさかノックもなく部屋に入ってきた上にベッドに飛び込んでくるとは思わなかった。……まあ元々遠慮のない奴ではあったので、そんなに意外な気もしないが。

「うーん……もう少し寝たい」

 なんだかんだずっと気を張りつめていたのだろう、意外と疲れが溜まっていたようでまだ寝足りない。寝起きは良い方なのだが。

「ありゃ? 寝起きでもニアちゃんの気の抜けた顔って珍しいなぁ……疲れてるの? だったら城で寝たらいいよぉ」

「……そうね」

 移動などで姿を見られないよう、暗い内に移ってほしいのだろう。
 私は今、城に住み込みで働いていることになっているから。

「――うん、行こうか」

 重いまぶたを開き、アカシを押しのけて起き上がる。

 手早く朝の支度を済ませて表に出ると、開いた門の外にサクマがおり、馬車の傍らに立っていた。

 あの馬車で入城するのか。
 三輪馬車じゃない辺り、まだ国に浸透してないから、さすがに重要施設には乗り入れできないのだろう。

「行ってくるわね」

「いってらっしゃいませ」

 サクマに見送られ、馬車は動き出す。
 まだ暗いマーベリア王都をかっぽかっぽとゆっくり進んでいく。

「――ねぇニアちゃん、空賊列島はどうだったぁ?」

 御者席に座るアカシに「順調に終わった」と応えると、彼女は「だろうねぇ」と笑った。

「――でもちょっとひやひやしたよぉ。もう戴冠式まで二週間だからぁ。間に合わないかと思ったよぉ」

 あ、そうなのか。

 戴冠式は虫が活発になる夏の前にやる、という大まかな予定は聞いていたが……あと二週間しかないのか。

 これから徐々にマーベリアの貴族や、諸外国からの賓客がやってくるはずだ。
 大掛かりなイベントなら大掛かりなイベントであるほど、準備や調整が大変なんだよな。

 魔法映像マジックビジョンの撮影でさえ、少し撮影の規模が大きくなるだけで問題が頻発していた。

 あれとは比べ物にならない、それこそ国を挙げての規模の集まりとなれば、まあ大変だろうなぁ。

 ……でもって、それから一ヵ月ちょっとか。

「アカシ。伝言頼んでいい?」

「――ん? 誰に?」

「屋敷の子供たち以外に、あなたが情報を伝えておくべきだと思った相手全員に」

「――……え? なんか大事なこと?」

 まあ、大事というか、……今言わなくてもすぐにわかることだとは思うが。

 だが、こういうのは少しでも早めに言った方がいいだろう。




「今度の夏で、機兵学校は進級になるわよね? 私、進級と同時にウーハイトンに留学することになったから」

「――えっ?」



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