狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

文字の大きさ
320 / 405

319.歓迎の意と皇帝の挨拶

しおりを挟む




「少し感動したわ」

「そうですね。実際に来てみると、なんだか不思議な感動がありますね」

 階段の下から上を見た時、私とリノキスは同時に思い出した。

 ――実はこの「龍の背中」、私たちは観たことがあった。

 四歳の頃だから、もう七年前の記憶だ。
 まだこの身体が病に蝕まれてベッドで生活していた頃、兄ニールが魔晶板を……魔法映像マジックビジョンを観せてくれた当初だ。

 確か番組名は「美しい風景」だったかな。
 題名通り世界の美しい光景や観光地を撮影したもので、あの頃は番組自体が少なかったせいで、よく再放送をしていたのだが……いつからか全然放送されなくなったんだよな。

 下から見上げた光景が、その番組で観た光景とまったく同じだったのだ。

 ――そして、眼下に広がる下段の台国。これもまた素晴らしい景観である。こうして見るとウーハイトンは広いな。

「……はあ……はあ……」

「お疲れ様」

 息切れしてフラフラな足取りで登ってきたミトを最後に迎えて、武客としての挨拶は終わりである。

 石像を背負った私が一位で、リノキスは二位。
 まあ、予想通りというか予定通りというか、最初から分かり切っていたつまらない結果に終わった。
 
 だが、狙い通りウーハイトンの武人たちにはそれなりの挨拶になったようだ。
 ウェイバァを含め、一緒に走った門下生五人の私を見る目の色が変わった。

 侮っていたわけではなかったが、実際実力の差を目の当たりにして本気になったようだ。うむ、武人ならそうでなくては。

 まあ、余興はこれくらいでいいだろう。まだ来たばかりだ、これから何度も何かを披露する機会もあるだろうし。

「これからどうするの?」

 荷物を預けていたリントン・オーロンに問う。

 ちなみに彼女は上と下を行き来する大型単船で楽に登ってきた。
 武人ならともかく、常人では移動も荷運びも大変だからな。気軽に行き来する方法は必須だったのだろう。ちなみにこの国も、街中での単船の使用は禁止されている。

「ニア様に用意した邸宅は別にありますが、まずは正面奥の虎平門へ向かいます。皇帝ジンジ様がお待ちですので」

 おお、そうか。私を招いたウーハイトンのトップが直々に挨拶してくれるのか。本当に歓迎されているんだなぁ。
 マーベリアの時がアレだったから内心少し身構えていたが、いらぬ心配だったかな。

 リノキスはともかく、今は連れにミトがいる。
 彼女に害を与えられると困る。まだまだ弱いし、私の弱味として見なされると色々棄権に巻き込まれかねない。

 ――武人として、そして私の弟子としては、そういうのも楽しめるようになってほしいけどな。

 結局実戦に勝る修行なんてないと思う。
 刻んだ死闘と修羅場の数は、何よりも勝る経験となり、血のように巡り出す。修行では培えない部分も多い。私も前世・・では、死闘と修羅場を乗り越えることで強くなっていったはず。

 強くなるために戦う。
 戦うために強くなる。

 結局武人なんて、本当はそんな単純な生き物なのだ。
 
 ……私もそんな単純な生き方がしたいものだ。戦う相手がいないけど……
 



 上段の街並みは、低い塀ばかりが見えて、どこか生活感がなく閑散としている。
 なるほど富裕層が多いということから、貴族街のようになっているようだ。
 
 背負って来た石像の返却を頼んだら引きつった顔をしたウェイバァの門下生五人に見送られ、私たちは正面に見える巨大な門へと向かう。……単船を使いなさい。背負って降りる必要はないから。

 門は、かなり大きい。
 もしかしたら、扉を全開にしたら小型飛行船くらいなら通るかもしれない。
 まさに権威の象徴、皇帝の威厳の具現化という感じだ。

 遠目にも大きいのがわかるその門は、虎平門と呼ばれる古めかしい木造製の門で、宮殿の入り口になっているそうだ。

 人通りのない道を行き、緑色の皮鎧をまとい棍を持つ門番二人の前に立つ。
 そびえる門の大きさも然ることながら、門番もなかなか屈強な大男で、かなり強いことがわかる。眼光鋭く私たちを見ている。

「客人をお連れした。開けてくれ」

「「はっ!」」

 ウェイバァが言うと、彼らは持っていた棍を背に差し、左右の扉に手を掛けた。おい。まさかたった二人で押して開くのか。この大きさの門を。

 彼らの覇気が伝わってくる。
 全身に力を込め、身体のすべてを使って全力で門を押す――と、少しずつ扉が開いていく。

「海外からの客人はまずこれで驚くんじゃがな……ニア殿には子供の遊び程度に見えるじゃろ?」

「そこまでは思わないけど」

 でも、リノキスなら一人でできるだろうな、とは思ったが。ミトもこれくらいはできるようになってほしいかな。

 …………

 まあ驚くべき点があるとすれば、ここまで未熟な「氣」でこの重量を動かせる門番二人の気迫というか、肉体の鍛え具合だな。
 この二人もウェイバァの弟子だろうか? もう少し師がよければもっともっと強くなっていただろうに。実に惜しい逸材だ。

 ゆっくりと門が開くと、そこには宮殿が…………

 …………

 びっくりした。

 奥には宮殿があるのだが――その前にある石畳の大広間に、人が並んでいた。

 身分の高そうな兵装の者や、文官と思しき者。ヒゲを蓄えた中年から老齢の者が多い。
 そんな宮殿勤めであろう武官や文官たちが、道を形作るように左右にずらりと並び……その奥。

 彼らが導くように連なった先にいる、唯一椅子に座った者。
 つややかな赤地に派手な金糸の刺繍を入れた一層豪華な服をまとう、眼光鋭い中年。

 なるほど、ここは簡易的に作られた謁見の間なのか。
 一番奥で椅子に座っている男が、ウーハイトンを治める皇帝ジンジだな。ほう……剣呑な目に相応しい武人でもあるようだ。かなり鍛えているな。

 しかし……まさか、門を開けたらそこに皇帝が待っているとか。

 宮殿を背に集まっている彼らは、この国の中枢、このウーハイトンを動かしている高官たちだろう。
 これはもはや、出迎えとも言うべき歓迎の形である。高官が最大限歩み寄れるギリギリまで来てくれた結果が、これなのだと思う。

 ウーハイトンの伝統の形なのか、それともある種異例の形なのか。
 そこまではわからないが、明らかなのは、国が全力で私たちを迎え入れてくれようとしているという意思だ。

 ほんとに歓迎されているんだな。マーベリアではアレだったのに。落差があるだけに。




 あれ?

 せっかくのお膳立てなので、我が行く道を空けた中を堂々と、まさに覇王がごとく行かせてもらおうかと思っていたら……最奥にて座していた皇帝が立ち上がった。

 なんだ?

 何事かと思えば――走ってきた。皇帝が。豪華な衣装の中年男性が。全力疾走で。左右に並ぶ武官や文官が戸惑い「お待ちください」と騒がれるのも無視して。

「――ニア・リストン!」

 走ってきながら皇帝は吠えた。

「――ウェイバァ老師が見込んだ其の方の龍、試すぞ!!」

「は……?」

 なんだかよくわからないままに。

 嬉々として、あるいは鬼気を感じる笑みを浮かべて。
 獰猛な虎を思わせる猛々しい「氣」をまとい走り込んできた皇帝の拳は、私の顔面に直撃した。



しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

処理中です...