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318.挨拶代わりに丁度いいやつ
しおりを挟む「――武客、ニア・リストン殿の到着である! 礼!」
ザッ!
張り上げたウェイバァ・シェンの声に合わせ、整列した武人たちが動きどころか足音まで揃えて直立し、頭を下げる。
うん。悪くない。
気のゆるみのない美しい動作だ。
五百人以上が整列して歓迎してくれた、彼らの前に案内された。
そして私が見たのは、弛まぬ努力を続けてきたことがすぐにわかる、武人たちの姿である。
武勇の国か。
こうして見ると、あながち言い過ぎというわけでもなさそうだ。武人としての質も悪くない。何人かは「氣」を習得するに足る研鑽を積んでいる。
これだけの武人が集まり、並び、恐らく師なのであろうウェイバァの号令にしっかりと動く。
あざけり軽視する気配がまるでない。
敬意を示す相手が私のような子供であることなど、まるで関係ないとばかりに。
教育が行き届いていると言うべきか、武人として相手を軽んじる危険を知っているがゆえと見るべきか。
後者であれば私は嬉しい。
「――ニア殿」
満足げに頷く私、リノキスとミトはこの光景にただただ驚いているようだが……
そんな外部から来たばかりの私に、ウェイバァが囁く。
「何か一つ、この未熟者どもに見せてくれんかね?」
ん? ああ、うん。
「挨拶代わりのやつね?」
武人たるもの、やはり同じ武人の実力は気になるものだ。
それが、「強い」という触れ込み同然の「武客」なんて肩書きでやってきた者だ。気にならないわけがないだろう。
悪戯に力を見せつけるのは趣味じゃない。
が、武人に見せるのであれば、それは意味が違う。
――今より高みが確実にある。
それを言葉ではなく武で教えるのだ。
同じ武人同士なら、こちらの方が言葉よりはるかに雄弁かつ説得力がある。
言い訳も誤魔化しも利かず問答無用に、積み上げてきた武が持つ誇りや自尊心に届くからな。
「やってもいいけど、でもこの状態だと後ろが見えないだろうし……」
同じ武人なら型一つでも響くものがあるはずだが、もう少しわかりやすい方がいいかもしれない。
特に、ここに整列していない、何事かと周囲で様子を見ているウーハイトンの住民もいるのだ。
できることなら、彼らにもわかる形がいいだろう。
武客として呼ばれた以上、変に侮られても揉め事の原因にしかならないだろうし。実力を示しておくのはいろんな意味で有効だと思う。
…………
そうだ。
「『龍の背中』を登りましょうか?」
ずっと彼方にある、視界に入っていた台国の上段へと至る長い長い石階段――「龍の背中」。
遠目でも大きく長いのがわかる。実際は七千段を越えるそうだ。
「ウーハイトンの人にはわかりやすくない? リン嬢の話では、武人なら一日一回は修行がてら登るんでしょ?」
何日も掛けてやってきた船旅で、私の身体もすっかりなまっているし。あれくらいなら準備運動にはちょうどよさそうだ。
「ふむ……つまり競争じゃな?」
「ええ」
要するに駆けっこである。
最後の撮影はもうだいぶ前になるが、「ニア・リストンと追いかけっこ」は久しぶりだ。
これなら誰の目にもわかりやすいだろう。
「全員一度に、ってわけにもいかないから、何人か見繕って。ウェイバァ老でもいいし」
さすがに何百人も一度に登ると、こちらに関係なく登っている一般人に迷惑になるだろうから。
「わしも参加したいが、勝負の形となれば見届け人が必要じゃろ。後からゆっくり追うことにするぞい」
そうか。
「――じゃあ、そういうことになったから」
「「えっ」」
ウェイバァを見送り、振り返るなり弟子たちにそう言ってやると、寝耳に水でも入れられたのかってくらいに二人は驚いた。
「え、なんで驚くの? 他人事みたいに思ってた?」
彼ら、言わばウェイバァの弟子たちだろ。
彼らが参加するんだったらこっちも弟子を出さないと。不公平だろう。
「リノキスは心配してないからいいけど、――ミト」
これでも一番弟子だけにそれなりに鍛えてあるリノキスは、心配はしていない。負ける理由もない。
だが、こっちのまだまだ武人には遠い子は、色々心配だ。
「私に付いてくる条件、忘れてないわね?」
「は、はいっ!」
「ならいいわ」
――そう、ミトとは約束してある。
自分の生き方、自分の将来を探している間は、私の弟子としてちゃんと鍛える、と。
マーベリアにいた頃は、シィルレーンの仮弟子として教わっていた。
だがこの度、私に付いてくると決めた時点で、ミトは正式に私の弟子となった。
正直、まだミトには武人の生き方が向いているかどうかもよくわからないのだが……
だが、唯一の身内である兄シグと別れてでも私と一緒にいたいと言うなら、私もその覚悟に応えたいと思った。
そして私が誰かにできることは、武人として鍛えることくらいだ。
まあどの道、ミトの「氣」の習得具合はまだまだなので、ちゃんと教えたいとは思っていた。なので連れてきた選択はそんなに間違ってはいないと思う。
というわけで、私の……私たちの実力を示すために、到着早々「龍の背中」を登ることにしたわけだが。
ウェイバァが選別した門下生五名と。
黙って後ろを付いてきていたリントン・オーロンと。
私の弟子二人と。
そして、ウェイバァと。
「ニア殿……」
彼らは私の姿を見て、……いや、もっと言うと野次馬で集まった周囲の人や、さっきまで整列していたものの勝負を見届けるため付いてきた門下生たちも、私の姿に戸惑っている。
「気にしないで。ハンデくらいあげないと悪いから」
と、私はその辺の店で借りた石像を背負いなおす。大きな大人一人分くらいの重石にはなっているかな。
「――さ、始めましょうか。なんなら先に行っていいわよ。すぐに追い越すから」
ウーハイトン台国到着初日。
この「石像を背負っての最速記録」を以て、武客ニア・リストンの名は瞬く間にこの国に轟くのだった。
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