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362.アルトワールアンテナ島開局セレモニー 01
しおりを挟む空賊列島は主に大きな五つの島で成り立ち、周辺の四国と自治領で五頭分された。
言ってしまえば、一つ所に五つの国の領地が集まるという、世界的にもかなり特殊なケースとなる分譲案だが――場所と規模からして、どの国も所有権を放棄するつもりはさらさらなかった。
三つ巴ならぬ四つ巴の睨み合いに付け込んだのが空賊たちで、気が付けば国でさえ手出しするのが難しいほどの数が集まり、のさばらせる結果となっていた。
利権の睨み合いと、厄介者の横行と。
自分たちの手に入らないなら討伐軍を派遣する必要はないし、仮に出せば必ず残り三国の横槍やいらぬ助勢で権利を主張される。
空賊どもをどうにかしたその後を考えると、はたして多かれ少なかれ必ず出るだろう被害を覚悟し軍を出し、討伐作戦が成功した後に利をむさぼられる覚悟をしてまで手に入れる必要があるのか。
これまでの友好関係が揺らぎかねないほど、揉める可能性さえある場所である。
最悪戦争まで行きかねないほど、大事で厄介な場所にあるのである。
空賊列島とは、それほどまでに面倒臭い場所だったのだ。
――そんな面倒臭い案件だったが、今回とある人物が先頭に立つことでなし崩し的に潜入・解放作戦が行われた。
そう、割となし崩しでだ。
なし崩し的に各国の代表が参加して、なし崩し的に四国合同作戦という形となり、最小限の被害でかつスムーズに空賊列島を解放することができた。
何が一番いいかと言えば、被害も少ないが、空賊列島が欲しい四国が全部参加したことだ。
後々の利権だなんだで会議が行われ、結論が出るのは何年後になるかという面倒臭い話し合いを省いた上でさっさとやってしまったことだ。
特に、先頭に立って動いていた冒険家リーノの功績は大きい。
ヴァンドルージュが持ち込み記録した映像を観る限り、アルトワール代表の冒険家リーノほか協力者の活躍は目覚ましく、誰がどう見ても一番の功労者をアルトワールだと判断した。
ゆえに、アルトワールが一番早く島の一つ――一番大きくアルトワール王都寄りにある「赤島」と呼ばれていた島を指名し確保、すぐに着工に入った。
それゆえに、空賊列島の一部を自領として公表したのは、アルトワールが一番早かった。
アルトワールアンテナ島。
そう名付けられた旧赤島には、魔法映像の映像を中継するための大きな塔と放送局が建築された。
そして、空賊列島が生まれ変わったことを周知する意味を込め、大々的なセレモニーが開かれる運びとなった。
アルトワール国王は、周辺四国以外のたくさんの国に向けて招待状を送った。
周辺国にこれからの物流の支点が生まれたことと、アルトワールの魔法映像を知らしめるためである。
――アルトワールの周辺国は友好的だが、隣接していない国はそうじゃないところもある。
そんな国の使者たちの目に、高くそびえる中継塔と、映像を撮影・投影する魔法映像という文化はどう映ったのか。
そして、空賊列島を手に入れたアルトワールの進出に何を思ったのか。
「アルトワールアンテナ島事件」。
たくさんの国の使者が集まり、たくさんの思想が集まったあの夜。
平和ボケ――などと揶揄され挑発されても言い訳一つしないアルトワール王国が、世界を目指す野心溢れる布石を打ったようにしか見えなかった開局セレモニーで。
空賊列島に十を超える水晶竜の群れが飛来した。
「――それでは、テープカットに入ります」
天候に恵まれた初冬のある日。
島の端に設置された高い塔を背に、純白に輝く礼装を見事にまとう美丈夫が耳目を集めていた。
アルトワール王国第一王子アーレス。
まだ二十半ばという年若い王太子だが……曲者揃いのアルトワールの王族らしく、百名を超える諸国の要人が集う場で、可愛げがないほど現国王ヒュレンツの代行をそつなくこなしていた。
あれが次代のアルトワール国王。
ここで初めて見た者も、面識だけはある者も――これからのアルトワールも危険な国だと判断を下していた。
アーレスの堂々たるスピーチが終わる。
進行役の女性が宣言し、王太子夫妻を始めとしたアルトワールの要人たちが、紅白テープに鋏を入れた。
和やかな雰囲気で――表面上は友好的な要人たちが手を叩いて歓迎する。
この島の名はアルトワールアンテナ島。
まだ住人も商人も入っていない、明らかに開発中の領土だが――アルトワールが見せたいもの、必要なものはすでにできている。
――アルトワール独自の文化たる魔法映像を象徴するような、巨大な建造物を背に立つ王太子アーレスが、如何様に見えるのか。
それはきっと、それぞれが抱くアルトワールへの印象と心象で、大きく変わってくるだろう。
大きな仕事を成し遂げた姿に頼もしく見える者もいれば――恐怖や脅威を感じる者もいたかもしれない。
何はともあれ、これで正式に、空賊列島は地図から名を消したことになるのだった。
「……ふう」
一旦ホテルに戻ってきたニア・リストンは、普段付けないアクセサリー類を歩きながら外してテーブルに置きつつ、顔からソファーに身を投げ出した。
「お疲れ様です」
見るからに疲労困憊でうつぶせに倒れている白髪の少女に、後を追うようについてきた侍女リノキスが声を掛ける。
「本当に疲れた」
昼から始まった開局セレモニーは、とにかく各国の要人たちとの挨拶ばかりをこなした。こなしにこなしまくった。もう挨拶しすぎて「一番最初に挨拶したのは誰だっけ」と思うくらいに挨拶ばかりしてきた。
「どいつもこいつも腹黒い目で見おって……」
アルトワールから参加している、というだけで、これからのアンテナ島の発展や展望を聞かれまくった。
曲者揃いのアルトワールの王族辺りは鉄壁極まりない情報統制が取れているから、ならば子供なら……という安直な思考が透けて見えた。
デビュタントもまだだし、そもそも上流階級の社交界慣れしていないニアには、完全に場違いな場だった。
聞かれるたびに、誰も彼もに「知るか」と一言で返してやりたかったくらいだ。
そんな様子を給仕の手伝いをしながら見守っていたリノキスは、ニアの心労がよくわかった。
そもそも、何事も楽に暴力で片づけてしまいたいというニアの芯の部分を知る者なら、彼女が社交に苦痛を感じることくらいすぐに察しがつくだろう。
「一応お嬢様に挨拶した方の名前と国と顔の特徴はメモに取ってありますので、あとで確認しておいてくださいね」
あとでメモで確認だと。
それではまるで復習ではないか。
「宿題みたいね」
「宿題という認識でいいと思いますよ」
こんなところまで追ってくる宿題という名の仇敵。
もう声も出ない。
両親と一緒に行動し、親の挨拶のおまけ程度の付き添いみたいなものだったが、それでも疲れた。
兄ニールは撮影に忙しそうだったが、ニアとしては撮影班に混じっていた方がまだ楽だった気がしている。
「――そういえば、お嬢様。気づいていたと思いますが」
苦手で不向きな公務をこなしたニアに癒しの紅茶の準備をしながら、倒れたままの彼女に言う。
「フレッサがいましたよ」
「いたね」
アンゼルがいたことは話題に出したが、フレッサに関してはニアもパーティー中に気づいた。
ニアとすれ違っても何食わぬ顔で、給仕の仕事をこなしていた。
「少し話したんですが、王族の護衛としてアンゼルと一緒に雇われたらしいです」
「意外な繋がりよね」
「繋がりは今回できたものでは? 空賊列島を解放した功労者でもありますし、前にやった武闘大会で上位に入賞者した実績もありますし」
なるほど、とニアは身を起こした。
「逆に言うと、王族は彼らを雇いたいと思う理由……今回のセレモニーに危険を感じている、ということになるのかしら?」
「そうですねぇ。世界情勢などはさすがに私もわかりかねますが――」
と、リノキスはカップに紅茶を注ぐ。いつものちょっと高級な茶葉の香りに、気を張っていたせいですり減った精神が癒される。
「アルトワールと周辺国は友好関係を築いていますが、国を跨いだ向こうの国までは、あまり国交がないようですから。中にはアルトワールを良く思っていない国もあるのでしょう。特に――」
「氷上エスティグリア帝国ね」
恐らく世界最大の国土を持つであろうと言われる、エスティグリア帝国。土地も大きければ国民も多く、軍備も最高峰だと言われている。
アルトワールから離れているので気にしたことはないが、いつでも戦争を始められる国だと聞いている。
そのエスティグリア帝国の使者も来ていたが――
「使者は普通だったわね」
「いえ、世間的にあれは普通ではないですよ」
「そうなの?」
顔に大きな傷のある、騎士団団長上がりだという大男の老人だった。
見た目は強そうだったが、ニアからすれば割と普通だと思った。別に殺気を向けられたわけでもなし、威嚇されたわけでもない。仮にされても普通の武人だと思っただけだろう。
「いかにも何かしでかしそうな感じでしたよ」
「そう? アレよりは他に気になったのがいたけど」
「そうなんですか?」
「ええ。まったく名前が出ないけど。顔も名前も全然覚えられなかったわ。どこの誰だったか……」
「……まあ、お嬢様ですしね。仕方ないと思います」
自分でもそう思うので、ニアは言い返すことはせず、紅茶を啜った。
――何人か、しでかしそうな雰囲気の者はいたのは、確かである。
――だがそれ以上の印象がないのは、何かしら暗躍しそうだが実行する気はなさそうだ、と判断したからだ。
まだ話もできていないが、アンゼルとフレッサというニアの弟子も来ている。
多少何かが起ころうとも、滅多なことにはなるまい。
「夜の部まで時間がありますね。お料理を貰ってきます」
開局セレモニーは、昼と夜の二部構成だ。
まだ今日の仕事は終わっていない。
「あ、お願い。カニを。全然食べられなかったし」
挨拶だなんだと忙しく、立食パーティーとして用意された料理には一切手を付けられなかった。
あの様子だと、夜はどうなるかわからない。
補給するなら今である。
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