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375.アルトワールアンテナ島開局セレモニー 14
しおりを挟む余興と称した討伐劇は、それはそれは盛り上がった。
特大の魔晶板で観る迫ってくるような迫力満点の戦闘シーンは、なんだかんだと多種多様な趣と贅を知る貴族たちでさえ経験がなく、スリルと興奮に夢中になっていた。
もちろん助勢や子供までしっかり楽しんでいた。
相手が相手だっただけに、血が出たり腸が飛び出したり人が死んだりしなかった分、比較的目に優しい、受け入れやすい魔獣討伐の映像だったと言える。
もしもの警戒をしてアンゼルやフレッサと言った、その世界では強いとされている者たちを連れてきた甲斐があった。
他国の助力もあったものの、危なげない戦闘で水晶竜の群れを狩ってみせてくれた。
一時はこの上ないピンチだった。
もし今回のセレモニーを失敗、あるいはケチが付いていたら、それは後々長く引きずる傷となって残ってしまっただろう。
だが、なんとか状況を逆転させることができた。
ピンチは転じて、チャンスに生まれ変わった。
充分に魔法映像という文化の宣伝になったし、アルトワールが持つ強い駒を仄めかして他国を牽制することもできた。
特に冒険家リーノは、すでに世界に名が知られており――今回の一件で更に名声が増すことだろう。
下手にアルトワールにちょっかいを出すと火傷では済まないぞ、と。
言外に主張することができた。
――最初こそ水晶竜の姿を見て危機感を抱き絶望したが、それがあったからこそ、余計に貴族たちは盛り上がったのだ。
きっと今夜のことは印象強く頭に焼き付いたに違いない。
本当に、何がどう作用するのか、わからないものである。
そして深夜――
「皆、ご苦労だった」
まず、アーレスから労いの言葉が出た。
この騒動が始まった場所である王太子夫妻の部屋に、アルトワールの主立った者たちが再び集まった。
興奮冷めやらぬ来賓や子供たちもいたが、もう夜も遅いので、とりあえず各々の部屋に引き上げてもらった。
興奮冷めやらぬ気持ちもわからなくはないが、あれはあくまでも予定にない、突発的かつ事故に近い余興である。これ以上はどうやっても出ないし、出すつもりもない。
討伐に参加したエスティグリア帝国のダンダロッサ・グリオンと、マーベリア王国のクランオールも部屋に帰ってもらった。
彼らとは後日、礼状だなんだと話し合いをする必要がある――が、今はさておき。
「皆の働きのおかげで怪我人も死人も出ることなく、難局を打破することができた。それも得た物が非常に多い、実りのある事件だった」
水晶竜の討伐は成功した。
水色の魔力がゆらゆらと立ち昇る水晶球……魔核は、おもむろにテーブルの上に並べられている。
十二体中九体分の、九個の魔核を回収することができた。
残り三つの魔核は、水晶竜の全身ごと粉々になってしまったそうだ。
奴らの身体である水晶も回収予定ではあるが、それは追々やる予定だ。
「水晶竜討伐に参加した者には、できる限りの報酬を出す。本当にありがとう、助かった」
王太子からお褒めの言葉と報酬の言質を頂いたアンゼル、フレッサ、冒険家リーノことリノキス、そしてリネットは、一礼して部屋から出ていった。
少々幅広い対応となったが、彼らは護衛である。
護衛の仕事をこなす、それ以上のことは関わらない。
――ここからは、今後の話……政治の話となる。
「アルコット殿下」
この場で唯一アルトワールの人間ではない、貴王国ハーバルヘイムの第七王子の名が呼ばれる。
「あなたの処遇を決めねばならない。全員無事で血は流れなかったが、それは結果論であって何事も起こらなかったわけではない。
事件は起こった。
だから責任は追及する。
アルトワールに向けた明確な害意を見過ごすことはできない」
アーレスの言い分はもっともである。
というか優しいくらいだ。
本来なら有無を言わさず縛り上げて牢屋に放り込んだり、アルトワール本国に送るのが正解だろう。
「はい。覚悟はできています」
大人たちに睨まれるように視線を集めるアルコットは、しかし一切臆したりせず、堂々と答えた。
来賓たちと一緒に、超特大魔晶板で事の顛末はしっかり見届けた。
アルコットは、自分のやったことが失敗したことをちゃんと理解している。それにほっとする気持ちは強いが――
でも、それでも、やったことは確かである。
一歩間違えば死人だって出ただろうし、この島だってめちゃくちゃになっていた。
「僕の独断です。ハーバルヘイムは関係ありません。だから僕の命だけでご容赦ください」
きっぱりと言い切るが、そんな言葉を信じる者は、この場にいない。
「そんなわけが――」
眉を潜めるアーレスが言いかけたその時だった。
「この子私にください」
「「……え?」」
思わぬところから出た思わぬ言葉に、いろんな人が驚いた。
発したのはニア・リストン。
今アルコットのすぐ隣にいる、アルトワールでは知らない者はいないほど有名な、白髪の少女である。
「くれ、とは……どういう意味だ?」
「――え、婿に!? 婿にか!? ニア!? お父様は聞いてないぞ!?」
父親オルニット・リストンが取り乱しているが、……まあ、確かに、身内としては取り乱すような言葉である
「――だって殺されるでしょう?」
いろんな反応があった。
突如割り込んだ恋愛話かと浮ついた者もいるし、裏があると勘繰った者もいた。
父親のように取り乱す者もいたし、戸惑う者が大半だったかもしれない。
子供が口を出す問題ではないと苛立った者もいた。
だが、「殺されるでしょう?」という飾り気も何もない発言に、全員が冷水を浴びたかのように思考や背筋が冷えた。
それは事実だったからだ。
「このままアルトワールに連れて行けば自害しそうだし、無罪放免してハーバルヘイムに帰しても責任を取らされて向こうで殺される。
そうじゃなくても、どこにいたってハーバルヘイムから刺客が送られてきそうだし。口封じは必須でしょうし。
この子の命が欲しい者なんて、ここにいますか? いないでしょう? 責任の追及はしたくとも、殺したいとまでは思わないでしょう?
だったら、私の我儘を聞き入れてください。私は子供を見殺しにすることに抵抗感しかありません」
部屋には沈黙が満ちる。
アルコットが驚愕の表情で、隣に立つ少女を見ている。
瞳が動揺に揺れる。
死を覚悟していたはずなのに、この期に及んで生にしがみつきたいと、本能が訴えかけてくる。
「……それは……」
皆、色々と言いたいことはある。
だが、ここまで突っ込んだ話となると――自分の意見一つでアルコットの生死を決しかねない状況となると、もうこの場の最高責任者の意見を聞くしかない。
アーレスは悩んだ。
どう答えていいのかわからない。
アルコットのやったことは絶対に見逃せないし、責任の追及もせねばならない。
立場的に言わせてもらえば、アルコットの罪に対しては、処刑以外がない。
だが、確かにアルコットに死んでほしいわけではない。
きっと拷問に掛けたって大したことは知らされていないだろうし、黒幕にまで辿り着ける可能性は低い。
要するに、捕まえたって事情聴取したって、得るものがないのだ。
ハーバルヘイムに責任を追及しても、「本人の言う通り独断だ、だから責任はアルコットの命で償う」なんて返答があるだけだろう。
「――フッ、フフッ」
沈黙を破ったのは、王太子妃ミューリヒだった。ヒロインをいじめる悪役のご令嬢のように笑う。
「ねえ殿下、悩む必要はないのではなくて?」
「……そうか?」
「ええ。だって陛下からの許可は出ているではないですか」
陛下からの許可。
「……そうだ。そうだったな」
アーレスは思い出した。
そうだ、確かに陛下――アルトワール国王ヒュレンツは言っていた。
「『俺の妾でも俺の息子でも縁談相手は好きな奴をくれてやる』、か。そうだった、ニア・リストンにはそんな陛下の言葉が伝えられていたな」
それは、この島にやってきたニア・リストンのために預かってきた、国王からの伝言だ。
「よその国の王子ではダメだ、とは言っていなかったな。『好きな奴をくれてやる』なら、アルコット殿下もその言葉の対象に含まれる。
――わかった。アルコット殿下のことは君に任せる」
一体何がどうなったのか。
詳しくはわからないが、アルコットは、自分の首が一時的に繋がったことだけは理解した。
信じられない思いで呆然とニアを見ていると――彼女は優しく笑った。
「言ったでしょ? 悪いようにはしないって」
――その言葉に、張りつめていた何かが切れた。
魔力を帯びた瞳から、止めどなく熱いものが伝わった。
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