蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~

南野海風

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179.妻とゆっくり話すべき案件

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 私が「木の魔獣はどうだった?」と問うと、アーレは盃に酒を注ぎながら言った。

「――大して強くなかったが、相性というものがあるからな。ああいうのは苦手な部族が多いんじゃないか?」

 朝早く魔獣討伐に出掛けたアーレが、まだ朝の内に錆鷹サク・トコン族の集落に戻ってきた。
 返り血も浴びていないし、見た目は出掛けた時とまったく同じなので、いつもより平和な帰還で待っている方は嬉しい姿である。足も特に汚れていない。

 そして早速酒を呑もうとしている。
 まあ、狩りから帰ったらいつもそうしている。なんでも生き物を殺した後は、怨恨の念が乗り移ることがあるそうで、酒でそれを洗い流す意味もあるそうだ。
 浄化の酒というらしいが……白蛇エ・ラジャ族の普段の呑みっぷりを知っている私からすれば呑みたいだけの方便にしか聞こえない。

「相性か。そんなに違うのか?」

「ああ。短時間で片が付く狩りと、長時間に及ぶ狩りの違いだな。キシンや錆鷹サク・トコン族は短時間が得意なんだ。
 白蛇エ・ラジャ族は両方できるというだけ……いや、結果だけ見るなら我らは長時間の狩りの方が得意なのかもしれんな」

 なるほど。

 足の速い動物が、いつまでトップスピードを保っていられるか、という話だな。
 足が速い動物は速度を出すために身体が特化しているから、持続力が低いと言う話は聞いたことがある。

 体力や集中力、筋肉の付き方とか、部族間でそういうのも違うのかもしれない。
 元は同じ人間のはずなので、加護の差だとは思うが。

 アーレは……まあ、執着心は深くて長そうではあるから、部族がどうかはともかく、彼女に限っては持久戦が得意そうではあるような気がする。

 狩りにはきっと、性格も影響があるんだろう。

「それで、オーカの腕は見つかったか?」

「……あったけど、おまえはあれをどうするつもりだ?」

「まだ明確には言えないんだが……」

 まさかオーカにくっつけて治るかどうか試したい、とは、なかなか言いづらい。
 人体実験もいいところだし、倫理的に受け入れられないと言われる可能性もある。

 そもそも、元はただの思いつきだ。
 治せるかどうかも怪しいのだから、期待だか不安を煽るようなことは言いたくない。

「まさか食うのか?」

「え?」

「オーカの腕を食うのか? 我に食わせるつもりか?」 

「えっと……なんの話かわからないけど、食べるつもりはないよ」

「本当だな? 美味しく料理して我に食わせたりしないだろうな?」

「しないしない。そもそもオーカの腕はどういう状態だったんだ? 食べられるような状態だったのか?」

 夏場だし、失って数日経っているし。
 腐っていてもおかしくないはずなのに、アーレのこの反応は……

「あとで見せる。おまえがどうするか怖くて、持って帰ってこれなかったんだ。今はキシンに預けている」

 そ、そうか……なんでそんな心配をしたのかがちょっと気になるが。そこまで妙な物は食べさせていないはずなんだがな。

「腕は血を吸われて、カラカラに乾いていたぞ」

 なんだって!

「腐ってなかったのか!?」

 だったら、もしかしたら本当に戻せ――

「おいレイン! おまえやっぱり食う気だろう!?」

「えっ!?」

「急にやる気になってなんのつもりだ! 干物だと喜んだだろう!?」

「ええっ!?」

 どうやら妻とはゆっくり話し合う必要がありそうだ。


 ――だが、この件は一旦置いておこう。

「腕をどうするかは近い内に教えるよ。それよりオーカの意識が戻ったんだ」

「死にそうだった錆鷹サク・トコン族の族長がか?」

「昨日の夜中にな。それで、現状を話したらアーレに会いたいと言っていた。今は休ませているが、昼頃には起こすことになっている。
 その時に、今後の話し合いをしたらどうだろう?」

 それが終われば、もういつ帰ってもよくなる。
 今は戦の季節、族長が集落を離れるのはあまりよくない。

 強さで族長に選ばれた者が、激戦の時期に不在で戦わないのでは不満が募る。
 早めに帰らないと。

 私だって早く帰りたいしな。家族が待っているし、サジライトも待っているから。一日一回は撫でたいし愛でたい。

「ではそうするか。昼まで少し休む」

「わかった」

 私も看病から帰ってきたところなので、少し休もう。




 そうして二人で午前中は休み、午後から再び活動を開始する。

 まずは、アーレと共に神事シラの間に行き、族長オーカと話し合いだ。



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