私がネズミになって世界の行方を見守ってみた

南野海風

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65.平凡なる超えし者、更なる兄の汚さに感心する……

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「――うそだろ……」

 両膝を着き、驚愕の感情を隠そうともしないイケメン――攻略キャラ・ラディアスは、声は聞こえないものの、間違いなくそう呟いた。
 
 目の前に立ち塞がり、今、己を打ちやぶったヘンタイを見上げながら。

 そう、嘘みたいだが、勝ってしまったのだ。謎の美少女剣士が。うちの兄がすいません。

 激しい打ち合いにもなったし、兄アクロも何発か貰ったが、それでも結果的はごらんの通りだ。
 小ざかしい目くらましを駆使した兄が、ラディアスの腕を打ち据え、剣を落とさせた。
 それで勝負ありだ。

「――」

 兄アクロは毎度のように帽子を取っての礼をし、颯爽と控え室に引っ込んだ。
 大声援を浴びながら。
 くそ、後ろ姿が憎らしいほどかっこいいな。アクロディリアの美貌をヘンタイに利用しやがって。

 ラディアス的には、負ける気はなかったんだろうね。
 わかるよ。
 剣の腕だけ、実力差だけを見れば明白だったから。

 ただ、思いのほかタフだったよね。兄アクロ。

 兄アクロは、倒れてもいい攻撃を何発か、実際倒れるほどの攻撃も何発か貰っている。ラディアスはいい戦い方をした。間違いなく。
 ただ、並の相手なら倒せただろうそれでは、倒せないほどタフだっただけだ。

 想像以上にやられ慣れしている。
 なんというか、一撃で倒れるような致命傷だけは数センチはずしてダメージを軽減するような、肉を断たせてって身のこなしをしていた。
 あんなギリギリのやり方は、よっぽど攻撃を食らってきた者の戦法だ。避けられない攻撃なら最小限に抑えよう、って感じのね。

 言わせてもらえるなら、不憫な能力だなぁ。何があったかは知らないけど、きっとやられすぎだよ。お兄ちゃん。

「……」

 あと、ラディアスも不憫だわ。
 失意のまま足取り遅く去っていく姿がまた悲しい。
 コンプレックスの象徴である兄弟に挑めるラストイヤーの闘技大会で、まさかこんな結果になるとは思わなかっただろう。

 うちの兄がごめんね。ほんとに。
 



 謎の美少女剣士サンライト仮面とラディアス・マイセンの試合が終わり、大会は続く。
 といっても、すでに準決勝である。残りの試合数は少ない。

「……大丈夫?」

「大丈夫じゃないって言ったらなんとかしてくれるの? 余計なこと言わないで野蛮なものでも見てなさいよ」

 うお……愕然としていたアクロディリアが、いよいよイライラしてピリピリし出した。
 なんかもう怒りが湧いてきたのだろう。
 なにやってんだあのヘンタイ、って。

「まあまあ、落ち着きなよ。イチゴ食べる?」

「はあ? い、いちご?」

 私は掌いっぱいの大きさのイチゴ……そう、私たちの世界で言うところの「あま○う」的なものを生み出してみた。
 どうだこの鮮やかな赤い色とツヤ。たまらんだろう。

「これイチゴなの? こんな大きいの見たことないわ。というかどこから出したの?」

「いてて」

 手品のネタを探すのは結構だが、地味に手首の間接を極めないでくれ。

 まあ何はともあれ毒気を抜くことには成功したようで、アクロディリアは巨大イチゴを訝しげな顔で受け取った。

「大きければいいってものじゃないのよ。どうせその辺で買った安物…………フン。悪くないじゃない」

 そりゃそうだろう、味もできるだけ再現してあるからね。あ○おうナメんなよ。超うまいイチゴだぞ。

 もう一つ生み出し、私も食べてみる。うーんうまい。そういえば一粒ウン万円というイチゴもあるらしいけど、さすがに食べたことはない。食べたことがあれば再現できそうなんだけどなぁ。

「……ねえ、あなたは貴族なの?」

 二人してちまちまイチゴを齧っていると、初めてアクロディリアから会話を振られた。

「貴族に見える?」

「いいえ」

 お察しの通り庶民です。

「ただ、普通ではないとは思っているわ。ただの庶民とも思えない」

 それは「人間じゃないこと」を指しているのか、それとも私弓原結の立ち居振る舞いを見ての意見なのか。
 まあどっちのことにしろ、私の答えは変わらない。

「生憎、ただの庶民だよ。身分なんてないよ」

 欲しいとも思わないしね。
 結局私は「ただの弓原結」以外にはなれなくていいんだろう、とも思うし。身分だのなんだのは、私には身に余るわ。

「たとえばだけれど」

 ん?

「たとえば、わたくしが庶民の生活をするとなると、何ができると思う?」

 …………え?


「おうちが没落するの?」

「しないわよっ。たとえばの話だって言っているでしょっ」

 あ、そう。いや、結構真面目に聞いたんだけどね、私は。だってアクロディリアは没落するってシナリオを知っているから。
 
 でもこの反応を見るに、それはないみたいだ。
 仮にそういう話が裏で進んでいたとしても、アクロディリアはまだ知らない。

 どんな意図がある質問なのかわからないけど、私が危惧するような背景はない、かな?

「何か、ねぇ……なんでもできるんじゃない?」

「なんでもって何よ」

「だって何ができるかなんて知らないし。でも人間なんてその気になればできないこともできるんじゃない?」

 悲しいけど、才能の有無ってのも大きいからね。
 やれば何でもできる、とは言えないけど。
 でも結局できるかできないかは、やってみないとわからない、ってのは確かだと思う。

「……たとえば、たとえばだけれど」

 うん。

「りょ、料理人とか……できるかしら?」

 ほう。料理人。

「できるんじゃない?」

「簡単に言わないでよ。そんなに簡単だとは思えないわ」

「だろうね。だから結局、本人のやる気次第でしょ? 料理人になるまで努力する気があるのかどうかだよ。君自身が決めることだよ」

 で、個人的に言うなら、案外向いてる気はするけど。
 アクロディリアが料理している風景も見たことあるし。
 レンの包丁さばきが怖すぎたのが強く印象に残っているが、アクロディリアは可もなく不可もなく、黙々と野菜を剥いたりしていた。案外手先は器用なんじゃなかろうか。

 あと、貴族だから美味しいものは食べてきたでしょ。
 だから美味しいものを知っているでしょ。
 部屋の調度品を見るに美的センスも良さそうだ。盛り付けに活きるだろうね。

 しかし料理人か。料理人ねえ。

「なりたいの?」

「強いてなりたいわけではないわ。ただ……」

 アクロディリアはチラリと、王様たちがいる方向を見た。

「……いえ、なんでもないわ。今の話は忘れて」

 …………

 料理に執心だったのはラインラックだ。
 アクロディリアと比べるなら、料理人になりたい気持ちがあるのは、ラインラックの方だろう。

 ……あれ?

 もしかしてラインラック、国と身分を捨てて庶民に……料理人になる気か?
 で、アクロディリアはそれに付いて行きたい、みたいな?

 …………

 考えすぎかな。私の推測はただの憶測だ。




 そんな話をしている間に、ついに決勝戦となった。

 決勝は、謎の美少女剣士サンライト仮面対アルカロール。お兄ちゃんとアルカがやりあうことになるみたいだ。

 いやあ……予想外も予想外というか、こんなことになるとはなぁ。

 もしかして、お兄ちゃんが優勝するのか?
 いや、私の予想が当たっているなら、難しいか?

 ここまでで疑問に思っていたことがある。
 兄アクロが操る「照明ライト」は、本人は眩しくないのかってことだ。

 明らかに自分も影響を受けるだろうタイミングや場所に、光を生み出していた。
 なのに兄アクロはまったく光を無視していた。
 その都度目を瞑っているのかとも思ったが、目が開いていたのは見ていて確認できた。

 仮説としては、自分は影響を受けない、ってことだ。
 これはたぶん当たっていると思う。
 自身の「照明ライト」は眩しくない。あるいは他人より優しい光に感じるのかもしれない。

 だとすると、二つのケースが考えられる
 術者だから影響を受けないのか、それとも光属性の耐性が関わってくるのか。

 前者ならまだいいが、もし後者が理由で兄アクロが「照明ライト」で自爆しないのであれば、それは同じ属性を持つ者にも適用されるだろう。

 即ち、同じ光属性持ちで同じ耐性があるだろう主人公アルカには効かない、ってことになる。

 まあ、仮に効いたとしても、なぁ……

 アルカは強い。
 地味で目立たないが、本当に安定した地力がある。
 お兄ちゃんみたいな一芸を特化した外道ではなく、正道で強い。
 単純な戦闘力でも訓練の数や質でも経験でも、圧倒的な差があると思う。

 正攻法では勝てないだろう。
 だとしても、唯一無二の武器だった光も効かないとなれば、お兄ちゃんに勝機はまずない。
 仮に光が効いたとしても、ここまで来る間に、攻略法の一つや二つは考え付いているだろう。散々見てきただろうからね。

 果たしてお兄ちゃんは、この局面にどう対処するのか――

「あ……」

 マジか。マジかお兄ちゃん。いったい何度妹を驚かせるつもりだ。

 でもちょっと安心したよ。
 勝負を投げる気なんてなくて、ちゃんと勝つ気・・・・・・・、あるんだね。




 八割九割くらいオーディエンスを味方に着けてしまった謎の美少女剣士サンライト仮面は、怒号の嵐が巻き起こる会場へ現れた。

 ゆっくりと歩きながら。

 剣を捨て。

 手袋を捨て。

 革のコートを脱ぎ捨て。

 最後に帽子を捨てた。

 白いブラウスに首元にはスカーフ、茶色い革のベストに黒のパンツ姿という、ジャケットを脱いだ正装という格好になった。

 身につけていたものを脱ぎ捨てていく様に驚いていたアルカの前に立つと、黒髪を首の後ろで一つにまとめるように結ぶ。

 いやあ、本当にアレだね。
 お兄ちゃん、かなりずるいね。

 薄笑いを浮かべてアルカを見ている謎の美少女剣士は、明らかに圧を掛けている。

 ――私は丸腰ですけど?
 ――丸腰の相手に武器を持って挑むの?
 ――プロの冒険者が?

 ――それ、この状況で許されるの?

 大衆を味方につけたヘンタイは、大衆を利用し、自分の有利になる状況に持ち込もうとしている。

 ずばり、素手での勝負を、と。
 殴り合いを、と。

 素手喧嘩ステゴロで決着つけようぜ、と。

 もしこの状況でアルカが剣で戦えば、きっとシャレにならないブーイングが起こる。
 なんならどこぞの海外サッカーチームのサポーター張りに、派手に暴れる輩も出てくるかもしれない。

 きったねえなぁ。
 お兄ちゃん、向こうでボクシング始めたもんね。

 剣での戦いでは絶対に負けるけど、お互い素手での殴り合いなら勝機がある。
 そう考えたんだよね?




「――仕方ないなぁ」

 たぶんそう呟いたアルカは、苦笑しながら剣を捨て、まとっていたブレストプレートを外した。

 え?
 アルカって、殴り合いOKなの?

 明らかに、あんまり嫌がってないけど……






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