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64.平凡なる超えし者、えげつなさに見直す……
しおりを挟む対戦相手の冒険者が担架で運ばれ、兄アクロも舞台から去っていった。
覚めやらぬ闘技場の喧騒を置き去りにして。
光る剣。
一刀の下に叩き伏せた腕前。
異様な風体がかもし出す「只者じゃない」感。
まあ、話題にはなりやすいだろうね。これだけ注目を引く要素が揃えば。
おまけに仮面をつけてても美女だとわかる容姿だ。あと胸もでかいぞ。……別に悔しくないけど。
それにしてもアレだ。
「……かなりえげつないなー」
お兄ちゃん、凶悪な戦法を考えたな。
――正直、見直したね。
光る剣を繰る謎の美少女剣士の登場に興奮したまま、闘技大会は続く。
「――例年より盛り上がってますな」
「――うーむ……いったいあの仮面の剣士は何者なんだ」
後ろの貴族たちがそんな話をしていた。
そうか、例年より盛り上がっているのか。
もう誰が出てきても、どんな試合結果でも、派手な歓声が飛び交ってるからね。
「……」
「……大丈夫?」
「は? なにが? 全然だいじょうぶだけど? なにか変かしら?」
うん……なんかずっと目が虚ろですよ、アクロさん。
試合を見ているけど全然見てないようなぼんやりした感じで。……ほんと大丈夫か?
いろんな意味でよほどショックだったみたいだ。
さもありなん。
まさか自分の肉体を他人が動かして、あまつさえ闘技大会にヘンタイとして出ているってこの状況、なかなか受け入れがたいものがあるのだろう。
知った顔はほとんどないが、この闘技大会で固有イベントがある攻略キャラ・ラディアスが出ているのは確認した。
ごめんねーうちの兄が話題をかっさらっちゃって。
毎年出場している優勝候補でしかも超イケメンってことで、学校内外に女性ファンが多数存在するって設定だったはずだが。
今日の主役は完全にうちの兄ですわ。ごめんねー。
あと、主人公アルカも出場しているようだ。
地味だけど堅実に強い剣で、危なげなく勝ち抜いている。
まあ予想外のダークホースの存在はさておき。
シナリオとしては、ラディアスのイベントが進行してるってことでいいのかな?
確か、最上級生として最後の年の闘技大会で優勝し、その後に行われるエキシビジョン的な試合で、ラディアスは騎士となっている実兄と試合をする。
で、「絶対兄には勝てない」というコンプレックスを克服し、勝つと。
そんなシナリオだった。
ちなみにラディアスは三兄弟の末っ子で、今日勝つ予定なのは次男だ。将来有望な新米騎士だったっけな。
ヘンタイが出てくるたびに熱狂がすさまじいことになっているが、まあ、問題なく大会は進行していく。
…………
なんか王族の女の子が「サンライト仮面さまぁ~!」などと戯言を漏らしているのが聞こえた気がするが、まあきっと空耳だね。ああ空耳だとも。ええ、決して兄がお子様に、それも身分あるお子様に悪影響を与えたなどあるはずがないのだよ。ほんとだよ。
…………はっ。
いかん、色々考えていたら私もなんか言いえぬ脱力感に襲われ始めた。
もしや私も白目むいたり虚ろな目をしていたかもしれない。女二人並んで死んだ顔してるとか嫌だわ。
まあその困ったヘンタイだが、これも人の気も知らずに勝ち抜いている。
それも、話題になるほど派手に。
そろそろ戦える奴には兄アクロのトリックがバレてきた段階だが、私はむしろネタバレしてきても勝ち抜いている兄の小癪さに、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、舌を巻いている。
そう、兄アクロの戦い方は派手なのだ。
光が舞う。
剣が光る。
光の刃が飛ぶ。
何本もの光剣を宙に浮かべたりと、見るものをあっと言わせる戦い方をしている。
あれは「観客に向けて派手に見せている」のではなく、必要だからやっていることだ。
決して無駄ではなく、伊達でもない。
ましてやキャラ作りのための演出でもない。
むしろ逆だと考えた方がしっくり来るかもしれない。
むしろ光を使うために、怪しげな格好をした。
「なんかやりそう」って格好をして、本当に「なんかやってやった」というだけで。まあ正体も隠さないとまずかっただろうしね。
「始め!」
何度か勝ち抜いた双方……そこそこで負けとけば良かったヘンタイと、ラディアスの試合が始まった。
これは結果がわからないな。
剣の腕だけ、戦闘力だけで言うなら、完全にラディアスの方が上だが……
――最初に見た「光る剣」から、私はネタは見抜いたが、どうやら間違いないようだ。
一言で言えば、あれは「目くらまし」の光だ。
まあ思いっきり簡単に言うと、常に太陽を背に戦っているようなものだ。
不意の光、剣に重なる光、微妙にずれている光。
全ての光がフェイントであり、また、幾重にも積まれたトラップの一種。
更にそのフェイントは、引っかかろうが引っかかるまいが、じわじわと確実に目にダメージを与えてくる。
しかもお兄ちゃんの小癪なところは、時々本当に太陽光並に強い光を放ち、直視する者……対戦相手の視界を一瞬でも確実に奪うところだ。フェイントとしてじゃなく、攻撃に使うところだ。
しっかり見てないと普通に剣の攻撃が当たり、しっかり見ていれば目を焼かれる。
これが兄アクロの戦法のトリックだ。
うん、やっぱえぐいと思うわ。正道・王道とはかけ離れたえぐみがすごいわ。
剣の腕はまだまだだ。
やられ慣れはしているのか、相手への恐怖心はまったく無いようだが、一流どころか二流にもまだ届かない。
しかし、その確かな腕の差を、光の使い方によって埋めた。
あれたぶん「照明」の魔法でしょ? ただの明かりの魔法でしょ? ゲームで言えばレベル1から使えますって感じのやつでしょ? お兄ちゃん、面白いオモチャ見つけたね。
あれは子供騙しとかその場しのぎといった、思いつきのケチな戦法じゃない。
ちゃんと自分の戦い方に組み込み、考え、昇華し、形とした剣法の一種だ。一つの流派と言ってもいいかもしれない。まあ腕自体は未熟だけど。
この世界にサングラスとかあったら、通用しないアレかもしれないけど、もし剣法に組み込んでいるならその対策も練っているだろう。
……あれ?
意外と厄介だな。光の戦法。
気配だけで戦えるような達人じゃないと、かなりやりづらそうだ。
それにしてもアレだ。
ぬるい見込みでこんな大舞台に立とうと決めたのであれば、個人的には嫌だった。
いろんな理由を加味すれば、絶対に軽い気持ちで出場しちゃいけない立ち位置にいるしね。お兄ちゃん。
でもあのえぐみ走った戦法を見て、ちょっと安心はした。
あそこまで卑劣で姑息なくせに、それをさも「容姿へのこだわり」で正攻法に見せかけるやり方。
一言で言えば「えぐい」だけだが。
逆に言えば、何をしてでも勝ってやろうって並々ならぬ意気込みを感じさせる。
それでいいと思う。
たぶん引っ掻き回すのが理由なんじゃなくて、それなりに出場した理由があるんだろうと信じることはできるから。
……それにしてもほんとえぐいな。ラディアスだいぶ薄目になってるぞ。かなり嫌そうだ。
ところでお兄ちゃん。
その試合、勝っちゃってよかったの?
シナリオ的にさ。
10
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