42 / 50
42 二次回路
しおりを挟む
き、きゃああ――っ
……崩れる、くずれるっ!…
天女の姿の、娘たちが叫ぶ。
巨大生物のモザイク状の表皮が、つなぎ目から白い蒸気を吹き出しながら、内側の肉ごと、ブロック状に、次々と切り離されていく。
巨大生物の核と思われる部分が、一瞬、きらりと閃光(せんこう)を放つと、次第に、ちかちかと明滅を始めた。
と、同時に、真っ暗な空間とばかりに思われた周囲の空間が、真っ黒な無数のゼリーのようなブロックに分解して、上下と左右に、四方八方に、ゆるゆると分離を始めた。
二連ゴンドラが、三双とも、激しく揺さぶられる。
去りゆく周囲の、ブロックとブロックの間から、
……ほ、星や、銀河が、見えるよっ!… 権子(のりこ)が叫ぶ。
……う、上を見て… と主(おも)。
見上げれば、太陽電池パネルをグライダーの羽根のように伸ばした、通信衛星の姿が望まれた。
と、ぐっと下方への加速度がかかる。
きゃあ、落ちる、おちるよぉっ!!
二連ゴンドラが、激流下りのごとく、下向きに突っ込んでいく。
ゴンドラにしがみ付く娘たち。
眼下に広がるのは、筋状の白い雲の流れを浮かべた、青々とした太平洋をこちらに向けた、大きな地球の姿。
……二次回路が、開かれたようです!… と文(ふみ)。
……マルウェアは、崩壊させたけど、憲法の条文は、大丈夫なの?!… 激震の中で、権子が言葉を絞り出す。
周囲が、ちかちかと明滅している。
……こ、この信号は?!… 権子の問いに、
……ニュー・アトランティス国家の憲法条文。そのデジタル・データに、ち、違いありませんっ!… と文が、叫んで答える。
……平和条項は、大丈夫きゃい?!… と和水(なごみ)。
真奈が、青い領巾(ひれ)からホログラム・ディスプレイを立ち上げる。
……ダメです。アメリカの修正第二条『武器保有権』に、書き換えられてます!…
えっ、ええ――っ!!
……このままじゃ、軍事国家になっちゃう!…
権子が、振り返って、薄茶色のふわふわ絨毯(じゅうたん)が、通信衛星の周りをめぐって、じゃれ付いているのに、気づいた。
……あれって?…
……ひょっとして、です… と主。
娘たちが、うなずき合う。
せぇ――え、のっ
……ね、ネコぉ――っ! こっちに、おいで――っ!…
娘たちが、自分たちの領巾を、ネコじゃらしのように振りながら、
……ネコ――っ、あの、キラキラ光るコア、輝くネズミを、捕っておいで――!!…
ふわふわとした絨毯の下に、左右に並ぶ光点が、きらりと現れ、笑うかのように瞬(またた)いた。
……崩れる、くずれるっ!…
天女の姿の、娘たちが叫ぶ。
巨大生物のモザイク状の表皮が、つなぎ目から白い蒸気を吹き出しながら、内側の肉ごと、ブロック状に、次々と切り離されていく。
巨大生物の核と思われる部分が、一瞬、きらりと閃光(せんこう)を放つと、次第に、ちかちかと明滅を始めた。
と、同時に、真っ暗な空間とばかりに思われた周囲の空間が、真っ黒な無数のゼリーのようなブロックに分解して、上下と左右に、四方八方に、ゆるゆると分離を始めた。
二連ゴンドラが、三双とも、激しく揺さぶられる。
去りゆく周囲の、ブロックとブロックの間から、
……ほ、星や、銀河が、見えるよっ!… 権子(のりこ)が叫ぶ。
……う、上を見て… と主(おも)。
見上げれば、太陽電池パネルをグライダーの羽根のように伸ばした、通信衛星の姿が望まれた。
と、ぐっと下方への加速度がかかる。
きゃあ、落ちる、おちるよぉっ!!
二連ゴンドラが、激流下りのごとく、下向きに突っ込んでいく。
ゴンドラにしがみ付く娘たち。
眼下に広がるのは、筋状の白い雲の流れを浮かべた、青々とした太平洋をこちらに向けた、大きな地球の姿。
……二次回路が、開かれたようです!… と文(ふみ)。
……マルウェアは、崩壊させたけど、憲法の条文は、大丈夫なの?!… 激震の中で、権子が言葉を絞り出す。
周囲が、ちかちかと明滅している。
……こ、この信号は?!… 権子の問いに、
……ニュー・アトランティス国家の憲法条文。そのデジタル・データに、ち、違いありませんっ!… と文が、叫んで答える。
……平和条項は、大丈夫きゃい?!… と和水(なごみ)。
真奈が、青い領巾(ひれ)からホログラム・ディスプレイを立ち上げる。
……ダメです。アメリカの修正第二条『武器保有権』に、書き換えられてます!…
えっ、ええ――っ!!
……このままじゃ、軍事国家になっちゃう!…
権子が、振り返って、薄茶色のふわふわ絨毯(じゅうたん)が、通信衛星の周りをめぐって、じゃれ付いているのに、気づいた。
……あれって?…
……ひょっとして、です… と主。
娘たちが、うなずき合う。
せぇ――え、のっ
……ね、ネコぉ――っ! こっちに、おいで――っ!…
娘たちが、自分たちの領巾を、ネコじゃらしのように振りながら、
……ネコ――っ、あの、キラキラ光るコア、輝くネズミを、捕っておいで――!!…
ふわふわとした絨毯の下に、左右に並ぶ光点が、きらりと現れ、笑うかのように瞬(またた)いた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる