ぼくとぼくたち

ちみあくた

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 力を合わせて算数の宿題を終わらせ、クラスで一人だけ全問正解。先生や友達をビックリさせた後……

 「元の世界の明くん」と「算数の得意な明くん」は、半月かけて、鏡の向こう側の少しずつ違う世界ヘ次々と訪ねていきました。
 
 そして、それぞれ違う世界の「明くん」七人と出会い、事情を話して、お互いに助け合うグループの輪を作っていったのです。

 どの「明くん」にもそれぞれ苦手な事があり、それぞれ得意な事がある。だから、もし誰かピンチになったら別の「明くん」に力を借りる。

 言わば、パラレルワールド内の明くん組合です。

 「元の世界の明くん」は、何しろ怠け者なので他の世界の「明くん」を助ける特技は何一つ無かったのですが、気後れするどころか、誰より大きな顔でいばっています。

 何といっても魔法の銅鏡と鏡台をもっているのは、全ての次元で「元の世界の明くん」だけ。

 どうやら他の世界では、おばあちゃんから銅鏡と鏡台をもらうイベント自体が発生しなかったらしいのです。

 その魔力でみんなが助かっているのですから、他の世界の「明くん」は誰も逆らえません。





 それから先、「元の世界の明くん」は、自分勝手な都合で、他の世界の自分自身を都合よく使い続けていきました。

 例えば、こんな調子です。

 算数のテストがある日には算数の得意な「明くん」と入れ替わり、運動会の朝には足の速い「明くん」と交代。
 
 「元の世界の明くん」は、入れ替わった「明くん」の世界へ行き、代りに学校へ行くのですが、試験の日程や授業の内容が少しずつずれていて、短い時間の中なら何とかごまかす事ができます。
 
 それを繰り返すと、「元の世界」では何をやっても誰にも負けなくなる。

 いつも全科目でクラス一番の成績。同級生の人気も抜群。あだ名は「ムテキの明くん」に変わり、少し前のイケてない姿とは大違いです。

 別に勉強なんかしなくても大丈夫!

 運動しなくても全然平気!

 ぜんぶ他の世界の「明くん」達に任せればオールOK!!

 何時のまにか「元の世界の明くん」はお父さんやお母さん、先生の言う事まで聞かなくなりました。

 それでも優等生ナンバーワンだから、誰にも文句も言われないし、誰からも叱られない日々が続いたのです。

 たった一人だけ、鏡の奥の暗い場所から悲しそうに見つめるおばあちゃんの影以外は誰も……





 そんな毎日へ慣れてしまったある日、想像もしていない事件が起きました。

 始まりは、夏休みの前にたくさん出た宿題を、休みの間は全然やらず、お休みの最終日になってから「元の世界の明くん」がまとめて片づけようとしたこと。

 いつものように他の「明くん」達を連れてきて、ボクの宿題を終わらせてよ、と王様のように命令しました。

 でも、今年の宿題は難しい。

 特に算数なんか、檄ムズです。
 
 しかたなく「算数が得意な明くん」を一人だけ夜中まで残し、自分の世界へ帰りたがると怖い声で言いました。

「ぼくに逆らうなら、もう鏡の力を使わせてあげないよ。君、元の世界へ二度と帰れなくてもいいの?」

 そんな風に脅されては、協力しないわけにはいきません。

 やっと夜の9時過ぎに夏休みの宿題を全部終え、「元の世界の明くん」は合わせ鏡を使って、「算数の明くん」を自分の世界へ戻したのですが……





 でも、その世界はいつもと違っており、真っ暗な家の中には誰もいません。

 息子が夜になっても部屋へ戻らないのに気付いたお父さんとお母さんが、街へ探しに出かけ、途中、酔っ払い運転のトラックにひかれてしまったのでした。

 お隣から事情を聞き、車で送ってもらってすぐに救急病院へ向かいましたが、すでに手遅れです。

 「算数の明くん」は、霊安室で顔に白い布を掛けられたままのお父さん、お母さんを前に泣く事しかできなかったのです。





 「算数の明くん」が見舞われた哀しい事件を、「元の世界の明くん」も次の日、鏡を覗いて知りました。

 ショックで何も話せない「算数の明くん」を自分の世界へ連れて来た後、「元の世界の明くん」は、他の世界の「明くん」達にも次々と連絡を取っていきます。

 一つの世界で起きた両親の死が、他の世界へ影響を及ぼしていないか調べる為です。

 幸いな事に、他のどの「明くん」も親を失ってはいません。

 ほっとしたものの、一人だけお父さんとお母さんをまとめて失ってしまった「算数の明くん」が哀れです。

 事情を全員に説明し、他の世界の「明くん」もみんな「元の世界の明くん」の部屋へ集合、これからどうするか話し合う事にしました。
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