緋の残像 伝説の殺人鬼が恋人の心の奥で蘇る

ちみあくた

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ウェルカム トウ ラビリンス 2

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 守人の部屋の扉が開き、灯りが付いた途端、臨の口から「わっ」と自然に声が出た。

 壁にびっしり洋画のポスターが貼ってある。精巧なフィギュアがあちこちに飾られている様子は、映画マニアの存在感を色濃く漂わせている。

 臨が好きな映画のポスターも混ざっていたから、それなりにテンションが上がり、
 
「凄い! ちょっとしたコレクションじゃない」

 弾んだ声で言うと、守人は珍しそうな目で見返した。

「……何?」

「いや、こういうのを見ると、男子でもたいていは『引き』に入っちゃうから」

「引かないよ、あたし。マイナーが好みって言ったでしょ」

「DVDやブルーレイも珍品が色々あるんだ。良かったら、今度思いっきりマイナーな奴、紹介する」

 守人は趣味を共有できる喜びですぐにもコレクションを披露したい心境のようだが、今は優先事項が他にある。

 デスク上のパソコンを起動。ヒッピー男が残したメモを確認し、ブラウザの検索エンジンへIPアドレスを注意深く入力していく。
 
 最初は四本の巨大な大理石の柱を持つ建造物のCGが現れた。

 その門の部分を目指してマウスを操作。すると、間も無く液晶ディスプレイの画面が暗転し、その漆黒の最中から洋館の門を象ったCGが浮かび上がる。

 サイケデリックな色彩と和洋折衷の毒々しいデザインが印象的な趣向だ。

 人骨風のフォントを使う『タナトスの使徒』のロゴが、見るからに危ないウェブサイトという雰囲気を漂わせている。
 
「……趣味、悪っ!」

 臨が眉をしかめて呟いた。

 守人は困惑気味に、画面をマウスで探っている。

 どうにも先へ進めない。

 普通はコンテンツ間をクリック一つで移動できるし、そうでなくとも移動用スイッチが配置されている筈なのに、それらしい要素が見当たらないのだ。
 
「中のデータを閲覧するには、ど~したら良いんだろ」

 困った守人が助けを求めても、臨は眉をしかめたままだ。

「能代さんが大学の研究室で見たサイトもこれなんだよね? その時、どうやってコンテンツを表示したの?」

「あたしが見たのはブラウザの閲覧履歴をクリックして出た画面。開いた時、もう既に高槻君の情報が表示されてて、最初のページはスキップしちゃったんだと思う。一度閉じたら最後、次の日は同じ画面を出せなかった」

「履歴をもう一度クリックしても、ダメ?」

「それがね、ブラウザの履歴表示から『タナトスの使徒』の履歴だけ、何時の間にか消えてたのよ」

「マジ?」

「嘘っぽいけど、そ~いう事」

「なら最初に誰がサイトを開き、履歴を残したか、調べたら? パソコンを細工して履歴を消したのも多分、そいつだろ」

「勿論、他のゼミ生全員に聞いた。でも皆、自分じゃないって」

 精神神経医学教室で記録されたビデオカメラ映像は生徒の閲覧が許可されていない。

 入室には扉のパスワード入力が必要な為、部外者は関わっていない筈だが、パソコンの使用記録など一々残していない。誰が嘘をついていても確かめる術は無いのだ。

「……不思議な話だね。まるで、都市伝説みたい」

「うん、『タナトスの使徒』って元々陰惨な都市伝説をテーマにしていて、調べてみたら、存在自体が都市伝説めいてるのよ。同じ名のサイトがもう一つ在るって話も聞いたわ」

「同じ奴が二つ?」

「私達が日頃、普通にアクセスしている領域はサーフェイス・ウェブとも呼ばれてる。文字通り、表のネット空間って意味ね」

「表があるって事は、裏もあるんだ?」

「検索エンジンには引っかからないけど普通のブラウザでも行けるディープウェブと言う領域が在り、そのまた奥に特別なブラウザが必要なダークウェブってのが在るみたい」

「つまり、『タナトスの使徒』には表バージョンと、その裏バージョンがあって、棲み分けてるって事か」

「犯罪絡みの動画、例えば本物の殺人映像とか、爆弾や違法薬物の製造法をレクチャーした動画とか、ダークウェブの方にだけ有料会員専用でアップされてるって噂もあるわ」

「有料会員? どれくらいのお金が動くんだろ?」

「さあ、あくまで噂だから」

「ん~、サスペンス映画のファンとしては興味あるけど、今はこっちを何とかしないと」

 と言いつつ、守人の試みは空振り続きだ。ヤケクソ気味でマウスを動かし続けると、ある時、ふっと画面の色が変わる。

「あ、もしかして」

 画面を覗く臨の目が輝いた。

「さっきね、あの不気味な奴が残したメモの紙を月の光へかざしてみた時、チラッとペンタグラムの透かし模様が見えたのよ」

「ペンタグラム?」

「ほら、よくファンタジー映画に出てくる五芒星の形」

「でも、このメモは手帳の紙をちぎった奴だよね。透かしなんて入ってる筈が……」

 臨は笑ってメモを高く掲げ、蛍光灯の光へ向けた。

 うっすらと歪な形の五芒星が見え、何か特殊な塗料で手書きした形跡が伺える。

「市販の透かしペンを使ったみたい。わざわざ変な細工したんだから、何か必ず意味はあるよ」

「なるほど……」

「今、高槻君のマウスポインタが門のグラフィックを横切った時、チラッと画面が反応したから、そこにポップアップ・メニューが隠されているのかも?」

 ポップアップ・メニューとは、サイトの別のページや階層へアクセスする為、操作する者の一定のアクションに連動して現れる選択式のスイッチだ。

 守人は臨が指示するまま、門のグラフィック上に再びマウスを置き、ゆっくり五芒星を描いてみた。

 すると、門に鍵が差し込まれるアニメーションが表示され、重々しい効果音と共に左右へ開いて、別のウィンドウが現れる。

 洋館の庭を模す画面だ。

 サイケデリックな表紙のページと違い、ゴシック調の落ち着いた背景が描かれ、噴水や草花、小動物等のアニメーション効果付きCGアイコンが配置されている。
 
「……何だ、こりゃ?」

 ネットサーフィンは守人も好きだが、こんな仕掛けに出くわしたのは初めてだった。

 表紙の門と同じく、それぞれのCGイラスト上にマウスを載せ、動かすと、画面に何らかの反応が出る。

「隠しエンターって奴ね。特殊な操作にだけ反応するスイッチを画面へ埋め込み、その操作法を知っている人だけ先に行ける仕組み。実質的に深い階層へのアクセスを制限してるの」

「流石、理系女子!」

「もっと色々いじってみて。デタラメな動きで良い。ランダムなマウス操作の方が反応を引き出しやすいみたい」

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