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KEEP OUTの内側で 2
しおりを挟むその翌日の午前11時頃、富岡刑事からの連絡を五十嵐武男は自宅の書斎で受けた。
「おう、東京から東北へのとんぼ返り、ご苦労なこった。志賀進の行方は分かったか?」
富岡が電話を掛けている場所は、捜索令状を得て踏み込んだ志賀進の自室、兼、編集室である。
茜の部屋と負けず劣らず、酷い散らかり様だが、机ごと倒れたパソコンをセットし直し、アレコレいじって何とか起動させた液晶画面には『タナトスの使徒』トップページが表示されていた。
「今更ですが、例のサイトのサーフェイス・ウェブ版を運営していたのは奴に間違いありませんね。隠し棚から赤いレインコート、壊れた仮面も見つかりました」
「田島茜の殺害時に志賀が身に付けとった奴か」
「ええ、志賀は逃げる前に一度戻り、衣装を隠した様ですね。奴には神聖な品なのかも知れません。部屋は散らかったままなのに、仮面の凹みだけ丁寧に直してあったんですよ」
「サイトでも『赤い影』を崇め奉ってたからな。で、上はどう見てる? 言える範囲で教えてくれ」
応える富岡の声は浮かない調子だった。
「捜査本部は志賀を一連の事件、全ての主犯と見做してます」
「全ての!?」
「ええ、奴が管理するサイトの中で荒生岳、気仙沼の殺人を実況する動画が流れた、との情報を重視していて」
「十年前の事件との関係性は?」
「志賀が過去の殺人をネット解説するだけじゃ飽き足らず、自分自身で犯行を再現し、自ら管理するサイトにそれを流して見せたと言うのが上の見立てなんです」
「そいつに従えば『タナトスの使徒』に出た連続殺人の『予言』とやらは、志賀進の犯行予告って事になる」
「異常者の歪んだ承認欲求が生み出す犯罪の自作自演、一応、筋は通ります」
「その殺人動画の中身、直に確認できた訳じゃねぇだろ?」
「志賀の部屋に置かれていたサーバーのハードディスクをサイバー犯罪対策課で解析する手筈になっていますが」
「ふむ……もしかしたら動画のデータ自体、志賀のパソコンには無いかもしれんぞ」
「無い動画は流せんでしょう」
「だが、志賀が管理する『タナトスの使徒』は単なる入口で、そこでアクセス許可された者だけ選別し、殺人動画がある別サイトへリンクから飛ばしたという可能性がある。
その場合、別サーバーが用意されていたかもしれんし、極端な話、サーバーを他国の協力者へ任せていてもおかしくはない」
「なるほど」
「隅が作り上げたサイコパス・ネットワークの実体が把握できない以上、全て憶測の域を出んがな。ダークウェブ、言わば裏版の『タナトスの使徒』にしか核心部分が無いとしたら、実態把握は恐ろしく困難じゃ」
浮かない気分が伝染した様子で、五十嵐は溜息をついた。
「それともう一つ、気になる事実が判明しました。志賀は陸奥大学の学生を、今年の春の入学時点からマークしていたんです」
富岡の側で机の引き出しを調べていた笠松が、気を利かせて志賀のパソコンを操作、該当するデータを検索した。間も無くモニター画面へ若者達のデジタル画像が大量に映し出される。
「その学生の名は高槻守人。五十嵐さん、聞き覚え、ありませんか?」
「高槻というと、あの江戸川区の事件で、お前さんと一緒に生き残った小僧っ子……」
「まだ確認できていませんが、同一人物だと思います」
「わし以上に、お前さんにとって忘れられない名前じゃな。何せ殺人鬼から命がけで救った相手だ」
富岡は感慨深げに、パソコン上の守人を見つめた。
正面からの写真は一枚も無い。全て隠し撮りっぽいロングショットだが、富岡の記憶にある繊細で儚げな少年の面影は消えている。
少々おたくっぽい雰囲気はあるものの、友と語らう明るい笑顔が印象的だった。
「お前さん、あれから連絡を取った事は?」
富岡は言葉を濁した。勿論、ずっと高槻守人の消息を知りたかったし、事件後、深刻なトラウマを抱えてしまった少年のその後が心配で仕方なかった。
だが富岡の傷も浅くはなく、治療に時間を要している。
退院後、会いに行くには間が空き過ぎており、守人の両親が離婚協議の真っ最中で遠慮せざるを得なかったのだ。
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