『リスタート1980 ― 四十歳OL、昭和で未来を書き換える ―』

momo

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第1話 終わりと始まり

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 四十歳の誕生日は、いつもより少しだけ静かだった。

 佐伯真理、四十歳。
 都内の中堅企業で総務主任をしている。独身。子どもなし。特別な才能もない。
 若い頃は「いつか何かになる」と思っていたが、気づけば“無難”を積み重ねただけの人生だった。

「主任、これ明日までにお願いします」

 後輩が机に書類を置く。
 時計は二十二時を回っている。

「……わかった」

 それが私の人生だ。
 断らない。波風を立てない。期待しない。

 帰り道、コンビニで半額のショートケーキを買った。
 ワンルームの部屋で一人、ろうそくも立てずにフォークを刺す。

「おめでとう、私」

 その瞬間、スマホが震えた。

 緊急地震速報。

 南海トラフ巨大地震。

「え……?」

 次の瞬間、世界が揺れた。

 激しい振動。
 食器が落ちる音。
 天井が崩れる。

 視界が白く弾け――暗転。

 

 次に目を開けたとき、私は畳の上にいた。

 鼻をくすぐるのは、古い木材の匂い。
 視界に入るのは、ブラウン管テレビと柱時計。

「……ここ、どこ?」

 体を起こし、鏡を見る。

 そこに映ったのは――二十歳前後の私。

「え……若い?」

 混乱しながら部屋を見回す。
 見覚えがある。

 ここは、実家だ。
 千葉県船橋市。私が大学進学前まで住んでいた家。

 壁のカレンダーを見て、息が止まる。

 1980年4月。昭和55年。

「……は?」

 四十歳だったはずの私が、二十歳の身体で1980年にいる。

 それは、どう考えても“逆行”だった。

 

 そのとき、視界の端に淡い光が浮かんだ。

【時間逆行者を確認】

【未来記憶保持個体を認証】

【初期スキルを付与します】

「ちょっと待って」

【スキル:アイテムボックス(容量無限・時間停止)】

 半透明のウィンドウが消える。

 私は呆然と立ち尽くす。

「……何それ」

 半信半疑で、机の上のボールペンを見つめる。

 ――収納。

 ボールペンが、消えた。

「え?」

 ――取り出し。

 ぽとりと畳に落ちる。

 本当に、消えて戻った。

 しかも時間停止。
 つまり劣化しない。

「……チート?」

 私は深呼吸する。

 1980年。

 バブル前夜。
 インターネットもない。スマホもない。
 でも私は知っている。

 ・1986年からのバブル景気
 ・1989年のピーク
 ・1991年の崩壊
 ・1995年の震災
 ・2011年の震災
 ・2020年代の停滞

 全部、知っている。

 未来を。

 もし本当にやり直せるなら。

 私は、今度こそ流されない。

 無難な人生ではなく、自分で選ぶ人生を。

 

 ふと、心に浮かぶ疑問。

 ――あの地震は?

 2020年代で起きた南海トラフはどうなったのか。

 私が死んだから、この世界に戻った?

 それとも、これは別の時間軸?

 わからない。

 だが一つだけ確かなことがある。

 私は未来を知っている。

 そして、無限容量のアイテムボックスを持っている。

 

「……やるしかないよね」

 私は静かに呟いた。

 まずは資金。

 1980年代前半に伸びる企業。

 任天堂、ソニー、トヨタ。

 そして不動産。

 アイテムボックスは物流革命にも使える。
 食品保存、資材保管、災害備蓄。

 やり方次第で、社会そのものを変えられる。

 

 台所から母の声がする。

「真理ー? 朝ごはんできてるわよ」

 若い母の声。

 十年前に亡くなったはずの母。

 胸が締めつけられる。

「……うん、今行く」

 私は立ち上がる。

 四十歳の記憶。
 二十歳の身体。
 昭和55年。

 これは夢じゃない。

 

 人生二周目。

 今度は、後悔しない。

 私は襖を開け、昭和の朝へ踏み出した。

 

 ――未来は、まだ白紙だ。
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